前回「作詞・作曲した楽曲をJASRACに信託する場合の権利の流れ 」において、JASRACに作詞・作曲により発生した著作権を信託するケースを三つほど挙げました。
今回は、それぞれのケースをもう少し深く解説しようかと思いましたが、そもそもJASRACに権利信託をするということはどういうことなのか、ということが不明瞭ですと話しもわかりづらいかと思いますので、今回はまず権利信託というものについて解説します。
【著作権を管理するために譲り受けること】
「信託」という言葉は、本件のような権利信託のみならず、財産信託や投資信託といった言葉にも含まれているものとなります。この信託とは、わりと簡潔に定義してくれているコトバンクを引用させて頂くと、「他人 (受託者 ) に一定の目的に従って財産の管理または処分を行わせることを目的として,受託者に財産権の移転その他の処分をすること」をいいます。
コトバンク 信託
https://kotobank.jp/word/ 信託-82202
これをJASRACの権利信託に当てはめますと、「JASRACに一定の目的に従って著作権の管理又は処分を行わせることを目的として、JASRACに著作権の移転その他の処分をすること」といえるかと思います。
よって、JASRACに作詞・作曲・編曲の著作権を信託するということは、一定期間とはいえJASRACにそれらの著作権が移転することを意味します。その一定期間はJASRACが著作権者ということになるのです。
JASRACに著作権信託をするためにJASRACと締結する「著作権信託契約約款」においても、その第3条(著作権の信託)において、「委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転し~」とありますので、JASRACと結ぶ信託契約が有効な間は、JASRACに著作権が移転していることが確認できます。
著作権信託契約約款 JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/contract/1.pdf
【しかし全ての著作権が移転されるわけではない】
さて、上記のように、JASRACに著作権信託をするということは、JASRACに著作権が移転する事になるのですが、常に全ての著作権が移転するわけではありません。以前「歌詞や曲の著作権 」において書きましたが、そもそも著作権とは複数の権利の集合体です。そうした複数の権利の全てをJASRACに信託する場合もあれば、一部の権利だけをJASRACに信託するという場合もあります。この一部信託のことを部分信託とも呼びます。
権利を全部信託するのか部分信託するのかは、その楽曲ごとに著作権者側が設定することができます。例えばある楽曲については、音楽配信(インタラクティブ配信)とゲームソフトへの録音等の権利はJASRACに信託をしない、というような設定をすることができるわけです。
JASRACのデータベースをみるとそうした楽曲毎の権利信託状況というものを確認することができます。例えばきゃりーぱみゅぱみゅさんの楽曲ですと、およそ全信託になっておりますが、L’Arc~en~Cielさんですと「録音(CD・レコードなどへの録音)」「ビデオ(ビデオグラムなどへの録音)」「映画(映画への録音)」「CM(コマーシャル送信用録音)」「ゲーム(ゲームソフトへの録音)」「配信(インタラクティブ配信)」の権利についてはJASRACに権利信託をしておらず、L’Arc~en~Cielさんが所属しているプロダクションに権利が残ったままとなっている楽曲が多いことが確認できます(但しタイアップの関係等でテレビ局系列の音楽出版社からJASRACに信託をされている場合は、全信託になっている楽曲も多く見受けられます)。
作品データベース検索サービス JASRAC
http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/
ということで、今回はそもそものお話しとして、JASRACに権利信託をするということはどういうことなのか、ということを著作権の所在という観点から確認しました。次回は、こうしたJASRACへの権利信託がなされるケースというものをもう少し深く解説してみたいと思います。
【アーティストやタレント等の権利の取り扱いに関連する記事】
・<font size="3">作詞・作曲・編曲により発生する権利の実務上の取り扱い</font>
・作詞・作曲した楽曲の著作権をJASRACに信託する場合の権利の流れ
・JASRACに権利信託をするということの意味
【著作権事例Q&A】
・<font size="3">言語の著作物(書籍など)</font>
・<font size="3">ホームページ・ブログ</font>
・肖像権