■Vol.55-2 力のあるキャラクターとは
前回、ピクサー社とキャラクターが
版権でもめたことが、
結果としてディズニー社の最高経営責任者
マイケル・アイズナー氏の
失脚に繋がったということをご紹介しました。
でもディズニーにも
キャラクターがありましたよね?
なのにピクサーには
勝てなかったのはなぜでしょう?
それが今回のテーマです。
まず、ディズニーのキャラクターと
ピクサーのキャラクターの違いって
何でしょう?
すぐに気づくのが、
2004年当時ディズニーがセルアニメーションで、
ピクサーが最新技術の3DCGということでしょうか。
そういえば、アニメーション映画を
リードするもう1つの雄DreamWorksも2004年、
セルアニメーションのアラジンをリリース、
あまりにも業績が悪く
日本公開が見送られたことがありました。
つまり3DCGがニーズなのか?
という命題が浮かんできます。
もちろんディズニーもそんなことは気づいていて、
万全の準備で3DCGアニメーション
「チキン・リトル」をリリースします。
結果、公開3日間の北米での興行収入が4010万ドル。
アメリカで2週連続、
日本も公開時1位と好成績を残しました。
ディズニー映画としては、
ライオンキングに次ぐ成績。
ところが前年同時期
「Mr.インクレディブル」(同7046万ドル)、
02年の「モンスターズ・インク」(6257万ドル)に
遠く及ばず、95年公開の「トイ・ストーリー」の
2914万ドルに次ぐ低い成績。
トイ・ストーリーは
公開映画館が少なかったので比較になりません。
実際には、ディズニーショップで
「チキン・リトル」の招待券を配りまくるなど、
相当上げ底の数字だったようで、
ディズニーの惨敗です。
つまりは3DCGにしたからいい
というものでもなかったのですね。
では、なにが違ったのでしょう。
そもそも映画として面白くなかった?
それはあるかもしれませんね。
しかし、例えば2004年度、最高の興行収益を挙げた
「シュレック2」(全世界で9億1900万ドル!)と
その半分ほどの興行成績だった「シャークテイル」は、
どちらもDreamWorksの作品です。
出演者もキャメロン・ディアス対
アンジェリーナ・ジョリー等どっちも豪華。
2倍も興行成績に
差がでる要素があるとは思えないのです。
その差があるとするなら
やっぱりキャラクターでしょう。
特に「シュレック2」では、
長靴を履いた猫が登場し、大人気でした。
CGアニメは一緒に見に行ったことが無かった
うちのカミサンも
それを見たさに一緒に映画館に行ったほどです。
つまりアニメの映画の場合、
登場するキャラクターの優劣が
そのまま興行成績に繋がるのではないか
と考えられます。
そう考えてみると、
ピクサーの制作するキャラクターはどれも魅力的です。
「シュレック2」には負けたものの、
それ以外はピクサーの映画は、
同年に公開されるアニメ映画でいつも1番です。
では、ピクサーのキャラクターの強さは
どこにあるのでしょう。
ここからは私の主観に、
トレビアを織り交ぜて解説します。
ピクサーのキャラクターの強さ、
それは徹底したリアリズムだと思うのです。
この場合のリアリズムというのは、
姿かたちのことではありません。
細部までのこだわりと徹底した作りこみです。
例えば、ファインディングニモと
シャークテイルを見比べれば明確なんですが、
魚の動きが根本的に違うのです。
ニモは魚の種類によって、泳ぎ方が違います。
クマノミは体全身を震わすように泳ぎ、
相棒のハギはむなびれを羽ばたくように泳ぎます。
それがそのままキャラクターの個性になっています。
それだけではありません。
キャラクターを生かすために、
その舞台装置も徹底的にこだわっています。
ニモの方は、水の抵抗、潮の流れ、光の屈折、
そういうものがキッチリと表現されていますが、
シャークテイルの方は、海の中には見えません。
例えば、2006年公開の「カーズ」でも、
そのこだわりは徹底しています。
冷静に考えれば、
自動車に顔がついてるアニメなんて、
大人が見て楽しめるものではありませんよね。
そのうそ臭さが鼻について、
映画を楽しむところまで行かないはずです。
そう、普通ならね。
だからピクサーは今度の映画のために、
今までのソフトと
根本的に異なるソフトを開発しました。
レンダーマンというソフトなのですが、
ピクサーが唯一販売しているソフトで、
映画の世界では業界標準となっています。
このソフトを一から開発しなおして、
今までにない表現力を得ました。
見た目のリアリティだけでなく、
自動車のボディを表現するために
光の屈折、反射をリアルに追いかける
ソフトを開発したのです。
その成果は圧倒的です。
冒頭、真っ暗な中に浮かび上がるボディ、
一瞬挿入されるサーキットのカットで、
一気に引き込まれます。
さらに自動車の走行を
リアルにシュミレーションするソフトを開発。
ご覧になった方はわかると思うのですが、
カーズの車たちは顔がなければ、
その動きまで含めて実車と区別が付かないでしょう。
その代償として、
1フレームをレンダリングするのに、
3000台のコンピュータで17時間!もかかるという
気が遠くなる時間をかけています。
これで車としての表現は完璧になりましたが、
それだけでは、ただの自動車です。
そこで表情豊かなキャラクターを作るために、
ある細工をします。
実は、カーズのキャラクターの目の色は、
声優たちが愛着を持てるよう、
声優の目の色と同じにしてあるのです。
さらに、アフレコというように、
普通は仕上がった動画に声優が声を充てますが、
この映画は逆。
まず、俳優の声を録音します。
その際、カメラも同時に回し、
俳優の表情、しぐさを録画します。
アニメーターはその様子を参考に、
キャラクターに表情をつけていきました。
(リテイクではアフレコもありました)
だからキャラクターの表情が
ものすごく豊かなんですね。
シャークテイルで声優の顔に似せて
キャラクターを作ったのとは違い、
カーズではその表情を声優に似せたのですね。
いかがでしょうか、
私が今までメルマガで言ってきた、
キャラクターは単なるイラストではない、
世界観なんだという意味が
お分かりいただけますでしょうか。
美術史家のアビ・ヴァールブルグは言いました「
神は細部に宿る」と。
キャラクターも同じです。
細部までこだわったキャラクターは
強い存在感を生み出すのです。
それでは次回、お楽しみに。