メルカバ戦車の機動力(その1)暫定 | 軍曹!時間だ!…

メルカバ戦車の機動力(その1)暫定

「機動力」として一回で済ますはずだったが、ちょっと無理だったので三項目のうち「ロングストローク・コイル・スプリングによる独立懸架を採用」を「機動力(その1)」とする。

「暫定」なのは図等を入れる時間がないので今回はテキストのみである。

いずれ、画像等を入れる予定だ。

 

機動力について述べる。

 

その前に、メルカバ戦車は過酷な実戦の経験により、自らの兵器がどうあるべきかを判断し開発された。そして、ドイツのレオパルト2、アメリカのM1エイブラムス、イギリスのチャレンジャー、フランスのルクレール、更には日本の90式戦車、これらの第3世代戦車はイスラエルからの戦闘経験情報により自らの国の要求に合わせて開発されたものである事を忘れてはならない。

 

■ロングストローク・コイル・スプリングによる独立懸架を採用

 

トーションバーを使用しない理由はタル将軍が以下の2点について述べている。

 

1. 戦場修理性

実戦では地雷による履帯及び懸架装置の損傷が多い。その場で速やかに復帰させる際に戦車乗員自ら簡単な工具で交換作業が可能である。

2. 全周多重装甲構想

トーションバー懸架とした場合、転輪間ががら空きとなるため、何らかの防護処置が必要となるが、コイルスプリングを使用した外装式懸架装置はスプリング及びボギーブラケット(取付架)が防護材として機能する。

 

上記のように整備性及び防護性の要求から採用しているのであって、良好なトーションバーが作れないから仕方なく採用しているわけではない。

 

イスラエルは外装式懸架装置(一般的に「ボギー」とも呼ばれる)のM4中戦車(シャーマン)やセンチュリオン戦車、トーションバーを使うM48中戦車やM113装甲兵員輸送車(APC)との比較から「外装式懸架装置」に利点があるとして採用している。

 

実戦により、センチュリオン戦車の「外装式懸架装置」の堅牢性、整備性、防護性は高評価であったが、不整地走破性(戦場機動能力)に不満があり、センチュリオン戦車とは別形式の「外装式懸架装置」とした。

センチュリオンの「連成懸架」ではなく、「独立懸架」としたのである。

具体的には、ボギーブラケットにリーディングアームとトレーリングアームによる転輪を各々大小からなる二重コイルスプリングで支えたユニットを片側3組装着する。

前後の懸架ユニットはショックアブソーバーを備える。また、各アームのバンプストッパとしてタケノコばね(ボリュートスプリング)がある。

 

この方式により、不整地走破性の目安の一つとなる転輪トラベル長(転輪が上下する距離)がセンチュリオンの200mmから400mmと2倍になっており、レオパルト1の410mmに匹敵する。ちなみに、チーフテン戦車の転輪トラベル長は240mmである。

 

なぜか、メルカバ戦車(Mk.1、Mk.2)のサスペンションはセンチュリオン戦車に使用された「ホルストマン式サスペンションの改良版」と紹介されることが多いが、全くの別物で、その構造はむしろ「クリスティー式」に近い。

 

では、なぜ、一般的に「ホルストマン式」というのだろう?

一つは、センチュリオン戦車が採用していた「外装式懸架装置」を採用した。という事にある。

センチュリオン戦車がホルストマン社製の外装式懸架装置を使用していたから、単順に「外装式懸架装置」=「ホルストマン式」となる単純な理由だ。

もう一つは推測でしかないが、チーフテン戦車用に開発された油気圧懸架装置はメルカバ戦車のコイルスプリングを油気圧装置(油気圧スプリング)に変えただけの形状といえる。使用されていた油気圧スプリングは「ハイドロストラット」である。16式機動戦闘車にも採用されている「ハイドロストラット」はホルストマン社の登録商標である。

つまり、メルカバの懸架装置もホルストマン社製なのだろうか?

 

戦車マガジン1979年2月号に掲載の「“人命確保”の強力戦車 イスラエルのメルカバ」

に以下の記述がある。

 

走行装置は,メルカバ用として特に外国で製作されたもので,両側面6個の車輪が2個づつ懸架装置にセットされている。

 

「外国製」と書いてある。事実であれば、ホルストマン社製であろう。

 

当ブログ参照:戦車のサスペンション(その12)ホルストマン式サスペンション