気付くと沢山のご馳走で満腹になり、疲れ果てた少年少女達は、お嬢様の不思議な能力により、さらに巨大化したお姫様ベッドで雑魚寝していた、
すでに東の空はうっすらと明るみ始めていた。
起きて薄目を開けて日の出の方角を見ていた俺は、朝焼けを背に数人ほどの大人たちが歩いてきているのが目に入った。
全員仕立ての良い背広を着用している。
その内の一人は涼しい目をした、老紳士風。
しかし、驚くべきことに右手には銃が握られていた。
俺の視線に気づいた彼はにっこりと笑顔を浮かべた。
「この銃かい?これはAK-74M。我が国が世界に誇る高性能な銃だよ」
するとその隣にいた、長身で肩幅のある男も手に持った銃を差し出してきた。
改めて見渡してみると、ピシっとしたスーツには似つかわしくない銃を全員が所持しているのである。
「これは95式自動歩槍。作動メカニズムは現代一般的に利用されている、ショートストロークピストル式。ロータリングボルト方式を採用しているんだ。ハンドル上部には各種スコープ、ナイトスコープも装着可能で夜間の戦闘にも対応可能だ。そしてハンドガードの下にはグレネードランチャーを装備することができる。バリエーションも豊富で通常式を短くしたQBZ95B。ショットガンの発射可能な。。。」
「今北産業!!」
声の方に振り返るとお嬢さんが不機嫌そうな顔で頬を膨らましている。
「折角いい夢を見ていたのに、ほんっとうるさいわねえ。まだ日も出ていないじゃない。しかも、私のベッドで勝手に寝ているガキどもと同じつまらない話ばっかり。とにかく銃をしまいなさい」
つまらない話をするガキどもという言いぐさにはむっとしたが、この日本で銃を隠すこともなく堂々と所持していることに対しての非難には同意する。
すでに目を覚ませていた子ども警官と、警視総監殿は目を輝かせて銃の詳細を聞きたがっている様子であったが、お嬢さんの剣幕に押され何も言えないでいた。
「失礼、失礼お嬢さんや子どもたちに銃を見せるのはこの国ではあまりよくない行為みたいだね」
かなり太った体型で、のっそりと前に出てきた人物は申し訳なさそうに言った。
他のメンバーに比べて1~2周りは若そうである。
ベイビーフェイスというのも若見えを加速させているのだろう。。
「あんたもうちょっと痩せなさい!肥満は健康にも良くないし、何より女性にもてないわよ」
「ありがとうお嬢様。すでにモテモテだけど気を付けるよ」
そういうとにやりと笑って見せた。
公僕の二人は手に持った銃を見ながら、トカレフだのマカレフだのと囁きあっている。
ふと後方に気配を感じて振り向くと、朝焼けに顔を照らされた数人の紳士たちがゆっくりと歩いてきていた。
全体的に長身で、こちら側も全員高級感溢れるスーツを着用。そしてやはり全員が銃を携帯している。
「あ、あれはXM5にL85、いやL95式か?VEPRもあるぞ!」
警視総監殿と子ども警官は興奮を抑えきれず叫んだ。
「ヘイ、ボーイズ&ガール!ハウアユー」
先頭に立っていた白髪の紳士が白い歯を見せて挨拶してきた。
他の紳士たちもみな笑顔で、こちらに向かって爽やかな笑顔を向けている。
黒光りする銃のせいで爽やかな笑顔が不気味にみえた。
それにしても改めて顔ぶれを見回して見ると、全員テレビで見たことがある顔であった。
警視総監殿も、子ども警官もやや緊張した面持ちで彼らを見ていた。
「ダッシャッ!」
一発で耳鳴りを引き起こすような怒号がした。
いつの間にか起きていた猪木がスクワットを始めていたのだ。
「皆さん元気ですかーーーーッ」
突然の呼びかけにさすがに誰も答えなかったが、場の雰囲気は一変した。
東西の紳士たちの目に、闘争の炎が宿ったのだ。
「い、猪木さん、この場ではあまり元気を出すとまずいんでは。。。」
警視総監殿が必死に止めようと駆け寄ったが、猪木が止まるはずもない。
「やる前から負けること考えるバカいるかよ!みんなもっと怒ってみろよ!」
この一言で紳士たちの闘争本能に完全に着火した。
膝立ちやスタンディング姿勢を取り、全員が銃を相手陣営に向かって構えた。
東西冷戦時代が平和に感じるほどの、緊迫感が場を支配した。
ふと見ると西側の先頭に立っていた紳士が膝立ち姿勢になったため、後ろにもう一人誰かが立っていることに気付いた。
整った顔立ちに品の良い眼鏡をかけているが、バツが悪そうな顔をしている。
そして最も他の紳士たちと違うのは、所持しているのが銃ではなく警棒だということだ。
「て、てめえは!」
さすがに日本人でこの人を知らない人は少ないだろう。
通称増税眼鏡その人であった。
「文ちゃん元気~!?」
お嬢さんは、この異様な状況にも関わらず憶することがない。。
「これはこれはおはようございます。ご機嫌麗しゅうございます」
「固いわよ!私と文ちゃんの中でしょ!」
お嬢さんはウインクまでしている。
「め、滅相もございません。私などがそんなそんな。。。」
「行くぞーーーーーーーー!!」
少し場が和み始めたと安心していたらこれである。
やはり燃える闘魂アントニオ猪木とは流石に言えない。
両陣営射撃体勢に入った。
数人は地面に置かれた、ビジネスバックに手を伸ばしていた。
バックの中にはスイッチのようなものが付いた機械が入っている。
ふと注意書きのようなものがスイッチの横に貼られていたので、凝視してみたらこう書いてあった。
"are you sure of mind?"
場の緊張感が頂点に達し、とうとう一斉射撃かと思われた瞬間だった。
「ロイヤルラブアンドピース!」
両陣営の放つオーラがまるでビームのようにぶつかり合い、禍々しい色に染まっていた空間が、甘ったるいピンクに取って代わられた。
それと同時に左右からドサドサドサッと複数の落下音が聞こえた。
辺りを見回すと、全員子どもになっていた。
持っていた武器の下敷きになっていたものの何人かいた。
「あ、あんたもワンパターンだな。ネタ切れか?」
「子どもの心は純白。とても言葉で表せないような色に染まってしまった大人たちとは対極の存在よ。ここにいる全員が多少の違いはあるかもしれないけれど、平等に経験している少年時代。その頃あなたたちは何を思って生きていたの?出世?戦争?欺き?違うでしょ。明るい未来を描いていたはずよ」
「で、ではなぜピンク色に染まったのでしょう?」
「だって可愛いからよ」
誰かの小声の突込みにも、意に介さない様子で続ける。
「純白の心で語り合えばもしかしたら素晴らしいアイディアが生まれるかもしれないわよ」
辺りが静寂に包まれた。
「文ちゃんっ!寝てるの?」
彼女が呼びかけた先を見てみると、ショットガンの下敷きになっている子どもの後ろからむくりと起き上がるものがいた。
子ども警官の目が輝いた。
「あ、モスバーグ500だっ」
のそりと立ち上がった増税眼鏡こと文ちゃんは、モスバーグ500と呼ばれたショットガンを持ち上げ品定めをしている。
「う~ん。このグリップとシリンダー部分の木目が実に美しい。きっと名のある木工職人が製作に携わっているんだろうね。実用面だけではなく観賞用としても素晴らしい銃だね」
言葉ほど感動していない様子だったが、べた褒めである。
「に、日本でも正式採用するのでしょうか?」
警視総監殿が尋ねた。
「うむ。これは諸般の事情に鑑み、専門家の意見も仰ぎつつ、当然関係各所とも調整の上、慎重に検討してみるとしよう」
どうも脈なしである。
「それはそうとなぜ私だけが子どもになっていないのですか?」
「気遣いというものよ」
そういうとこちらに向かって目配せしてきた。
「お気遣いありがたい!ちょっと彼とは話がしてみたかったもんでね」
「何かね?なんでもお答えするよ」
眼鏡のズレを人差し指でクイッと直すと自信たっぷりの様子でこちらを見下げてきた。
続く