K先生の思い出 | 極楽ブログPart2

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世の中に寝るより楽はなかりけり浮世の馬鹿が起きて働く(「母の教へ給ひし歌」なのです)

K先生は、ワタシが通った私立中学校の国語の先生だった。K先生は、達筆であった。黒板に白墨で流れるように字を書いた。


K先生は、ある時「真の教養とは」と題して、黒板一杯にムツカシの文言を書き、我らに筆写させた。残念ながら、ワタシは、綺麗な字だったということ以外、何ひとつ覚えていない。


K先生の喋り方は、鼻濁音が耳についた。ワタシは、いくら日本語として正しくても、やり過ぎじゃないかと思った。


当時、ワタシは、角川の国語辞典を愛用していた。三省堂の明解国語辞典は、表記が気に喰わなかったんだよね。


角川の国語辞典には、巻末付録として、一入、一八から始まる難読熟語の一覧表が載っている。ワタシは、これを覚えるのが趣味だった。


ある時、K先生が「若干」という字を黒板に書いて、「意味がわかるかな?」と問うたことがある。


Chunが、さっと手を挙げた。彼は、いつも真っ先に挙手するのである。


「Chunくん」

「若い者が、少しという意味です」

「違うな」


その隙に、ワタシは辞書を引き、手を挙げた。


「sifusoくん」

「幾らかという意味です」

「その通り」


ワタシの席の周囲から不満の声が上がった。


「辞書で調べちょる」

「ヤシじゃあ」


K先生は、ワタシの辞書を取り上げて、しばらく眺めた後に返してくれた。


K先生は、テストの答案を返す時、点数を読み上げていた。これは、K先生だけじゃなかったな。今ならモンスターペアレントが、怒るかも知れん。


K先生のテストは、結構難しかった。ある時の中間テストの平均点は、70点以下だったと記憶する。


「Aくん62点、Bくん73点、Cくん68点」


ワタシは、テストの出来が、あまり良くなかったと思い、覚悟していたのだが。


「sifusoくん96点」


えっ、まさか⁉︎


返して貰った答案を見たら、結構❌がついている。変だなあ。


実は。


先生の集計ミスで、本当は86点だったのだ。申告したかって?する訳ないじゃないの。


卒業後、半世紀経って、居酒屋Kで先生と再会した。奇遇を喜び、先生は、キープしていた十四代の焼酎鬼兜を飲ませてくれた。今調べたら、ずいぶん高いのね。




驚いたことに、先生は、浄土真宗の僧侶になっていた。


「葬式ならウチでやりなさい。裏が火葬場だし、戒名もつけない。余計な費用は一切掛からないから」


そこで葬式をやる前に、K先生は亡くなってしまった。