(21)誘い
そんなことがあってからも仕事は毎日変わりなくやってくる。
パソコン操作やデータの呼び出しも、少しずつ相葉さんに教わったり真瀬さんに習ったりして、少しは出来るようになってきた。
データの整理、資料の作り方、いろんな資料の読み取り方も含めて、この課は覚えることが本当に多い。
常に自主的に勉強しておかないと、仕事の指示があってから知識を得ようとするのでは間に合わないこともたくさんあるから普段から気を抜けない。
早く相葉さんの役に立てるようになりたい。
同期の望くんはビシビシ、櫻井さんに鍛えられているし、へらへらしてみえる態度からは意外と思えるほどきちんと仕事はやる人だから、私も負けていられないと思う。
相葉さんも、いつも本を読んだり勉強したりしてるのを知ってる。
相葉さんの補佐するのが私の仕事だから、私ももっと勉強しなくちゃ。
そんなある日。
会社がある業界に関してのミニプロジェクトを組む、というのが噂になっていた。
その話題が出たときに相葉さんが、『例えメンバーに入らなくても、データ収集やその資料作りの依頼はいつ来てもおかしくないから、勉強しといた方がいいかもね』と言っていた。
それは噂とはいえ、わりと信用性のある情報らしく、社内でもかなり噂になっている。
その話題からほどなくして相葉さんから、図書館に誘われた。
『波奈ちゃん。今度、ミニプロジェクトが組まれる話、聞いてる?』
「はい、噂は聞いてます」
『僕も噂程度だよ。けど、その業界のことは今回のプロジェクトの話がなかったとしても知識はあっても損はないし、多分ね、その噂は本当だと思う』
「うわー。私、漠然としたイメージとかしかないです」
『でね、良かったら一緒に調べもの行かない? まずは図書館に行ってこようと思うんだけど、一緒に行かないかな、と思って。休みをつぶすことになるから無理にとは言わないけど』
「いいんですか? もしご迷惑じゃなかったら、ぜひご一緒させてください。相葉さんと一緒なんて勉強になります」
『良かった。休みの日まで僕と一緒じゃ休まらないからこっちこそ迷惑かなと思ったんだけど』
「そんなこと、ないです全然。ありがとうございます」
『じゃ、今度の土曜、駅近くのA…ビルの入り口のカフェはどう? 時間は…』
「あ、もしご迷惑じゃなかったら、10時でもいいですか?」
多分、私、朝から出かける準備に時間がかかってしまうだろう。
仕事なのに我がままだとは思ったけど、少し遅めの時間を申し出た。
きっと髪とかメイクとか、時間かかっちゃうのが目に見えている。
こんな我がまま、社会人として失格だけど。
『もちろん。じゃ、それで』
「はい」
ごめんなさい相葉さん。少しだけ、おしゃれさせてください。
どうしよう。
待ち合わせだ。
いやいや仕事だから。
でも、待ち合わせだよ?
メイクは。ネイルは。アクセサリーはどれにしよう。
浮かれてる場合じゃないけど、少しでも可愛いと思われたいし、仕事の邪魔にならない程度にはやっぱりおしゃれしたいし。
…やっぱり服を買いに行こう。
仕事が終わったあと、遅くまで開いている店に行ってみた。
時間もないのにものすごく迷ったあげく、結局いつもの自分のコーディネートになってしまったけど、図書館に行くくらいでデート用みたいに服を買っちゃうなんて、私、浮かれてる。
自分でもばかみたいと思う。
けど、少しでも相葉さんにいい印象を持ってほしいというのは、女子として当然の心理。
ショップの紙袋を下げて帰りながら、もう図書館に行くのが待ちきれない気がした。
→(22)