- 将軍家御典医の娘が語る江戸の面影 (平凡社新書 419)/平凡社
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( ´・ω・) へなちょこ文士おすすめ度★★★★★
第一章 福沢諭吉に背負われて
一奥医師の家庭
二蘭学サロン桂川家
三福沢諭吉がやってきた
第二章 なつかしき江戸の情景
一幼き頃の隅田川
二夢見心地の芝居見物
三浜御殿をかけめぐる
第三章 お姫さまの御一新
一桂川家閉門
二幕府滅亡
三江戸城明け渡し
第四章 武士でも姫でもなくなって
一屋敷をとりあげられる
二徳川家臣団の離散
三結婚までの日々
第五章 薩長にお辞儀なんかするもんか
一波乱の新婚生活
二反政府運動のうねり
第六章 すべては夢のように
一新たな人生のはじまり
二夫を西郷隆盛のもとへ
( ´・ω・) もっと細かい小題もあるんですが、書き写すのが大変なので、略。まぁ、自分が感想を書くまでもなく、この見出しに興味を持った人は絶対に面白く読める本です。文句なしに星5つ。おすすめです。
( ´・ω・) 幕末の風雲に御典医である桂川家はあまり関係ないのかと思ったら、親戚に木村茶舟がいたり、幕府の陸軍副総裁になった藤沢次謙がいたりで、意外でした。当時十代前半だった桂川みねから見た江戸の黄昏というものは、情感たっぷりで、眼前に風景が浮かんでくるかのようです。
( ´・ω・) 芝居見物の日のドキドキ感、隅田川の美しい眺め、そして、浜御殿での日々。みねはガキ大将になって、他の親類の子どもたちを引き連れて浜御殿の庭で遊んでいます。なんで子どもが将軍家の浜御殿で遊んでられるとかいうと、その頃の木村善毅(芥舟。みねの叔父)が浜御殿添奉行だったからです。
( ´・ω・) そして、御一新後の日々。落剝した苦難の中でも、みねは負けん気の強い自分らしさを失わず、見合いをぶち壊したりなんだりしますが、最後は元佐賀藩士の今泉利春に嫁ぎます。徳川嫌いの夫に、それでも元徳川家臣の娘として喧嘩する様子というのも微笑ましい面があります。
( ´・ω・) その夫も、佐賀の乱に関わり、逮捕されてしまいます。釈放後、官を辞して代言人として生活する夫をみねは支えます。そのあとも、西南戦争に呼応しようとして、利春は牢屋に入れられたりします。しかし、優秀な利春は何度も官に戻ることを誘われます。それでも、頑として受け付けなかった利春。しかし、最後は副島種臣に説得されて、検事になります。
( ´・ω・) 正義感があり、みね同様に一本木な性格の利春は、視察で訪れた種子島監獄で赤痢に苦しむ囚人達を、係の役人が感染を恐れて近寄らないなか、自らが看病して、それが原因で命を落とすことになります。そのときの副島の「国のため今泉を死なすな」の電報はぐっとくるものがありますね。その後、西南戦争の死者しか埋葬が許されていなかった南洲墓地に、特別に西郷の遺志を継ぐ者として戦死同格として葬られます。そのために、みねも尽力します。
( ´・ω・) 夫の死後、みねは各地を転々としながら、子供たちの養育に後半生を捧げます。そして、昭和十年、八十歳を越えてから、昔の思い出を聞き書きとして残します。それが、「名ごりのゆめ」です。現在では、東洋文庫で「名ごりの夢」として、復刻版が出ているそうです。
( ´・ω・) いつもより長めに書きましたが、まだまだ本書の魅力を伝えきれていません。時代ドラマとして、テレビで放送してもいいんじゃないかと思うぐらいです。それだけ、美しい作品です。……でも、思い出は思い出だからこそ、美しいのかもしれませんね。もっとも、あとがきによると、みねの死後、「名ごりのゆめ」が昭和十六年の刊行後に、文部省の推薦図書になったり、NHKで放送?されたみたいですが……。
( ´・ω・) 読書週間に読む本としてもいいんじゃないかと思います。小難しいことは書いてないですし、純粋に「思い出」話として楽しめます。桂川家に出入りする若き蘭学書生たちや、父である桂川甫周(安政に『和蘭字彙』を発行)の維新後の生き方も興味深いです。
( ´・ω・) 福沢諭吉の痩せ我慢の説じゃないですが、官に仕えず、階級上の武士というものがなくなってからも、武士としての生き方を貫いた人々は、美しさを感じます。現代人は自分の利益ばかり考えて要領よく生きようとしたり、他人を利用したり出し抜こうとしたり、あるいは保身に走ったりしがちですが、美しく生きるということについて、考えさせられるものがあります。利春の生き方を見ても。……文字通り、命がけですが……。
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