昨夜から続くクリスマス騒動は、近所の子供まで広がっていく。
爺ちゃんは古ぼけた猫の人形を持ち、茶の間に向かって歩けば軽い眩暈を感じた。
おっと……
可愛いい孫娘は本能のまま動き回り、静かな時は寝ている時しかない。年々下がる気力と反比例し、孫娘は元気を倍増させていく。爺ちゃんは無理をすれば痛む腰を伸ばし、シバシバする細い目をこすった。
大人になれば小さな出来事でも、子供にとっては一大事になる。そうは思っても爺ちゃんも人の子、疲れが溜まると些細な事にイライラもするが、そんな時は自分に言い聞かせているのだ。
お凛は、ああ見えても可哀想な孫娘。幼くして両親を戦争で亡くし、血を分けた姉妹もいない。わしが面倒を見なければ誰が見る。あの子が嫁に行くまでは、愛情をかけ育ててやりたい。
爺ちゃんは大きく息を吐いて言った。
「お凛もお凛だが、お富も困ったものだ」と、独り言を言ったあと「さあ、人形でも作ってやるか」と言った。
爺ちゃんはお凛と食べた朝飯の梅干を思い出し、流しに転がるタネを薪ストーブの前で乾かした。ちゃぶ台に座り猫のぬいぐるみとニラめっこをはじめると、右や左に猫をひっくり返してから、目の縁に黒い丸を書けば、少しタヌキに近づいた気がする。
「ん~……マヌケ猫か」
爺ちゃんはタヌキの顔を思い出し、ひょうたんを横に寝かしたように、目の回りを黒く塗り潰した。次に痩せ細った猫の体に綿を詰め込めば、いびつな太鼓腹が完成した。おまけにバッテンをへそに書いてみる。
次は、昨日の晩に残った赤フンを適当な大きさに切り、リボンのように折りたたむとタヌキ猫の頭に縫い付ける。
「ん~……ダメだ。やっぱりタヌキに、これがないと」
爺ちゃんはお凛と血がつながっているせいか、思い込みの激しいところがある。ハッキリしたタヌキのイメージを壊すことが出来ないようだ。
梅干の種を二つも茶色の袋に入れ、猫のまったに無理やり縫い付けたのだ。どう見てもタヌキの体に比べ、梅干しの種が大きすぎるが、爺ちゃんの思い描いた通りのタヌキが完成した。そして、余った赤フンで巾着を作りタヌキを入れると言った。
「まあまあの出来じゃ」
爺ちゃんが窓を見遣れば、大きなワタ雪がモサモサと降りだしていた。は赤い巾着をちゃぶ台にのせ、熱い茶を入れて思う。もう少しで昼飯時になり、腹を空かせたお凛が鼻を赤く染め帰ってくる。
爺ちゃんは流しに立ち、鍋でお湯を沸かし始めると、元気の無い声が聞こえてくる。
「のう、お凛の爺ちゃんはおるか」
玄関に出ると、お富が頭に雪をのせ立っていた。俯いた顔をゆっくり上げれば、悲しそうな顔を見せる。爺ちゃんは心配そうに言った。
「どうした。お凛と会わなかったのか?」
「会っとらん」
お富は寒さが身に沁みたのか、小さなボッコ手袋をすり合わせている。
「のう、お凛の爺ちゃん。サンタの落し物を知らんか?」
「ん?」
どうやら、サンタの落し物を探しているようだ。たまには孫娘の勘もあたったのか、それとも余計なことを言ったのか。爺ちゃんは、お富のために作った巾着を取り、頭を撫でながら手渡した。
「ほれ、お富。爺ちゃんの庭に落ちてたんだ。サンタが落として行ったんだな。わしが拾っておいたからな」
「ほ~、本当か」
「やっぱり、お富の人形だったのか」
「うちのタヌキじゃ。やっぱりサンタが落としたんじゃ」
「そうだな」
お富は巾着の中からタヌキを取り出すと、一気に笑顔が弾けた。
「これじゃ。これが、サンタにお願いした人形じゃ。頭に赤いリボンが付いとる」
「良かったな、お富。だいじにするんだぞ」
お富は小さな体を折り曲げ頭を下げた。爺ちゃんもつられてお辞儀を返した。お富はクルリと反転すると、玄関戸を開けたまま走り出す。その姿を見て、爺ちゃんは達成感を味わい、ようやく、クリスマス騒動が解決したと感じた。
しかし
今度は昼時を過ぎても、お凛が帰って来ない。孫娘が昼飯時になっても戻らなかったことは一度も無い。爺ちゃんはお凛の身をあんじた。幼い子供が遊ぶには危険な所も多い。もしかしたら、足を滑らせ冬の川に落ちたかもしれない。
爺ちゃんは慌てて使い込んだ上着を取ったとき、窓の下をチョロチョロ走る大きい頭が見えた。走る方向から考えると、お富の家から来たようで、ガラガラと玄関戸が開くと大声が飛んでくる。
「爺ちゃん!!のう、爺ちゃん!!」
「どうした、お凛」
「大変じゃ。大変なんじゃ。爺ちゃん聞こえちょるか!」
何が起きた。
「大変じゃ。お富がタヌキを兄ちゃんに自慢したら、ケンカになっちょる」
「……」
「取っ組み合いのケンカじゃ。お富の弟も混じったら、鼻から血がでたぞ」
お凛は上がり框に手をかけ長靴をブラブラ強く振るが、なかなか脱げない。
「で、の、爺ちゃん」
「ん?」
これから、みんなで、うちの庭を探しに来ることになったんじゃ。サンタが落としたプレゼントを探しに来るって言っちょる。お富の家にはサンタが来なかったんじゃ」
「……」
「うちも一緒に探すんじゃ、赤いジチン車も落ちとるかもしれん。足で回して走るジチン車がほしかったんじゃ」
爺ちゃんに残った手段は何も無い。今度の眩暈は長く続きそうだ。
「それとな」
答える気力も残り少ない
「なんだ?」
「正夫が怒っておった」
「どうしてだ?」
「サンタのプレゼントが串団子なんじゃ。それもミソ味じゃ。また、サンタが間違えたようじゃ」
「……」
「サンタの頭は、狂っちょるんか?」
お凛の長靴がピョンと脱げ、土間にコロンと転がった。お凛は上着を脱ぐと、小さな体から湯気が上がる。爺ちゃんは風邪をひかないか心配になるが、腹に巻いていた丸凛印が見当たらない。
「お凛、腹巻はどうした?」
「うち、暑いから、茶太郎の首に巻いたんじゃ。茶太郎も喜んでおったぞ」
お凛は外の茶太郎を指差すが、首まわりには茶色い毛しか無く、お凛の目が大きく見開いた。
「大変じゃ。茶太郎が落としちまったぞ」
「……」
「爺ちゃん、早く探しとくれ!」
爺ちゃんが頭を抱えると、外から子供の奇声が聞こえてくる。何人の子供が集まってきたのだろうか、爺ちゃんの庭が宝探しならぬ、プレゼント探しで大賑わいになった。お凛はせっかく脱げた長靴を履き直すと言った。
「爺ちゃんは腹巻を探しに行っとくれ、うちはジチン車をさがすんじゃ」
爺ちゃんは茶の間に戻りながら言った。
「お凛、もう、勘弁しておくれ」
おわり
☆☆☆
今度はお正月ですね。
「のう、爺ちゃん。お年玉は、いつくれるんじゃ?」
「お凛、まだだ、気が早い」
「うち、早くスッキリしたいんじゃ」
「……」
ちゃん公