二つの世界の男(1953) | つぶやキネマ

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140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

二つの世界の男(1953)

 

 スザンヌ・マリスン(クレア・ブルーム)は短い休暇を利用してベルリン駐在の英国軍医の兄マーティン(ジェフリー・トゥーン)を訪れるためにテンペルホーフ空港に降り立った。義姉のドイツ人女性ベッティーナ(ヒルデガード・ネフ)の出迎えを受けたが、空港ロビーにはベッティーナを注視している少年(ディーター・クラウゼ)がいた。第二次世界大戦後の荒廃したベルリンは東西に分割され、東側をソヴィエト連邦が、西側を連合国が統治していたが、検問所や中立地帯が存在し身分証の提示が必要なものの、ベルリン市民たちは東西を自由に行き来していた。

 兄夫婦と食事に行ったシアター・レストランでスザンヌはベッティーナの様子がおかしい事に気がつく。ベッティーナは誰かを探しているのか不安気に店内を見渡していた後にわざと飲み物をこぼし席を立ってカウンター席にいる人物に話しかけていたが、スザンヌの席からは衝立の陰になってその人物の姿が見えなかった。ベッティーナが頭痛を訴えたために店を出る事にするが、店の外には空港ロビーにいた少年がいて、スザンヌとベッティーナは突進して来た2台の車に跳ねられそうになる。ベッティーナはベルリンでは日常的な出来事と語ったが、スザンヌはベッティーナが深夜にドアを開け少年から手紙を受け取ったのを目撃し、兄夫婦はスザンヌに何かを隠しているのではと思い始める。

 翌日、スザンヌはベッティーナの案内で東側地区へ入るが、そこでも少年が自転車で二人を追跡監視していた。東側地区は閑散としてして建物にはスターリンの巨大なポスターが貼られ、西側地区とは街や市民の雰囲気がまったく違う事にスザンヌは驚く。二人はカフェに入って話していたが、自転車に乗った少年がこちらを指差して建物の影の人物に話しているのを目撃したベッティーナは慌てた様子で店を出ようとする。建物の影にいた人物は店内に入って来ると偶然の出会いのようなそぶりでベッティーナにドイツ語で話しかける。ベッティーナはスザンヌに友人のイーヴォ・カーン(ジェームズ・メイソン)だと紹介、イーヴォはスザンヌの東側地区のガイドを務める事を約束する。

 西側地区へ戻ったスザンヌは仕事中のマーティンを訪ねベッティーナから預かった手紙を渡し東側地区でイーヴォという男に会った事を話す。イーヴォはベッティーナの昔からの友人と答える兄にスザンヌは仕事が忙し過ぎるのが心配だと話す。スザンヌが帰宅するとイーヴォとベッティーナは口論をしていたが、スザンヌの帰宅に気づいた二人は何事も無かったのような素振りで微笑み、イーヴォはスザンヌを今夜ベルリン市内の案内をしたいと提案する。夜のダンスホール、ダンスと会話を楽しんでいたイーヴォとスザンヌの席にハロルド・ハレンダー(アリベルト・ヴェッシャー)が電話をかけて来たがイーヴォは相手にしなかった。スザンヌはイーヴォとベッティーナの関係やこれまでの活動を知りたがったが、イーヴォはどんな話ならスザンヌが気にいるのかとはぐらかしてしまう。そこへ無視された事に業を煮やしたハレンダーが二人の席に現れベッティーナとも旧知で東側地区で公演しているオペラが素晴らしいのでチケットを贈ると語る。店を出てスザンヌをタクシーに乗せたイーヴォは店に戻ると遅れて出て来たハレンダーと口論を始めるのだった。

 翌朝、外出しようとしたスザンヌに兄夫婦の家を監視していた自転車の少年が声をかけ、イーヴォがベッティーナの件で会いたがっているので案内すると話す。カフェで待っていたイーヴォはスザンヌに昨晩の出来事を謝罪し、ベッティーナと結婚していた事を告白する。帰宅したスザンヌにマーティンは友人のオラフ・ケストナー(エルンスト・シュレーダー)を紹介、イーヴォが車で待っていて一緒にスケートに行くと言うスザンヌにベッティーナは彼とは関わらない方が良いと忠告する。スケートを楽しんでいた二人の前にハレンダーが3人の護衛を連れて現れ、ケストナーが東側の警察官二人を西側に逃亡させた、このままケストナーの活動を続けさせるならイーヴォが戦後のベルリンで行ったガソリンや銃火器の密売等の活動記録を西側の警察に渡すと告げる…というお話。

 

 前作「文化果つるところ(1951)」はジョセフ・コンラッドの原作との相性がイマイチで傑作になり損ねたキャロル・リード監督、汚名返上と考えたかどうかはよく解らないが、本作は映画史に残る傑作「第三の男(1949)」とよく似た設定のウォルター・エバート原作の「ベルリンのスザンヌ」を映画化した作品で、演出や照明、編集等は流石と思わせる完成度だったが、不必要な複雑さに溢れているストーリーを上手く脚色出来ていない脚本が原因で映画としてのリズム感が損なわれてしまったのが残念なトコロ…主演がジェームズ・メイスンとくればキャロル・リード監督のもう一本の傑作「邪魔者は殺せ(1947)」を想起してしまうし、大好きな女優さんのクレア・ブルームがヒロインでは期待してたんだけどねぇ。

 クレア・ブルーム演じるスザンヌがドイツ西側地区の空港に到着、出迎えるヒルデガード・ネフ演じる義妹のドイツ人女性ベッティーナの不安そうな表情で薬を飲んでいたり、そんな彼女を監視しているディーター・クラウゼ演じるホルスト少年が居たりと、最初から怪しさ満点で滑り出しはなかなか快調ベッティーナは食事に行ったレストランでも暗い表情のまま様子がおかしく誰かを探していてカウンター席の人物に何か話しかけたりもする。衝立が邪魔してその人物が見えないが、カウンター席に置かれた帽子とコートから男だとわかるのだが、スザンヌとベッティーナが東側地区のカフェで話している時もホルスト少年が電話で呼び出した塀の陰にいる人物に話しかけていて、このなかなか姿を見せないあたりは「第三の男」のハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)そっくり(注;1)。

 

 ジェームズ・メイスン演じる謎の男イーヴォが姿を現してからは、スザンヌが少しずつイーヴォに惹かれていく気持ちの変化の描写がイマイチ希薄なので、悪事にも手を染めて戦中戦後を乗り切って来たような怪しさ満点の男に、知的で論理的で清楚なスザンヌが最終的に愛情を抱くようになる展開の説得力が足りない感じ…もう少し感情の揺れ動きとかの描写があればねぇ。

 ベッティーナはずーっと不安げで幸薄そうな表情のまんまなのだが、ヒルデガード・ネフの熱演のおかげで変に感情移入させられ途中から満面の笑みが見たくなって困った…まさか最後の登場場面までそんな表情が続くとは思わなかった。さらにジェフリー・トゥーン演じる彼女の夫で二枚目の英国軍医のマーティンとの場面もあまり幸せそうに見えないので、夫との関係も上手く行ってないのではと勘繰ってしまうのだよ。そのマーティンもスザンヌの兄でベッティーナの夫という以上の役割がほとんど無く、ベッティーナの告白を聞いてカール・ジョン演じるクライバー警部を紹介するぐらいで、あとは傍観者でしか無いのも不自然な感じなのだ…もっとストーリーに絡んでも良かったよね。

 アリベルト・ヴェッシャー演じるイーヴォの東側の協力者で正体がよく解らないハレンダーは、信用出来ない怪しさや存在感は悪く無いのだがあまり有能そうに見えないのが残念なトコロ。反政府の脱走者の援助しているケストナーを捕まえるためにベッティーナ誘拐を企てたり、部下が間違えて誘拐したスザンヌを西側に帰すために東側の統治者の監視をすり抜ける算段をしたりと、間抜けな面ばかりが目立つのだ。ハレンダーは東側の闇商売の元締めらしく政府側の人間では無さそうなのだが、イーヴォの捜索に協力していたりして結局正体不明なまま。スパイ映画とかだったら失敗の責任を押し付けられて処刑されちゃいそうだが、特にお咎めなしなまま映画が終わってしまうのもなんとなーく消化不良な感じ。

 エルンスト・シュレーダー演じるケストナーもハレンダー同様に有能そうに見えない…人柄は良さそうなんだけどね。イーヴォを助けにクリーニング店のトラックで単身東側へ向かうのだが、こちらもハレンダー同様に有能な部下や協力者がいる訳でも無いのが不自然で、ラストはこちらの予想通りの展開が待っている。

 自転車少年ホルストを演じるディーター・クラウゼはなかなかキュートで演技も上手く作品の良いアクセントになっていてのだが、イーヴォの真の協力者は彼だけのような感じだったのが後半に突然別に協力者がいた事が解って吃驚…伏線もそれらしいセリフも皆無なのはずるいよね(注;2)。

 

 後半の逃亡劇は一難去ってまた一難という感じで、それなりにサスペンスが盛り上がるのだがイーヴォやスザンヌにあまり緊張感が感じられないので、手に汗握るという感じにはならない上に、あてもなく逃げ回っていたと思ったらビルの建設現場に来ていた自転車少年ホルストと再会したり、警官たちやハレンダーに追われてアパートの一室に逃げ込み住人の娼婦リッツィ(ヒルデ・セッサク)を買収するんだけど、ここでイーヴォとスザンヌの軽ーいギャグが挿入されてほのぼのムードに変わってしまう…椅子で寝ようとするイーヴォをスザンヌがベッドに誘っちゃったりもします。翌朝ケストナーと自転車少年ホルストが二人を助け出し、クライマックスはどうやって検問を突破するかなんだろうなと予想してたらその通りの展開で、少しばかり拍子抜けでした…追って来た自転車少年ホルストの存在が悲劇のきっかけになるのがあまりに哀しい(注;3)。

 

 題材自体は興味深いのにストーリーや脚本は問題だらけな作品になってしまったのが残念だが、演出や撮影、編集や美術はキャロル・リード風味てんこ盛りでファンにはたまらない作品なのだ…ジョン・アディソンの音楽がサスペンス映画としては物足りないケド。室内のドラマ部分は単調にならないような演出とカメラワークを駆使、夜間の場面のロケ撮影は凝った照明や影を使った演出、的確なカメラ・アングルでの移動撮影等ニコニコが止まりません。特にスザンヌが誘拐され監禁されている倉庫での映像は照明や斜めの構図で立体感を強調し緊張感を煽っていてホントに素晴らしい。スザンヌがイーヴォを平手打ちしたあと吊るされた電球を払いのける場面はアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ(1960)」を思い出す…本作の方が先なので後輩に敬意を評してヒッチ先生が引用したのかも。

 

●スタッフ

製作・監督:キャロル・リード

原作:ウォルター・エバート

脚本:ハリー・カーニッツ

撮影:デスモンド・ディッキンソン

音楽:ジョン・アディソン

 

●キャスト

ジェームズ・メイソン、クレア・ブルーム、

ヒルデガード・ネフ、ジェフリー・トゥーン、

ディーター・クラウゼ、アリベルト・ヴェッシャー、

エルンスト・シュレーダー、カール・ジョン、

ヒルデ・セッサク

 

◎注1;

 本作を最初に観たのはテレビ放映の吹替版だったが、「第三の男」のキャロル・リード監督作品で主演が「砂漠の鬼将軍(1951)」「砂漠の鼡(1952)」「海底二万哩(1954)」「北北西に進路を取れ(1959)」「ロリータ(1962)」等のジェームズ・メイスンと、ハリウッド映画デヴュー作「ライムライト(1952)」を見て以来贔屓にしていたクレア・ブルームという事で、興奮状態でテレビに齧り付いていたのを記憶している。

 ジェームズ・メイスンは、キャロル・リード監督の「邪魔者は殺せ」でも女性に慕われる犯罪者で警察や組織から追われる男を演じていたが、今回はその犯罪歴や正体の詳細が台詞で簡単に処理されるだけで最後まで明かされないのが消化不良を起こし、悪人として哀れなラストを迎えなければならない理由が希薄なのだ…モテモテ男に天罰が下ったみたいに見えてしまう。そんな役にもかかわらず得意の英国紳士(国籍不明だけどね)を魅力たっぷりに演じていて、本作でも演技派の二枚目スターとして作品を支えている。「砂漠の鬼将軍」「砂漠の鼡」で演じたドイツ軍のロンメル将軍や「海底二万哩」のネモ船長は知的な指導者な感じがホントにハマリ役で、他の俳優さんが同じ役を演じる作品を観ても「なんか違うなぁ感」が付き纏ってしまった…「ロリータ」のトホホな感じも最高だったケド。

 ベルリンに向かう中型旅客機の機内のクレア・ブルームの可憐で清楚な姿にメロメロで本作は無条件で絶賛してしまいたい気分…とか言いつつベルトのサインを隣の席の紳士に教えてもらう機内のスザンヌ紹介のための描写は中途半端で無意味だよなぁとか思ってしまう。「ライムライト」でチャールズ・チャップリンの相手役として抜擢され大注目された彼女は、本作の後もローレンス・オリビエの「リチャード三世 (1955)」、リチャード・バートンの「アレキサンダー大王(1956)」、ユル・ブリンナーと共演した「カラマゾフの兄弟(1958)」「大海賊(1958)」、ロバート・ワイズ監督の「たたり(1963)」、黒澤明の「羅生門(1950)」のアメリカ版「暴行(1964)」、「寒い国から帰ったスパイ(1965)」「まごころを君に(1968)」「いれずみの男(1969)」等々、美人で演技力もある大人気女優として傑作・話題作が次々と公開された。特に豪胆な女海賊を演じた「大海賊(1958)」は言われないと解らないぐらいの変貌ぶりが素晴らしかったデス…本作ではクールで知的な雰囲気が素晴らしいのだが、たまに見せてくれる幼い感じが最高。

 

◎注2;

 映像も素敵で俳優さんたちが熱演しているのになんとなくストーリーに入り込めない感じがつきまとうのは、やはり脚本が問題なんだろう。面白いストーリーなのに描写不足が原因で自然な展開が生まれず、登場人物たちの関係性も上手く整理出来ていないのが勿体無い感じ。登場人物の人物像の紹介も手際が悪く、特にヒルデガード・ネフ演じるベッティーナは最後まで中途半端な感じで残念。冒頭から不安気な表情と不審な行動が演出やカメラワークで強調されてサスペンス映画の導入部としては満点なのだが、それも彼女の演技と存在感があればこそなのにねぇ。ヒルデガード・ネフは本作を初めて観た時の日本語表記はヒルデガード・クネフだったと記憶しているが、ハリウッド時代はヒルデガード・ネフで活動し現在はヒルデガルト・クネーフと表記されている。歌手としても活躍しブロードウェイ・ミュージカルにも出演した。ヘミングウェイの原作をグレゴリー・ペック主演で映画化した「キリマンジャロの雪(1952)」、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「アンリエットの巴里祭(1952)」、ローレンス・オリヴィエ主演のミュージカル「三文オペラ(1963)」、ロバート・アルドリッチ監督の戦争アクション「特攻大作戦(1967)」、ハマー・フィルムの冒険映画「魔獣大陸 (1968)」等に出演、ビリー・ワイルダー監督「悲愁 Fedora(1978)」では重要な役を演じ素晴らしい存在感を発揮していました。

 全編通して活躍するのが自転車少年ホルスト…立ち漕ぎしながらハンドルに装着した水筒から水分補給という荒技を披露します。前作「文化果つるところ」でもカヌー少年が主人公の結末に影響する重要な役割を与えられていたが、ロケ地でスカウトした少年だったからか台詞も無くあまり上手く行っていなかった…本作も自転車少年がイーヴォの運命を左右する存在なのでリターンマッチみたいだよね。演じるディーター・クラウゼは撮影当時は小学生で本作がデヴュー作だが、劇場映画は本作とハリウッド進出する以前のクリスティーネ・カウフマンと共演したドイツ映画「Ein Herz schlägt für Erika(1956)」だけのようだ。

 

◎注3;

 クライバー警部との話し合いでイーヴォ逮捕のためにベッティーナの家で待ち伏せする事になるが結局イーヴォは現れない。それ以前は何度も家に来ているんだしケストナーとも顔を合わせているんだから、待ち伏せとか変な小細工をしなければ簡単に捕まえられた気もする…ベッティーナやケストナーがイーヴォの手先であるホルストの存在を全く知らないのもおかしい。

 ベッティーナがイーヴォとの経緯を語る場面はヒルデガード・ネフの熱演でそれなりに迫力があるが、イーヴォとスザンヌが絶賛逃亡中なのでまったく印象に残らない。ここは二人の過去の関係を映像できちんと観せて欲しかった…回想シーンで幸せそうなイーボォとベッティーナも加えられると良かったよね。

 前半の描写からイーヴォの仲間は自転車少年だけだと思っていた(思わされていた)ら、オペラ劇場からの脱出場面で他にも仲間がいたのが解るが唐突すぎて「どうゆう事???」状態になるし、そもそもケストナーを捕まえるためにベッティーナを誘拐という作戦も意味不明なのに、ベッティーナとスザンヌを間違えて誘拐しちゃうってハレンダーの仲間も無能過ぎ。さらにスザンヌを西側に戻すために大騒ぎするのだが、スザンヌは犯罪者な訳でもないので解放されれば一人で検問を通過出来そうだよね。助けに来るケストナーや捉えようとするハレンダーがアホ過ぎて、ラストのサスペンスもイマイチ盛り上がらない…結局二人を追い詰めるのは東側の警察なんだもんね。

 イーヴォとスザンヌが逃げ込んだアパートの一室でイチャイチャしながら一夜を過ごすのだが、買収のためにイーヴォが差し出した東ドイツマルクでは承服せずスザンヌが高価な指輪を差し出すと態度を一変させる住人の娼婦リッツィを演じたヒルデ・セッサクがなかなか良い味を出していて笑わせてくれる…娯楽映画では定番手法の緊張と緩和の場面なんだけど緩和し過ぎなんだよねぇ。

 

 

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