大江戸曲者列伝―幕末の巻 (新潮新書)/野口 武彦 | 江戸秋葉原文芸堂

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( ´・ω・) 江戸戯作を読んだり、江戸時代関連のニュースピックアップをしたり。江戸文化歴史検定一級第三回最年少合格。

大江戸曲者列伝―幕末の巻 (新潮新書)/野口 武彦

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( ´・ω・) 読み終わったので、感想です。曲者っていうと泥棒の類とかが想像されますが、本書に出てくるのは「癖のある人物」とか、幕末史の片隅で異彩を放つマイナーな人物たちが多いです。有名な人も何人か出てはきます。でも、微妙な人物だからこそ、面白いような気もします。



( ´・ω・) たとえば、アメリカに渡った使節団の中にいた当時17歳の通訳見習いの立石斧次郎。その若さと快活さから、全米で大人気になり、毎日のように新聞に取り上げられ、記事に「昨夜のトミー」なんて見出しまで出るほどで、さらには「トミー・ポルカ」という歌まで作られ、ラブレターが殺到。熱を上げるあまり宿泊先まで押しかける娘さんまで出てくる始末。その後、調子に乗りすぎだと小栗忠順から怒られてるところがまた面白いですね。



( ´・ω・) 特にマイナーな人物だと、「本当のワル」(本書の見出し)、青木弥太郎。幕末の治安悪化を利用して、御用金強盗など悪事をしまくった旗本です。捕まって牢屋に入れられたのち、石抱きなどの数々の拷問に耐え抜くことで牢名主達から尊敬され、かいがいしく看病される様子が、なんというか、こういう幕末もあるのだな、と(笑) 明治になってから、俺は石抱きをくらっても白状しなかったと威張っていて、「バカモノ。もっとデカイことをやってから威張れ!」と勝海舟から怒られてるのが、またなんとも(笑) その後は、王子で料理屋を開いたそうです。



( ´・ω・) 上記二人のような話だけでなく、ペリーとの交渉に死力を尽くした役人や学者、戊辰戦争関連で奮戦した人物なども出てきます。特に「ペリーに抱きついた男」松崎純倹(ペリーとの交渉時に日本側の漢文書類を作成した儒者)の話が個人的には好きです。ポーハタン号の祝宴でべろんべろんに酔っぱらった純倹先生(54才。米側の印象では醜男扱い)が突然ペリーに抱きついて「日米同心、日米同心」と言うシーンは、条約締結でせめぎ合った当事者同士だからこそ出た言葉だと思います。お互い死力を尽くして粘り強い交渉をしながら書類を作っていったからこそ、酒の席で感情が高ぶったのでしょう。その純倹先生は大任を果たし、調印の数か月後に死去します。



( ´・ω・) 幕末っていうと有名な志士達のことばかり取り上げられがちですが、こういうマイナーな当事者達の目から見ていく幕末も面白いです。それぞれの職務の中で、自分の出来ることを全力でやる姿は胸を打つものがあります。幕末史の主役ではない、脇役だからこそ見えてくるものもあります。本書は文章が軽妙で、描写も小説のように豊かで、読んでいてとても楽しかったです。



リンク→キリンHP内「立石斧次郎」(歌詞や、その後の斧次郎についてなど)