(22)図書館
相葉さんは待ち合わせにカフェを指定してくれた。
最近は暑かったり、急に雨がきたりと安定しない天気が続いているから、カフェにしてもらえるのはありがたかった。
でも結局、髪に時間をかけてしまったのと、メイクに迷ったのと、朝から焦ってしまって朝食のパンに添えたコーヒーをひっくり返したり(服が無事でよかった!) してたのとで、時間ぎりぎりになってしまった。
このあいだ買ったばかりの編み方が少し凝ったネイビーのサマーニット。それにあっさり膝丈のふわりとしたスカートでいつもとあまり変わり映えしないけど、図書館にはこのくらいがちょうどいい。
せめてものしゃれっ気にと、襟ぐりが広めなところに小さな石のついた細いネックレスをつけた。このくらいなら邪魔じゃない。
カフェに着いてみたら相葉さんもまだだったから、時間もちょうどだったしとりあえず店に入らないで外で待つことにした。
私の準備のために少し遅めの時間にしてもらってしまったから、きっと時間は足りなくなっちゃう。
ほんとはカフェに入って、ゆっくりお茶をして、相葉さんと差し向かいで話をしたり、したいけど。
間違っちゃいけない。
今日は勉強に来たし、相葉さんの邪魔をするわけにいかない。
私が着いていくらも経たないうちに、相葉さんも到着した。
『ごめんね。待った?』
「いいえ。今来たとこです」
なんでもないシャツに黒のパンツが、なんかすごくかっこいい。
こんな素敵な人と待ち合わせしてるなんて嘘みたい。
『中に入っててくれて良かったのに。暑かったでしょ?』
「ありがとうございます。ほんとにさっき来たばっかりなんで、入るヒマもなかったんですよ」
『そうなの? 喉渇いてるなら何か飲んでく?』
「いえ。時間なくなるといけないので、図書館行きましょう」
『そうだね』
にこにこ笑って優しく言ってくれる。すみません、私の用意のために勉強の時間を削ってしまったのに。
申し訳なくて、すぐに図書館に行くことを提案した。
相葉さんが指定してくれたカフェのあるビルは、そのすぐ前にバス停があって、そこから出るバスに乗れば5駅くらいで大きな図書館に着く。
そこはかなり充実した施設を持つ図書館で、この辺では一番大きい。
蔵書も充実しててパソコンもあるし広くて快適な建物だ。
最初に相葉さんからざっと説明を受けたあと、指示された通りにいろんな資料からデータを拾っていく。ネットももちろん使うし、ネットでは見られない資料にも目を通す。四季報とか業界雑誌や専門新聞とか、統計とか。
噂だけでここに来たけど、多分現実になるからちゃんと詳しく調べておいた方がいいという相葉さんのアドバイスのもと、様々な資料を元に情報をまとめた。
ネットで見られるものはそちらの方が便利だけど、ネットばかりじゃなく各種レポートや調査書もあれば見ておくといいと説明される。
やることはたくさんあったけれど、相葉さんの指示は分かりやすくてすごく勉強になった。
今後も自分がいろんな知識を得ようと図書館や本屋に行ったりしたときにはどうしたらいいのか、応用の利く基本的な取り組み方を指導してくれていることがよくわかった。
やっぱり相葉さんてすごい。
相葉さんにつられて夢中で作業をしていたらあっという間にお昼の時間になっていた。
朝からデート気分だった自分が嘘のように作業に集中したけれど、こんなにすぐにお昼の時間が来てしまったのはやっぱり待ち合わせの時間が遅かったからだ。
申し訳なくて謝った。
私の我がままで相葉さんの時間を奪ってしまった。
「すみません。やっぱり待ち合わせの時間、遅すぎましたね」
『ごめん、思ったより時間かかりそうだね。こっちこそ時間取らせちゃって申し訳ない。もし良かったら一度お昼食べてこようか。疲れたでしょ?』
私のせいなのに相葉さんは優しく労ってくれる。すみません…。
「スタートが遅かったのに私に説明しながらだから効率が悪くなってしまって、申し訳ありません」
『なに言ってんの。ちゃんと仕事のパートナーなんだから。波奈ちゃんに調査のノウハウを教えるのも僕の仕事なんだよ。休みの日にこうやってそれをやってくれるんだから、波奈ちゃんはえらいよ』
「ありがとうございます」
待ち合わせ時間のことはひと言も触れず、仕事なのにこんな風に言ってもらって、嬉しいやら申し訳ないやら。
こうやって仕事とはいえ休日も相葉さんと一緒にいられるなんて、幸せなことだ。
『さ。ちょっと息抜きしに行こ。せっかくだからちょっとおしゃれなとこ行こうか』
「いえそんな。時間もったいなくないですか?」
ランチは嬉しいけど、これ以上時間を無駄にさせてしまうのは申し訳なさ過ぎる。
『そんなことない。僕もたまにはそういうとこ行きたいよ。波奈ちゃん、僕に付き合ってくれる?』
そうやって気を遣わせない言い方をしてくれるのも優しい。
「わかりました、ありがとうございます」
こんなに幸せをもらってるんだから…カノジョになりたいとか、この間飲みに行った時の相葉さんの視線の意味を知りたいとか、贅沢なこと言ってたらバチが当たる。
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