なんか、突如降ってきたネタ。
🦀
私は長年館花邸で料理係を努めているもの。この家の人間の好みや嫌いなもの、食べてはいけないものをほぼ理解している。だからこそ、今目の前にある書類に頭を抱えているのだ。
「川崎さん、決まりました?」
「全然……いや、邦義様はなんでも召し上がるから、若いのを向こうに送るとして、指導員が必要だよな?」
「そうですね。」
「しかしながら、本邸はパーティーも多いし…ベテラン組をどこまで異動するかが悩みどころだ。」
「皆に募集をかければ?」
「……それが、邦義様は量食べるし、立石様は面白いものを好むしで意外と人気なんだよ。」
「うーん、難しいけど、あ、川崎さんが向こう行けば良いのでは?あとは新人多めで!」
「は?」
「あれ?だめです?」
「いや、俺そんな頑張れるかなぁ……。」
邦義様は自身の屋敷を『新人研修用』とお考えになっている。そこで力をつけた者が本邸で働く。その繰り返しだ。それはつまり研修の指導員の負担は大きい。こう見えて調理場は力仕事。しかも新人研修も兼ねるとなるとかなり厳しい。
「ねぇ、大丈夫?」
「あ、邦義様。どうしました?こんな朝早くから……」
「いや、今日って親父居ないよね?」
「ええ、明後日の夜まで清良様とお出かけですが……」
「…俺…」
「なにか食べたいものでも?邦義様がリクエストなんて珍しいですね。全力で叶えますので言って下さい!」
「……かに。」
「はい?」
「かにが食べたい。」
「……エビは?」
「食べる。」
「…夕飯は、甲殻類パーティーにしましょう。」
「やった!醍ちゃんたちにも言ってくるね!」
「あ、邦義様の屋敷の方でも良いです?調理器具清掃大変なので……。」
「もちろんだよ!」
邦義様が楽しそうに立ち去っていく。実は剛様が甲殻類アレルギーをお持ちなのでこの家で甲殻類を食べれるチャンスは少ない。そして邦義様はカニが好きだ。だから朝から俺のところまで要望を言いに来たのだろう。『食べれれば基本何でも良い』とめったに要望を出さない邦義様からのお願いだ、全身全霊で応えなければ。さて、甲殻類パーティーをするなら各所に連絡しなければ。
「カニだー!!!!」
「すごい量のカニ……」
「これが今日の夕飯だよ!貴ちゃん。」
「いや、そうなんだろうけど、調理前のカニって思ったよりも怖いね。量あると……」
「いやぁ、この時期カニ美味しいんだよね。」
「カニって冬じゃないの?」
「ズワイガニはね。今回はタラバガニ。」
「あと毛ガニ、あと花咲ガニも買えました。」
「嬉しいねぇ。カニ味噌焼いてきてよ。」
「かしこまりました。」
邦義様に材料を見せるととても嬉しそうに眺めている。立石様はその量に驚いていたが、料理人たちがみるみる捌いていくのでそれを眺めているうちにだんだんと笑顔になっていく。
「やっぱりカニは茹でるの?」
「茹でるのもいいけど蒸すのもいいよね。」
「両方作っておきますね。」
「やった、あとあれ。茶碗蒸しも!」
「邦義様好きですよね、茶碗蒸し。」
「麗ちゃんが海老好きだからね、海老もたくさん料理して。」
「麗様も来られるならカニクリームコロッケも作りましょうか。」
「いいねぇ、エビフライもつけてあげなよ。あ、姉さんも来るらしいけど、足りるよね?」
「念の為デザート多めにしておきますか。」
「デザート何作ってくれるの!?」
「立石様のコーヒーゼリーはストックされてますから…」
「俺のストックされてるのうける」
「ついつい館花の家での量でつくってしまうんですよね。」
「なるほど……?」
「あ、どうせ蒸し器使いますからあんこ系の食べ物にしましょうか。」
「いいね!ごま団子!」
「ごま団子とはいってないんですが、いいでしょう。あんまんとかも作っておきますかね。どうせ醍様が待ちれなくなりそうですし。」
「あんまんは前菜だね。」
メニューを決めながら若いものに指示を出す。館花兄弟4人分と立石様、あとは使用人たちの分となるとかなりの量だ。というか、ほとんどが兄弟の胃袋に消えるから恐ろしいのだが。
「……」
「邦義様?どうしました。」
「川崎が指示だすと魔法みたいに調理場がまとまるね。」
「はい?」
「川崎、向いてると思うよ、指導員。」
「……そうですかねぇ。」
「じゃ、俺は料理を楽しみに待ってるから。」
邦義様が立石様を連れて立ち去るのを眺めたあと、戦場と化した調理場に視線を移す。今は本邸の料理人と混ざってるからまだマシだが、新人の比率が上がった状態でこの調理場を取り仕切れる人間がいるのだろうか。
「……結局、はじめから決まってたもんだよな。」
人を動かせないなら自分がくる。わかっていたその答えと向き合うのに時間がただ必要だった。なんだか、邦義様の良いようになっている気もするが、まぁ、そう言うものだと割り切れば、きっと悪くないとおもえるのだろう。
🦀食べたくなった邦義の話。
一応続きあります。実はここからしれっと『醍と麗に邦義の過去のこと言おう』という流れに進みます。時空としては醍19歳、麗17歳です!