煙突にぶら下る金平糖は、サンタクロースが間違えた爺ちゃんのプレゼント。お凛がぜったい喜ぶと思っていたプレゼントだ。
爺ちゃんは金平糖を茶タンスに仕舞う事も出来ず、袋を開けてお凛に渡した。孫娘は、自分がもらったおやつのように手を入れ、口の中に放り入れると笑顔が膨らんでいく。
「のう、爺ちゃん。甘くて、うんまいぞ」
「そうだろ」
「爺ちゃんも、喰いたいんか」
「お凛。爺ちゃんは、ええ」
孫娘は甘い金平糖に満足している。爺ちゃんの頭の中では、今が完成の姿。これでクリスマスが無事に終わると思っていた。
しかし、おやつはおやつで、おやつは喰うものでプレゼントじゃない。孫娘は今もサンタのプレゼントを楽しみに待っている。
爺ちゃんは知恵を絞るが良い案は出てこない。村の商店で開いている店などない。窓を見遣れば、わた雪がモサモサと降っていた。爺ちゃんは窓の外を見ながら思った
『まず、晩酌でもするか』
爺ちゃんは、茶タンスのガラス戸を開け一升瓶を取り出し、ゴツゴツした茶色い湯飲みに注ぐと、砂糖をたくさん入れた。甘い甘い日本酒を箸でかき回し、一杯ひっかける。
『ん~……美味い』
爺ちゃんは湯飲みを片手に考え続ける。ストーブの中でバチバチ弾ける薪の音を聞きながら、思いついたのは
まず、寝かしつけること。
「お凛、もう寝る時間だ」
「うちは寝ないんじゃ」
爺ちゃんはお凛と言い争う暇はない。妙案も浮かば無いが、寝てくれないことにはプレゼントも探せない。
「サンタは寝ないと来ないんだ」
「ダメじゃ、また、サンタがプレゼントを間違うんじゃ」
爺ちゃんは、騙しにかかる。
「そうだお凛。ええ案がある」
「なんじゃ?」
「寝たふりをするんだ。そして、サンタが来たら驚かす。どうじゃ?」
「ほ~、ええ案じゃの」
お凛は寝床に向って走るとセンベイ布団に潜り、アゴの下まで布団に入った。大きな布団に、孫娘の小さな体が象られる。お転婆で困った孫娘だが、目に入れても痛くない孫娘。
爺ちゃんも立ち上がり、お凛の顔を見てニコッと笑い、襖を閉めようとした。
「爺ちゃん」
「どうした、お凛」
「ダメじゃ。襖を閉めたら本当に寝ちまうんじゃ」
「……」
爺ちゃんは仕方なくちゃぶ台に戻った。家の中でプレゼントになりそうな物を考えるが、幼い子供のおもちゃは、あるはずがない。納屋の中にも、お凛の知らない物はない。
さてさて、何をくれてやれば満足するのやら、そう考えていると薄暗い寝床から熱いものを感じた。ふと見やれば、お凛と視線が合う。孫娘は視線を逸らそうとしない。
「爺ちゃん、まだ来んのか?」
「……」
「サンタはどこに行ってるんじゃ。お富のうちか?」
今か今かと、ランランと輝きだす瞳
「お凛、目を閉じるんだ」
「イヤじゃ」
爺ちゃんは素知らぬ顔をして、湯飲みを握り晩酌を続けた。窓を見れば降り続ける雪はやむ気配もなく、深々と積もって行く。爺ちゃんは、甘い日本酒の力を借りて必死に考えた。
可愛い人形を作ってやりたいが、男の針では雑巾がやっとだ。赤い雑巾を作っても、お凛は喜ばない。
ワシが作れるものは……
爺ちゃんは頭で閃きを感じた。しかし、お凛に作ってやるには悩ましい。
ちょうど、その時
寝床からスースーと聞こえる可愛い寝息。やっと、寝たようだ。爺ちゃんは様子を見ると、なんと、大きな目を開けたまま寝ていた。ねずみが天井を歩けばとカサカサと音が鳴り、遠くに行った孫娘の意識が戻ると、ムクリと起き上がった。
「あちゃ~、目が乾いたじゃ。ねっぱるじゃ」
爺ちゃんは大きな溜息をつくが、ここまで眠気がさすと、あとは時間の問題だ。お凛は一度寝れば、揺すっても起きないほど深い眠りにつく。
爺ちゃんは、お凛を起こさないように寝床の押入れを開け、ゴソゴソと悩ましい物を探し始める。一つ目は真冬に、お凛の腹を温めようと買っていた、肌色の腹巻を引っ張りだした。
もうひとつは
爺ちゃんが、よそ行きや勝負時に締める赤フン。若い頃から、ここ一番の勝負や祝い事には、真っ赤なふんどしをしめていた。爺ちゃんは腹巻と、数回使った赤フンを握ると、裁縫道具を小脇に抱え茶の間に戻る。
ちゃぶ台の上で、赤いふんどしに太字で黒い丸を書きハサミで円を切った。腹巻に丸く切った布を縫いつけ、丸の中に
『 凛 』 と書く
爺ちゃんは薄くなった頭の上に白い雪を乗せ、暗い納屋から木の棒を持ってくると、小刀で棒を削った。遠い昔は鉛筆や箸も刀で削る。なんでも削れる爺ちゃんなら、小さな木刀を作るのは簡単なことだった。
爺ちゃんは仕事を終えると、ちゃぶ台に「丸凛印」の腹巻と木刀を置いた。そして、湯飲みに残った日本酒を飲み干し
フ~~!
「これで…また、男の子っぽくなるのぉ。まあ、お凛が気に入ってくれればいいが」
☆☆☆
翌朝
一晩中降った雪もやみ、愛犬の茶太郎が大喜びで跳ねている。亀はスッカリ寒くなると、木桶の底で固まったまま動こうとしない。
お凛は、いつもより早く目が覚め、腹巻の上に刀が置いてあるのを見つけると大きな声で言った。
「のう爺ちゃん、大変じゃ、大変なんじゃ」
「どうした、お凛」
「ゆんべ、サンタが来たんじゃ」
「それは、良かったの」
布団をガバッっと振り払い、腹巻を握り立ち上がった。丸い布の縫い目がバラバラで、指が入るほど大雑把だが、お凛は気にする様子もない。
「ほ~、かっこ、ええじゃ~」
お凛はスッカリ気に入ったようだ。孫娘はよろけながら腹巻に足を通し、腰に刀をさして変身が完了した。
勢い良く布団を蹴飛ばし、茶の間に飛び出した。爺ちゃんは、呑気に朝の茶をすすっていた。颯爽と駆け回る女侍
「爺ちゃん。うち、くのいち侍じゃ」
爺ちゃんは喜ぶ姿を見て嬉しい反面、複雑な気持もあった。腹巻に描かれた凛の文字が、勇ましくも見える。
「……良かったの」
お凛は腹巻から刀を抜くと、頭の天辺に振りかざす。幼い子供の手には、握りが少し太いようだ。しかし、お凛は力強く握り爺ちゃんを睨みつけると、気分は上がって行く。
「おぬしは悪い奴ようのう。この悪代官め、うちが成敗しちょる!」
お凛は右足を一歩前に出し、腰を低く落として構えをとる。
「うおっ!!」
右に左に刀を振り回し、お凛は完全に女侍になりきっている。今年の秋に見せた芝居小屋「風切り紋次郎」の影響が強い。爺ちゃんは危険を感じた。
「お凛。危ないから止めるんだ」
「ええい!往生際が悪いのう!」
「おい……お凛。落ち着け」
朝からテンションが高まる。
もう、目の前にいる爺ちゃんは、お凛の爺ちゃんじゃない。悪事を働く村の悪代官だ。
「あちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃあ~~~」
空を乱れ切るお凛が、真上から刀を振り抜いた
お凛が「ぬおッ!」と言ったあと、スポっと刀が飛び、爺ちゃんが「あっ」と言う。
握りの太い刀が、茶タンスに飛んで行く。戸棚にガラスを嵌めなおした手作り茶タンス。いつでも壺が見れるように細工した自慢の茶タンス。
買ったばかりの白い壺に向って木刀がびゅんと飛ぶ。爺ちゃんが手を伸ばしても遅すぎた。お凛の声が茶の間に響く。
「あちゃ~、やっちまったじゃ」
木刀はガラスを突き破り、舶来の白い壺に当たると、そのまま床に落ちて割れた。
「じぃ、爺ちゃんの……土瓶が……」
「お凛……ど、土瓶じゃない」
つづく