(19)お礼
『今日は本当にありがとうね。助かったよ』
席について、まずは相葉さんはそう言ってくれた。
「いえ、とんでもないです。たまたま佐藤さんのが早く終われたからだし、手が空いてればお手伝いするのは当然ですから」
そう言うと、相葉さんはゆっくりふわりと笑った。
目を見て、わかってるよとでもいうように。
『たまたまじゃないでしょ。ちゃんと、僕のフォローするために、今日の予定を早めに進めてくれていたんだよね。だから作業が始まったらすぐにサポートを申し出てくれたんでしょ?』
テーブルに肘をついた相葉さんは、両手を組んだ長い指に顎を乗せて、少し顔をかたむけて覗き込むように優しく訊いてくる。
その目は優しくて黒々と潤んでいて今にも吸い込まれそうで、思わずはいと言ってしまいそうになる。
「は…あ、いえ、たまたま」
ほんとに、そんな目で見つめられたら、なんでも洗いざらいしゃべってしまいそう。
『ふふっ。そう波奈ちゃんが言うならそういう事にしておこうか。でもそのたまたまのおかげで僕ほんとに助かったから。ありがとうね』
でないと今ごろは鬼の本部長にツノ出して怒られてたところだよ、なんて冗談言って笑わせてくれるけど、私こそ、相葉さんの手助けになることが出来て、本当に良かったと思ってる。
これで助力を申し出ておきながら書類にミスとかヘタなことをしてたら、かえって迷惑をかけてしまうんだから、今日私がお役に立てたのは、的確でわかりやすい指示を出してくれる相葉さんのおかげだ。
『さ、素晴らしいサポーターさんにはなんでも奢っちゃう。波奈ちゃん、何が好き? なんでも頼んでいいよ、お礼だから。大野さんの料理はなんでも美味しいよ』
「なんでも食べます。食いしん坊なんです」
好き嫌いなしの自分で良かった、と思った。
相葉さんの好物は唐揚げ。
私はポテサラ。
それから今日の大野さんのおススメ、メバルの煮つけ。
あとはこういうとこの定番、枝豆と冷奴。相葉さんはやっこには葱をたくさん乗せるのが好きみたい。
まずはビール乾杯してお疲れさまをする。
相葉さんが話してくれることはなんでも楽しくてたくさん笑った。
特に隣室の二宮さんは相葉さんと同期で、すごく仲がいいらしくて何度も話題に出てきた。
たぶん顔は見かけたことある。
相葉さんと一緒にいるところも何度も見た、色の白い小柄で少し猫背で、可愛らしい顔をした男の人。
二宮さんが社内バザーのイベントの時に客寄せにした女装したがあんまりキレイだから、会社の役員まで見物にきたと聞いて、似合うだろうなーと思ったり。
それまでは櫻井さんがその役をやってて若手にその役目を引き継ぐ時に相葉さんに話が回ってきたのに、なんとか二宮さんに押し付けたらことあるごとにそれをネタにいろんな手伝いや雑用を二宮さんに言われて断れないんだとか。
相葉さんは学生時代にバスケをやっていて、部室ではしゃぎすぎてて備品を壊してボール磨きさせられた話とか。
相葉さんと一緒だから何を聞いても楽しくて、何を話しても笑ってしまってしまいには腹筋が痛くなった。
『波奈ちゃん甘いもの好きでしょ? 後でデザートも頼んでいいからね』
「このお店なんでもあるんですね」
『夜は居酒屋だけどね、昼は喫茶店もやってるんだ。コーヒーも飲めるし。チョコケーキが絶品なの』
「そんなのまであるんですか? いいお店ですね」
『臨時休業が多いから、そこが玉にキズだけどね』
「おひとりでやってらっしゃるんですものね」
『大野さん、海釣りが好きなの。一度行っちゃうと帰ってこないから』
「それでメバル」
『そう。おいしかったでしょ』
「はい、すっごく。相葉さんもデザート、どうぞ食べてくださいね」
『ふふっ、ありがと。男で甘いの食べてるとか、引かない?』
「全然です。甘いもの、おいしいですよね。私も一緒に食べられるから嬉しいです」
やっぱり相葉さんは甘いもの好きに理解があるなー、なんて呑気なことを考えていたら。
『そっか。じゃあまた今度甘いもの食べに一緒に行ってくれる? そうしたら僕は堂々と注文できるでしょ』
喉からなにか出るかと思った。
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