わが良き友よ
二人の無言の会話が続いていた。
質問する前に答えが出て、それに合わせた質問があとから出てくるという考える隙を与えない卓球のラリーのようなやり取りで30年分の情報交換はあっという間に終わってしまった。
泣いたり笑ったりする暇はなかった。
『つまらん』
蔵人が声をあげた。
考える前に答えが先に出てくる無言の会話は、蔵人の思考パターンを揺るがせた。
『だろうね、足元をみてごらん』
蔵人は言われるままに前かがみになって
足元を見ると特殊な音によって波立たない足湯の水面はまさに明鏡止水、鏡になっていた。
そこに映った自分の顔を見た。
『えー❗️』
そこには25歳くらいの若い蔵人が映っていた。
『本当のクロちゃんはそんな感じだよ』
『あーっ❗️脳みそがー❗️』
『そろそろ出ようか』
杉井が言った。
『おっ❗️』
足湯から上がって足を拭こうとしたが足は全く濡れていなかった。
なんで❓️と思ったが、答えは現れず、蔵人はホッとした。
密林のような部屋を出て靴下を入れた引き出しを開けてみると緑色の光は消えていた。蔵人は足袋になっていることを期待したが同じ靴下だった。どこが別物だと思いながら椅子に腰掛けて左足から靴下を履き始めた。
『安穏雲♨️⁉️』
足湯の感触だった。
『別物だろ、でも靴下が変ったわけじゃないよ、クロちゃんの靴下に対する認識が変わったんだよ、靴下を履くことが引金になって安穏雲♨️の意識状態になれる。アノままだとまともに社会生活は送れないからレベルは落としてるけどね』
杉井はまだ言いたいことがあったがとりあえずここを出てから話すことにした。
『モーニング食べる?』
蔵人は黙って頷いた。
つづく


