🦀話から広げようの回。
話の展開に困ったときは彼を召喚するのですわ。
本当にいつもありがとう。重原くん。
「カニだ〜!」
「すごい、あの量のカニの殻が取れてる…。」
「これは総出で頑張ってくれたんだね。」
「はい。」
目の前には茹でられたり蒸されたり焼かれたりしたカニが並べられている。茶碗蒸しにコロッケ、様々な料理も並べられ今にもパーティーが始まりそうだ。しかし、これはほぼ全て館花の兄弟たちの胃袋に入っていくのだろう。そして偶然邦義に用事があって屋敷を訪ねた俺もこの晩餐の仲間に入れてもらえたのだ。
「にしても、本来はカニ食べてるときは無言になるって言うけどね。」
「そうなの?」
「うん。一般的に食べながら剥くから。」
「あぁ、作業に集中して黙るってこと?」
「そうそう。」
「俺達は量が量だからね。」
「まぁねぇ。俺増えてよかったの?」
「重原1人くらい誤差だよ。」
「それはそう。」
邦義がご飯の合図を出すと一斉に皆で食べ始める。醍くんが待てずにあんまんを食べていたのはみたがそれを忘れてしまうほどの勢だ。邦義が4つ目の茶碗蒸しを食べたあたりで六花さんが唐突に声を出す。
「そういえば今年は海苔の佃煮来ないの?」
「あぁ、そろそろかな。なんで?」
「卜部さんちの海苔、美味しくて待ち遠しいのよね。」
「……今年は俺が取りに行こうかな。貴ちゃん紹介したいし。」
「私も行きたい。」
「え?」
「あ、醍と麗も行きましょうよ。邦義の第二のふるさと。」
「第二のふるさと?」
「まぁ、いいか。麗ちゃんも17だもんね、でもその人数…あぁ、そっか。」
「?」
「重原、久々にツーリングしよう。」
「……あ、そっか。いいよ。」
邦義の車に醍くん、麗ちゃん、六花さん、貴ちゃんが乗るとなると余裕がだいぶない。そこで俺と邦義がバイクで行けばゆとりが出る。それに俺も邦義が水野さんと過ごしたあの村が気になる。
「私も年ですから1人だと厳しいかもです。」
「大丈夫だよ、醍が運転できるから。」
「あれ、いつのまにとったんですか?」
「最近。兄さんがお金出してくれて、高校卒業前から通い出した。」
「マークつければいいんですね。ならまぁ、行けますね。」
「あと最悪まっすぐ走らせるだけなら貴ちゃんも『資格』は持ってる。」
「持ってるだけだけどね…。」
「まぁ、最終手段ということで。」
俺の予定やら学生の予定をすり合わせて日程を決める。
「じゃ、俺卜部さんたちに連絡してくるわ。」
「いってら。」
珍しく貴ちゃんが邦義についていかなかった。まぁ、邦義のあの感じを見るに『ざっくり説明しておいて』という気配がするからそういうことなんだろう。さて、どう切り出すのが良いか。俺が悩む間も六花さんたちの手が止まる様子はない。ただ少し醍くんと麗ちゃんが様子をうかがっているだけだ。
「そういえば貴ちゃん、最近邦義の体調はどう?」
「……んー。前と比べればいいんじゃないのかな。邦義、なんだかんだ創作活動してるほうがストレスないみたい。薬減ったし。」
「創作活動……というよりも貴ちゃんといれるからじゃないかな……と思うんだけどなぁ。俺は。」
「ん?なんか言った?」
「なんでいつも肝心なとこ聞いてないんだろうね、貴ちゃんは。」
「そんな大事なこと言ってたの?この料理美味しくて感動してて聞こえなかった。」
「うん、想定内。」
「薬……って、兄さんなんか病気あるんですか?」
そう聞いてきたのは麗ちゃんだ。醍くんは何も言ってこないあたり、『病気』があることは知っているのだろう。まぁ、あいつ基本的に弱いところ人に見せたがらないからな。俺がどう説明するか考えてるとあっさりと貴ちゃんが2人に答える。
「邦義は、心に病気があるんだ。」
「心?」
「うん。小さい頃トラウマになる出来事があって、それ以来ずっと苦しんできた。でも、最近やっとそれを受け入れて薬飲めば日常を送れるようになってる。時々無理して動けなくなってるけどね。」
「そうなんだ…。」
「トラウマって?」
「……それは村に行く時に話すわ。」
「姉さん?」
「少なくともこのご飯食べてる時に話す内容じゃないわ。」
「それもそうか。」
「カニとエビめったに食べれないからいつもより食べちゃうわよね。」
六花さんはおそらく『何をどこまで話すのか』を邦義と話したかったのだろう。おもむろに話をそらした後再び食事をする。気がつけばテーブルの上の料理はずいぶんとスッキリしている。
「全員来ていいって……って、あれ?」
「どうした?邦義。」
「料理めっちゃ減ってるじゃん。俺の分は!?」
「いや、まだまだあんだろ。」
「カニ味噌は!?」
「あ、俺食べちゃった。」
「貴ちゃんが食べたの?うーん、なら許す。」
「貴ちゃんなら許されるんだ。」
わいわいとみんなで食べる料理はどれも美味しくてすごく楽しい夕飯になった。
ってわけで行きますよ!邦義と水野が過ごした村へ🥳
卜部さんってのは邦義を保護した人です。
こう言う時にあっけらんと説明できちゃう貴ちゃんというキャラクターはまーじで強いな……と思っています。