「これは、こういうことなのだ。ふむ」
Safuroは、人から聴いた話を、さも昔から知っていたかの如く喋っては、自分で頷く癖があった。
例えば。
その1:ドライブのBGM
バッハの管弦楽曲をカセットテープに録音して、Safuroにプレゼントしたことがあった。
バッハの管弦楽曲は、車の運転中に聴くBGMとして最適である。
なんとならば。
バッハの管弦楽曲は、いわゆる絶対音楽で、まったくストーリー性がない。歌曲や標題音楽と違って、運転の邪魔にならないのだ。テープを渡す時、その旨をSafuroに説明しておいた。
しばらく経って、Safuroが言うには。
「運転中に聴くのは、バッハの曲が一番いい。絶対音楽は、運転の邪魔にならんから。ふむ」
あのねえ。それは、ワタシの持論なの。アナタが発見したんじゃないでしょ。
その2:HONDA車のリヤワイパー
キミタチは知るまいが、かつての国産車には、リヤワイパーが付いていなかった。雨が降ると後方視界が悪くなるので、気分が悪かったし、そもそも危険であった。
最初にリヤワイパーを装着したのは、HONDAのシビックだったと記憶する。さすがHONDA、気が利いているなあと感心し、Safuroにその話をした。
そうそう、その頃のSafuroは、まだ車を運転していなかったので、実感は無かった筈。
しばらく経って。
Safuroは、HONDAの役員と会食する機会があったという。
「そこで、HONDA車のリヤワイパーのアイデアを褒めたら、向こうは喜んだのなんのって。よく気がついて下さったと。ふむ」
あのねえ。それは、ワタシが教えたんじゃないの。ま、いいけどさ。
結論:Safuroは、聴き齧りの達人であった。