「脚を骨折しちゃって、治るまで髭を伸ばしてるんですよ」
「あら、主人も足を捻挫しましたよ」
「今、どこにお住まいですか?」
「熊本です。息子に車で連れて来て貰いました」
などと話していたら、向こうからご主人が、ひょこひょこ歩いて来た。エビハラ先生である。
「お久し振りです」
「懐かしい」を連発する2人と話していたら、今度は、愛想の良い髪の薄いオジサンが現れた。
「ケンスケです」
「えぇっ!ケンスケくん⁈」
驚いた。ケンスケくんは、半世紀前、トモさんに抱かれて、大学へ出勤するお父さんに手を振っていた。可愛い赤ちゃんだったんだよね。
そうそう。
ワタシは、エビハラ先生の電気工学の講義を受けたんだ。ワタシにしては珍しく真面目に勉強し、試験では、優を貰った。
Safuroの「息子は、ちゃんとやっていますか?」という問いに対し、先生は「いい成績でしたよ」と答えていたっけ。余計なことを訊くんじゃないよ。
そんな話は、しなかった。
それから。
お互い写真を撮りあった。先生から名刺を貰ったので、後でメールしよう。
途中でケンスケくんは、車のところに引き揚げ。どこに置いたのかな。
ひとしきり昔話をして、ときわ公園に行くという2人に分かれを告げ、門まで帰って来たら、先に車を降りていたTukoが出て来た。
「随分遅かったわね」
「エビハラ先生に出会ったんだ」
「まあ、挨拶しときましょう」
エビハラ先生のことは、Tukoに話したことがあるので、大体のことはわかっている筈。後はTukoに任せて、引き揚げた。
後で、Tukoが言うには。
「本当に品のいい夫婦ねえ。あんな風にならなきゃ。上がって貰えばよかったんだけど」
目下わが家の応接間は、腕白な孫2号が怪我をしないように、テーブルを片付けていて、お客をもてなすようになっていないのだ。
「アナタ、ああいう人たちと付き合いなさい」
「はいはい」
(おしまい)