①石田順裕vsゴロフキン 決戦2日前〜必勝ダルマ〜3.30モナコWBA世界ミドル級タイトル戦 | @TUG_man石田順裕応援ブログ

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世界リアルボクシングドキュメント

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海外拠点としているロスから飛行機に乗る事約20時間。ニース・コートダジュール空港に着いた。

第一ターミナルから車で高速に乗りモナコへと向かう。フランス領からモナコ公国へは面倒くさい入国審査なしにこの道路一本で行く事ができる。

春先を迎えた日本よりかはやや肌寒い気候だ。車窓からは山の合間にクリーム色の家が立ち並ぶのが見える。揺られる事約30分、モナコへと到着した。

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この国には世界中からセレブたちが優雅なひと時を過ごすためバカンスに訪れる。海岸線を囲むようにして山が切り立ち、その斜面に築かれた美しい街。海は空よりも青い。

ゴージャスな建築物の前には滅多にお目にかかれない高級車がズラリと並び、ヨットハーバーには豪華客船のような大型クルーザーが停泊している。

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photo by Manabu Kato モナコ 最新情報-Official site of monaco week
そしてF1グランプリ開催国としても有名だ。

レースコースにもなっているトンネルを抜け少しした所に石田順裕が宿泊するホテルがある。

コロンバスホテル。全館モダンなインテリアで統一された人気のデザイナーズホテルだ。別名を“幸運のホテル”

なんでも過去4年間に渡りF1の優勝者が泊まっていた事からこう呼ばれるようになったらしい。

このホテルは今回興行へ出場する全ボクサーの宿舎になっている。リングに上がる全てのボクサーに幸運が訪れるはずはない。勝利の栄光を手にする者がいれば必ず敗者の影がある。

28日。決戦2日前。外は雨。

夕方6時、地下一階のトレーニングルームに石田順裕はいた。

「減量は順調ですよ。体重は全然問題ないです」

上下黒のウインドブレーカーに身を包みバイクをこぐ。彫刻刀で深く彫り込みを入れたような頬に減量の跡を伺わせる。精悍な顔つき。肌は焼け褐色で色艶もいい。

およそ1キロオーバー。今日明日で500gずつ落としてリミットいっぱいに仕上げる計算だ。

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このルームにリングはない。バイクを降りるとシャドーを始めた。

トントントントン。

リブムを取る。

ジャブ。牽制するジャブ。左ストレートに近いジャブ。ワンツー。

キレている。調子も上々だ。

汗を流す石田順裕をセコンドに着くノリ隆谷マネージャー、ビクター・エルナンデス親子、竹中タカシらが見守る。

「バネスているでしょ。マカオでやるはずだったんだけど出場見送りになっちゃった。オレとのスパー中にヒジが拳に当たって壊しちゃったみたい」

ボディーブローをガードして受ける。その際硬く尖ったヒジが変な角度で拳にブチ当あってしまった。バネスは4月6日の試合を急遽キャンセルした。右拳親指骨折。つまり石田順裕は左ヒジでバネスのパンチを受けた事になる。

左ヒジと言えば昨年の6月手術した箇所だ。

一歩間違えば壊れていたのは石田順裕のヒジの方だったかも知れない。

「世界タイトルで負け、しかも37歳。普通はヒジの手術までしてボクシング続けないですよね」

ただでさえ怪我がつきもののアスリート。ボクシングはその上、上体を激しく打ち合い相手を倒す事を目的とするスポーツだ。

また、それとは別に石田順裕は怪我を抱えていた。口びるに口内炎が出来てしまいスパー中大出血してしまった。ダメージはなくとも見栄えが悪い。あまりの出血量は即ストップをも呼び込んでしまう恐れがある。

この事は敵に弱点を知られぬため箝口令が敷かれ外に漏れる事はなかった。一時スパーを中断し治療に専念した。ギリギリ間に合ったか。

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時おりそんな談笑を交えながらシャドーを続ける。身体を絞る。練習後体重を計るとキッチリ500gオーバー。計算通りだ。

表情はリラックスしている、というより努めて肩の力を抜くよう自制している様に見受けられた。

臨戦態勢に入っている。もし仮に突如としてリングが目の前に現れ試合となれば即トップギアに入れる事ができるだろう。もうすぐだ。高ぶる気持ちを抑えている。ピークを一分、一秒たりとも逃さず試合に持って行く。

本日の練習メニューを全て終えると夕食の時間だ。

トレーニングルームのすぐ隣にはバイキング形式の食事が摂れるレストランがある。まだ計量前。決して満足に口にする事は出来ない。炭水化物とサラダを中心に皿に盛った。

高級ホテルに似つかわしくないジャージー姿で埋め尽くされた異様な光景のレストラン。石田順裕が食事をするテーブル卓のすぐ後方には“TEAM GGG”とプリントされたウェアーを着たゴロフキン陣営の姿も見える。ライバルは石田順裕vsディミトリーピログ戦を何度も見直し研究していた。

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「ピログとのタイトル戦を見てISHIDAがいかに難しい相手か知っている。身長で上回られる課題を全て洗い出し対策を練って来た」

ゴロフキン、最強にして一切の油断はない。こちらもチーム総力を上げて石田順裕攻略を目指す。

その時かん高い声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。ボクシングを愛する者なら誰しもが知っているスターボクサー。今はプロモーター業に専念している。急に石田順裕がソワソワし始めた。

石田順裕が最も尊敬するボクサーの一人“ヒットマン”ことリッキー・ハットンの登場だ。ハットンは自身が指導するセルゲイ・ラブチェンコの応援に駆けつけたのだった。

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「ハットンめっちゃ好きなんですよね。ガンガンファイトするじゃないですか。もう憧れですよ。全ボクサーの中でも一番好きかも知れない」

憧れのボクサーを呼び止めツーショット写真を撮った。時間にして1~2分の出来事だったろうか。童心に返る。ひと時の至福の時を堪能するとまた表情が一変した。戦う男の表情だ。

“オレは勝つためにモナコへやって来たんだ”

軽めの夕食を摂った後、誌面のインタビューに答える。

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「距離が近すぎるって言うのも強いパンチ打てないので。前に出ながらも左で突き放して強打を打ち込みたいですね」

これまでゴロフキン相手に前にようと試みたボクサーはいない。みな下がりながらカウンターを取る作戦を立てた。しかし下がればゴロフキンはドンドン出て来て強さを増す生粋のファイターだ。

石田順裕のファイトプラン。リスクとリターンが同居する。危険は100も承知だ。生き長らえて何になるのか。勝ちに行く。

“もう腹は決まってるんで。迷いはない。後は気持ち次第です”

目をギラつかせながら力強くそう語ると寝室へと戻って行った。

明日は
夕方6時からカジノ・デ・モンテカルロで公開計量がある。当日のゴングは夜11時からと遅い。時差をモナコ時間に合わせた上で、さらに身体が動く時間を遅らせる必要がある。

深夜0時を回った。まだ寝ない方が良い。

石田順裕の部屋はキングサイズのベッドが2台に大人が横になれるほどの大きなソファーが1台とかなり広い。陽の光で明るくすることを前提としているためメイン照明はなく夜は間接照明のみで光源をとる。

麻衣夫人と子ども2人、新しく産まれた赤ちゃんともすでに大阪から遠くモナコに来ている。集中力を高めるため泊まる場所は家族と別だ。

薄暗いファミリールーム。ここで決戦の日まで独り過ごす。

石田順裕はテレビの横に置いてあった袋から腹の真ん中あたりに“勝”と書かれたダルマを取り出した。説明書を読む。

“願い事が必ず叶うと強く信じて、そして願い事を書いて下さい”

願い。願いって何だろう。

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ソファーに体育座りのような格好で腰をかけるとペンに想いを乗せた。

右目だけ黒く塗られたダルマ。その裏面に“勝利”の2文字が加えられた。

「勝利?勝利は願いちゃうか。何かちゃうわ。願いごとは…」

石田順裕は改めて願いを込めると必勝ダルマをじっと見つめた。

いつか叶う。きっと叶う。そう信じ戦い続けて来た。

その時が来た。絶対に叶う。やってやる。


“WBA世界ミドル級新チャンピオンになれますように”


翌朝、必勝ダルマは枕元に置かれていた。


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