残り香の日のあと、
わたしは何日も
穏やかでいられなかった
特別な意味なんて
きっとないのに
そう言い聞かせても
問いだけが
消えてくれなかった
次に会ったら
ちゃんと伝えようと決めていた
香りの話を持ち出した時、
反省していたのだと
キミは素直にあやまってきた
「匂い、残ってましたか?」
静かに頷いたあと
「ここに来る時は 無臭で来て」
気づいたら
はじめて呼び捨てにしていた
どんなときでも、
敬称を外したことなんてなかったのに
なぜ、あの瞬間
「さん」が消えたのだろう
うつむいていたから
キミの表情は
よくわからなかった
ただ、一瞬だけ
空気が止まったように感じた
それにしても、
このところの異常な暑さ
朝から
瞳に覇気のないわたしは
胃の裏まで
きりきりと痛んでいた
さっき交わした言葉の余韻か、
キミは
いつもより少し長く
丁寧に、
背中とお腹を包んでくれた

キミと過ごしていると
わたしは時々
身体を置き去りにしてしまう
頭ばかりが先回りして
力が抜けていた
「今日のわたし、すごく 脱力できてる」
掌から伝わるぬくもりが
からだのこわばりを
ゆっくりほどいて
あれほど強かった痛みが
いつの間にか和らいでいた
からだは正直で
痛みが少し遠のくと
やっぱり
「食べたい」が出てくる
嬉しいと
顔をほころばせたわたしに
涼しくなったら
また外でおいしいもの食べようと
キミは何気なく未来の話をした
まだ力を戻しきれないわたしに
「その先」を見せるような
優しさだったのだろうか
「さっき、道の途中で
餃子屋さん見つけました」
「餃子?
まさかあの店?」
思わず吹き出す
「実は昔、餃子が大好きだったの」
そのひと言から、
昔の話が
ぽろぽろこぼれ出した
「じゃあ、 最終目標は餃子!」
あまりにも自然に言うから、
「そんな目標、 あり?」
また笑ってしまった
「元気になるためなら、 いいじゃないですか」
若いキミは
いつもそうやって
軽やかに、先の話をする
おいしいと
笑い合える未来の約束は
嬉しいけれど
そんな未来すら、
今の私には眩しくて
笑いの片隅で
こころも、からだも
まだ、そこへは
追いつけずにいた

※私two-miracleの綴る詩は
内にある記憶や感情と、創作の中で重なり合う様々な愛のかたちを、丁寧に描いています。
この詩に触れた方が、 それぞれの心と記憶に、
静かに響きますように。
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