【正岡子規、天野祐吉、南伸坊・「笑う子規」】 | せのお・あまんの「斜塔からの眺め」

せのお・あまんの「斜塔からの眺め」

せのお・あまんが興味を示したことを何でも書いてます。主に考察と創作で、内容は文学、歴史、民俗が中心。科学も興味あり。全体に一知半解になりやすいですがそこはご勘弁を。

幾夜幾冊、「笑う子規」.天野祐吉編の正岡子規句集で、挿絵が南伸坊、という贅沢な本。正岡子規(1867〜1902)というと近代俳句の元祖で未だに信奉する人が絶えないが、その俳句ってあまり読まれてない。せいぜいが「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」を知っているくらいじゃなかろうか。

天野祐吉(1933〜2013)は広告批評という分野を切り拓いた人だが青春期を松山で過ごした縁から松山市の子規記念博物館の館長を勤めた。その縁で子規の俳句を読み抄録したのが本書。


「俳句はおかしみの文芸」その通りです、そして子規の俳句もおかしみの上にある、子規といえば文芸の革新者で重病にあえいで、とめが血走ったような話が先立つが、実は明るい子規、笑う子規だった。


という売り口上に釣られて読み始めてみたら、作者や編者の意図とはたぶん違うところで面白い俳句が並んでいる。これが何とも返答に窮するもので…


○「めでたさも一茶くらいや雑煮餅」

いきなりこれか。こんなパロディでは小林一茶が泣くぞ。


○「元日は仏なき世に戻りけり」

おかしくないんですけど。月並俳人のみなさんが怒るんでないかい。

○「弘法は何と書きしぞ筆始」 

弘法大師は書の名手でした、だからといってこのひねりの無さはいったい。

 ○「口紅や四十の顔も松の内」

何が言いたいのか。子規の言う「写生」が怪しく聞こえるような。

○「雑煮腹本ヲ読ンデモ猶ヘラズ」

あ、ご病気で寝たきりなんでしたね、でも寝てなさい。

○「散った桜散る桜散らぬ桜哉」

「散る桜残る桜も散る桜」は良寛でしたっけ、ってパロディになってねえ。桜、桜、桜もガタガタ続くとうるさいし。

○「蝶飛ブヤアダムモイヴモ裸也」

そりゃそうでしょうが、それがつまらないと言ったの誰でしたっけ。

○「大仏のうつらうつらと春日哉」

大仏が居眠りするって、いや、あのね。下らなくて好きですが、マジで下らない。

○「雷をさそう昼寝の鼾哉」

なんでそっちにしか行かないのか、雷がイビキっての、ありきたりじゃん。 

○「葉桜はつまらぬものよ隅田川」

はいはい、花見頃を逸した負け惜しみでしょ、と突っ込んでやりたい。

○「行水や美人住みける裏長屋」

荷風じゃあるまいし。言わなかったが子規先生には隣の美人を覗き見する俳句がそこそこある。

○「鯛鮓や一門三十五六人」

「風呂吹の一切れづつや四十人」という句も残しているが、似たような俳句を量産するのは彼のせいかもしれなくて、選択と集中は必要。

○「睾丸の大きな人の昼寝哉」

「睾丸をのせて重たき団扇哉」という秀逸な俳句があったのにすぐこれ。だから三流と呼ばれるのか。

○「蝿憎し打つ気になればよりつかず」

いまいち工夫が欲しいね、つか、”憎し”は余計でしょう。

○「忍ぶれど夏痩にけり我恋は」

百人一首をトレースしただけじゃん。川柳ですらない。 

○「からげたる赤腰巻や露時雨」

また覗きやってる。こういう句が表に出るのは弟子たちにはまずくなかったか?

○「渋柿や古寺多き奈良の町」

これで芭蕉の向こうを張ろうってのか、大したものだよ(褒めていません)。

○「うとましや世にながらえて冬の蝿」

其角の「憎まれてながらふる人冬の蝿」…いいかげん他人の真似はやめてください。

○「占いのついに当たらで年暮れぬ」

占いなんて十中八九当たらないのが相場で、それが月並な感想なんだってば。

○「貧乏は掛乞も来ぬ火燵かな」

掛乞、年末一括払いの習慣が死語なのはいいとして、貧乏だから借金取りも来ない、何それ。


とまあ、おかしくもなんともない俳句ばかりでしたが、本当に面白くないから笑える。まぁそれだけ量産したのだな、と呆れるが、これが"近代俳句の祖”ならばどうしよう。


「技巧は俳句をダメにする」と言った手前、技巧は使えなかったのか、もしかすると技巧が使えない下手だったのか。この辺は卵と鶏の論争と同じになりそうだから触れない。


それにしても下手だが、虚子さんは「間抜けな句、腑抜けた句」がむしろ理想だと言っていたくらいだから、むやみに上手いのも考えものかもしれない、って少しも言い訳にならない。あと、これはいいという俳句も少し挙げておく。


蒲団から首出せば年の明けて居る

銭湯を出づる美人や松の内

初芝居見て来て晴着いまだ脱がず

緑子の凧あげながらこけにけり

春風にこぼれて赤し歯磨粉

梅ちるや米とぐ女二三人

春雨や裏戸明け来る傘は誰

二番目の娘みめよし雛祭

蝶々や順礼の子のおくれがち

すさまじや花見戻りの下駄の音

女生徒の手を繋ぎ行く花見かな

門しめに出て聞て居る蛙かな

初の夜や隣を起す忍び声

夕立や蛙の面に三粒程 

夕立や豆腐片手に走る人

五女ありて後の男や初幟

涼しさや人さまざまの不恰好

えらい人になったそうなと夕涼

睾丸を乗せて重たき団扇かな

男許り中に女のあつさかな

念仏や蚊に刺されたる足の裏

よって来て話聞き居る蟇

言巧に蚤取り粉売る夜店かな

枝豆や三寸飛んで口に入る

銭湯で下駄換えらルル夜寒かな

いなご焼く爺の話しや嘘だらけ

山門をぎいと鎖すや秋の暮

我宿の名月芋の露にあり

行く秋にしがみついたる木の葉哉 

ツクツクボーシツクツクボーシバカリナリ 

婆々さまの話上手なこたつ哉

無精さや蒲団に中で足袋を脱ぐ 

豆腐屋の来ぬ日はあれど納豆売

手炉さげて頭巾の人や寄席を出る

煤払や神も仏も草の上

行き逢うてそ知らぬ顔や大三十日

いそがしく時計の動く師走かな

人間を笑うが如し年の暮