"Quando as máscaras caem"
『お母さん❓️ママ❓️オフクロ❓️それとも母上❓️どう呼んで欲しい❓️』
"御手洗い"から帰ってきた志乃に洋美が不意討ちを食らわした。
『沙織姉ちゃんがいいわ、洋美ちゃん』
メイクを落として若返った志乃も負けてはいなかった。
目を潤ませながら"沙織姉ちゃん"というカウンターパンチを繰り出した。
『沙織❓️』
『私の本名、西浦沙織
あなたの母親の名前よ』
『やっぱりお母さんでいいや、お母さん』
『洋美ちゃん』
この瞬間、藤澤志乃はこの世から消え、西浦沙織が戻ってきた。
姉妹のようなバーテン姿の母娘の、修学旅行の枕投げのような攻防は、涙の抱擁で幕を閉じた。
『志乃さん、じゃなくて、沙織さん本当にお姉ちゃんみたい素敵だわ
本当はお何歳なの❓️
クロちゃんより、上❓️下❓️』
『いいえ、どちらでもありません』
『それじゃ還暦なんだ』
『誕生日も同じです』
『えー⁉️そんなー❗️』
蔵人はより一層仲間外れにされた気がした。
『久蔵さんとどこで知り合ったんですか』
こうなったら徹底的に追求してやろうと思った。
『うちの社員だったんですよ
10年以上勤めてくれていたんですが、全然変わらないんで、もしやと思って、呼び出してそれとなく訊いてみると、私と同じように職場での風当りが年々強くなっていることに悩んでいることがわかりました
そしてとても有能だということが風当りをより強くしていることがわかったので、現場から離して秘書にしたんです
そして私も同じだと打ち明けて、特殊メイクを落として素顔を見せたら、安心してくれて、だんだんと…その…こういうことになったんでやんす』
久蔵は顔を赤らめて答えた。
『歳を取らない以外に共通点はありましたか❓️』
『よくぞ訊いてくれました
二人とも小野先生の本をよく読んでました
歳を取らない秘密はそこにあると思っているんですが
どうでしょう、小野先生』
『そうねぇ、時間を忘れて読んで欲しいと思って書いているのは確かだわ
そして何回も繰り返し読んでもらいたい
そう思って自分でも繰り返し読んでるんだけど、読む度に書いた憶えがないことを発見するのよ
気のせいかな❓️自分で書いといて
アレなんだけど』
『実は私もそう思っていました
同じ本なのに読む度に違う印象でした』
しばらく沈黙が続いた。
『何か飲みましょうか
洋美ちゃん、お父さんと私にカクテル作ってくれない❓️』
『えーっ、いいの❓️面白そう』
『まずは名前から決めましょうか、考えてみて』
『そうね"剥げた化けの皮"なんてどう❓️』
『ちょっと飲みにくそうな感じだけど、まぁいいわ』
洋美はバーカウンターの奥に回り、沙織は隣に立った。
『じゃあ、ベースはどうする❓️』
沙織が訊くと、洋美は少し考えてから答えた。
『ジンはどう❓️』
『いいんじゃない
透明で、でも香りが強くて、隠しきれないものがあるからいいね
じゃあ、そこに何を重ねる❓️』
『ライムを搾って、少し苦味を
嘘をつくときの罪悪感みたいに』
『それから、赤い色も入れたい
泣いたあとの目の色みたいな』
『それならグレナデンシロップかいいわ
最後に、卵白を少し泡立てて
仮面のように表面を覆ってみようか』
洋美は材料を揃えながら、沙織の言葉に頷いた。シェイカーに氷を入れ、二人で交互に振る。
まるで過去と現在が混ざり合うように。
『できた』
グラスに注がれた液体は、淡いピンク色の泡をまとっていた。
仮面が剥がれた後の、素顔のように優しい色だった。
『名前は…横文字の方が似合いそうね』
『"Quando as máscaras caem"
なんてどうかしら❓️』
つづく






