「さてととりあえず憲法14条については横に置いておいて、別の話題に移ろうか」
「今今、!今すぐ決めちゃいましょう!明日から施行よ!」
「まあまあ、一応日本は議会制民主主義だから選挙で投票して決めようぜ。民意は必ず君の見方をするだろう」
いきり立ち始めたお嬢様をなだめようとした。
「だ・だ・だ大統領になったらね、まずは渋谷でショッピングする~の♪好きなコーデで固めて、ソフトクリーム舐めながらぶ~らつ~くの~♪」

半笑いで聞いてた増税眼鏡氏もたまらず割って入る。
「申し訳ありませんが、今すぐにというわけにはいかないので現在開催中の通常国会の議題にしてはいかがでしょうか?もちろん専門家の意見も伺いながら慎重かつ適切に...」
「待てない、口だけ、いけしゃあしゃあ!国民投票なんてどうかしら~♪」
「それもらった!」
「でしょっ♪」
日本は大統領制ではないと突っ込むのを躊躇させたのは、ポップな曲調の割には彼女の歌っている表情に真剣味を感じたからだ。

「確実に節約にもなるぜ。国会の一日の運営費は約3億円という話がある。会期は150日。単純計算で450億円。もちろん費用は血税だ」
「しかし君、国民投票と言っても国民が投票場へ投票に向かう時間や、会場の設営費等々、確実に節約できるという数値的根拠はあるのかね?」
「流石昭和生まれ...」
とは言っても人の事は言えず、スマホのフリック入力をマスターするのに1年近くかかったことは内緒にしておいた。
「国民投票アプリなんて作ったらどうだ?誰もが暇な時間に1分程度で済ませられるぜ。少なくとも450億円未満に抑えられることは疑いようもないんじゃないか?」
「スマホネイティブ世代の私なんかは2秒かからないわよ」
お嬢さんをチラ見したあと一瞬税眼鏡氏と目を合わせたが、ともにコーヒーに手を伸ばし一口口に含んだ。
コーヒーには様々なポシティブな効果があるということを再認識した。

「簡単でないことは認めるぜ。伝統もあるしな。憲法や法律の発案等をする人間も必要だしな。それでも確実なコスト削減は可能なはずだ」
増税眼鏡氏は、腕を組み眉根を寄せ何事か思案している様子であった。
その表情を見つめながら俺は、ふと考えた。
国会議員の存在価値とは何だろう。
国民に投票され、国民の代表者として議会に立つ存在が国会議員である。

国会は立法の場所だ。
立法とは法律の制定や廃止をするという意味である。
であるならば、国会議員は法律や、憲法の専門家である必要はないか?
国会議員が全員、法学部卒の専門家でないことは言うまでもない。
昨今AIの発達により、無くなる職業一覧なるものを良く見かけるが国会議員もそのリスト入りするのではないだろうか。
どこかで政治の世界は金融資本家の代理戦争であると聞いたことがある。
政治家が話す言葉が、少数の金融資本家の言葉であるならば政治家は資本家が書いた脚本を演ずる役者に過ぎない。

「まあ、まあ。私も今は例の問題で厳しい立場であってだな。苦労しているのだよ」
「よく言うぜ!おっとここで一句」

”特捜部 やってる感を 見せるため 死人に鞭打つ 元安倍総理”

「君。そんなことはないぞ。今回は検事も閣僚にまで牙を剥いてきたからな。自民党自体が揺らいでおるのだよ」

”特捜部 やっぱり忖度 残念だ 与党幹部は 不起訴処分”

「あんまりいじめないでくれ。野党からも猛抗議を受けていてだな」

”かの党は やってる感を 見せるため 通るはずなき 不信任案”

「とにかく、国民からしたらもはや身内でじゃれあってるとしか見えないんだよ。三権分立なんて完全に形骸化しているという事を今回の件では暴露してしまったな。民主主義の基本的理念。人民の人民による人民のための政治、ちゃんちゃらおかしいぜ」

ほとんど一息で言い終わると、息切れがしてきた。
「まあまあ、落ち着きなさい。暑苦しいわよ」
見ると、いつの間にか用意した茶器で、伏し目がちに茶をたてていた。
場にいる別の人が興奮すると、別のものは逆に冷静になるというが国民投票にノリノリだった彼女が今は一番落ち着いている。

しばしのティータイムである。
和らいだ黄緑色の抹茶を飲むと、気分を落ち着かせてくれる。
3人は飲み終わると、丁寧にお辞儀をした。
「結構なお手前で」
そういうとお嬢様は微笑みを浮かべて丁寧なお辞儀を返してきた。
初めて見せる表情であった。

つづく