(24)送ってくよ
結局、その日は午後いっぱいまでかかって相当な調べものをした。
もちろん全部一日でなんて無理なんだけど、あとはネットで拾えるデータを整理したり、その日に各資料から得たデータをまとめたものをパソコンに入力したりは別の日に各人でできる。全部終わったわけじゃないけど、疲れたけど、とても充実した気持ちで図書館を後にした。
『ありがとう。波奈ちゃんと一緒にできて良かったよ。休みの日に出てきてもらって悪かったけど、波奈ちゃんと一緒ですごく助かった』
そう言ってもらって、すごく疲れていたはずなのに、そんなのいっぺんで吹き飛んだ。
来てよかった。
「ありがとうございます。私もすごく勉強になりました。誘っていただいてよかったです」
『そう? 図書館くらい、いつでも誘うよ』
「はい。お願いします」
誘って欲しい。
本当は図書館とか勉強じゃなくて、恋人同士が行くようなところ、一緒に行ってみたいけど。
『結局一日かかっちゃったね。疲れたでしょ…良かったら晩飯も一緒に食べて帰らない?』
嬉しい。すごく行きたい。
でも。
「あ…あの、今日は、ちょっとこれから用があって…」
用事なんかなかったけれど、これ以上相葉さんと過ごして勘違いしそうになるようなことを言われたりしたら、私、自分を止められなくなってしまいそうで。
とっさに嘘を言ってしまった。
勿体なかったけど。
『そっか。じゃ、晩飯はまた今度ね』
「はい。ぜひ」
『じゃあ送ってくよ。線はいつものとこでいいんだよね。どこで降りるの?』
「S…駅です」
送ってもらうくらいは、せめて、してもらおうかな…食事は諦めるから、せめて。
『了解。S…駅まで送ってくね。駅からは近いの?』
「はい、駅近なんです」
休日の電車はいつもそんなには混まないのに、今日に限って何かイベントでもあったのかけっこう混んでいて、手すり近くが偶然空いたからそこに二人で立った。
『疲れたでしょ? 今日はゆっくり休んでね。あ、用事あるのか…ごめん、引き留めちゃって悪かったね』
「いえ、大丈夫です。相葉さんも、お疲れなのに送っていただいてすみません」
『いーのいーの。僕、慣れてるから』
「相葉さんすごいですね。いつもあんなにして勉強してらっしゃるんですか?」
『すごいっていうか…やんないと置いてかれるから、僕も必死。この仕事、好きだからやれてるんだろうね。今日は付き合わせちゃって悪かったよ。デートとか、大丈夫だったの?』
また、聞かれた。
私にデートの相手がいるかどうかなんて、もし興味があるのなら、期待してしまうから…困ってしまう。
「いえ。そんなのないです全然。誘っていただいて良かったです。相葉さんこそそんなに勉強してて、彼女さんは、怒らないんですか?」
どきどきしながら、禁断の質問をしてしまった。
『僕そんな人いないよ! じゃあまた、可哀想な僕と図書館デートしてくれる?』
「はい、喜んで」
今日の相葉さんはあの時みたいに悲しそうな顔になることはなくて、だからその明るい声を聞いたとたん、うるっと涙がにじんでしまって慌てて言った。
またそんな、デートとか。
勘違いしたくなることばっかり、言うんだから。
気付かれないよう、たくさんまばたきをして涙を乾かして、でも乾かしきれなくて下を向いた。
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