風花 40 髪1本 | 緑の木陰で妄想日和

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相葉さんのお名前をお借りして
女の子といろいろ絡むお話。
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お話部分のみ、お引越し♪
この分野にご理解のない方はお控えください。

(40)髪1本

ハッとして身体を引いた。
相葉さんも同時に手を引っ込めた。
二人して顔を見合わせたまま動きが止まる。
相葉さんの顔を見上げて、動けなくなった。
どういうつもりで触れてきたのかいまひとつ読めない黒目がちの瞳は夜の暗がりの中でも黒々と濡れたように光り、逸らすことなくじっと私を見つめた。

どうやらそれは、ネックレスのチェーンの輪っかが前に来ていたのを直そうとしてくれたらしかったと、家に帰ってアクセサリーを取った時にようやく思い当たったけど。
でも、その時は、突然相葉さんに触れられて動揺した。
前にベンチで当の相葉さんからただの後輩だと言われてからずっと、そのことを自分自身に言い聞かせてきたのがいっぺんで無駄になるくらい、私は期待してしまった。

私が固まってるから相葉さんも動きを止めて、無言で見つめ合う。


どうして。
どうして、私にそうやって触れてくるの?
そんなことするから、バカな私が期待してしまうんじゃない。
私は元カノさんじゃないのに。
さっき考えてたことは棚に上げて、もう、私にそんなふうに構わないで、と思った。

でも、期待する。
浅はかな期待をしてじっと見上げる私に、相葉さんはもう一度意を決したように、手を伸ばしてきた。

ゆっくり近づいてくる指先に目が吸い寄せられて動けない。
指先が目の前まで迫ってきた時、耐えきれずに顔を背けた。
なに。
なにをされるの。
動けなくて、横を向いたまま、ただ相葉さんの指を待った。


額にかすかに長い指が触れたのを感じた。
指は、汗で顔に張り付いていた髪をすっと梳いた。
そして、そのまま手は離れていった。

いまの、なに。
泣きそう。

`彼ね、カノジョの髪を触るクセがあるの。知ってる?'

千秋先輩の声が頭に響いた。
私の顔が泣きそうに歪んだのを見て相葉さんはあわてた。

『ごめん』
相葉さんは謝った。
何を?
「…いえ」
なぜ謝るの?

`カノジョの髪を触るクセがあるの…'
`カノジョの髪を…'

千秋先輩の声が何度も響く。
どうして、何に、謝られたんだろう。

私が小さな声で否定したのを聞いて、相葉さんはすごく、すごく寂しそうな顔で、笑った。
これ、この笑い方を見るのは二度目だ。
心臓がぎしっと痛んだ。
唇を噛んだ。

もし相葉さんが私を好きで髪に触れてくれたのなら、謝ることなんてないはずだ。
カノジョでもないのにカノジョの代わりに髪に触れたことを謝ったのなら、それは酷いですねもうしないでくださいと言わなきゃいけない。
だけど本当に悪いのは勝手に期待した私のほう。


こんなのダメだもう耐えられないと思う一方で、髪ひと筋じゃなくその手でもっと触って欲しい、と強く思った。
抱き締めて、その大きな手で髪を撫でて、長い指で髪を梳いて。

気まずい沈黙が落ちた。
『…行こうか』
と掠れた声が聞こえた。
「はい」


駅まで行く間も、相葉さんは何も話してくれなかった。
『やっぱりS…駅まで、送っていくよ』
「ありがとうございます」
優しいけど、つらい。
前のように私が降りるS…駅の改札まで来てくれた。
そして、『気をつけて帰ってね。おやすみ』と穏やかに言って、手を振ってくれた。
さっきのことがなかったみたいに、優しい笑顔。

「今日はありがとうございました。おやすみなさい」
改札を出て、一度だけ振り返って笑ってみせて頭を下げた。
いまにも泣いてしまいそうだったから、それ以上振り返ることはできず、急いで角を曲がった。



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