青い真珠(1951) | つぶやキネマ

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★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

青い真珠(1951)

 

 志摩半島の先端の孤島に灯台員として西田(池部良)が赴任して来た。島は海女によるアワビの素潜り漁が唯一の産業なため、昼間は村人が出払って閑散としていて西田の出迎えも居なかった。西田は売店で煙草を買おうとしたが店主は留守で、通りかかった海女の野枝(島崎雪子)の機転で煙草を出してもらう。この島では灯台員が小学校の教師も兼ねる事になっており、村一番の働き者の野枝はそんな西田に想いを寄せるようになった。2年前に都会に憧れて島を出たリウ(浜田百合子)も西田と同じ連絡船で戻って来てかつての海女仲間から歓迎を受ける。

 灯台員の藤木(志村喬)からこの島の素潜り漁や海女たちについて聞かされた西田は学校の生徒たちから出迎えを受ける。都会の生活に染まって帰って来たリウに村人たちは不信感を抱き、実家での生活に戻ったリウは母(本間文子)から叱責されるが父(左卜全)は何も語ろうとはしなかった。煙草屋の店主(英百合子)は、そんなリウを好奇の目で見て誘惑しようと声をかける村の男たちや野枝の許嫁の新太郎(柳谷寛)を叱る。野枝はリウから村での生活には明るい未来が無いと聞かされ海女としての人生に疑問を抱く。野枝の両親はある理由から村を出て行ったのだった。

 テングサの解禁の日、海女たちが集う海岸へ出た西田は島のはずれの海底にある「大日井戸」に向かって泳ぎ出すが、追って来た野枝に危険だから行かないよう警告を受ける。恋愛成就の真珠があると言われている伝説の「大日井戸」は危険海域の海底にあるので村の者は近づかないのだ。

 村の龍神祭りの日、野枝は祭りの見物に来ていた西田に海女の安全祈願の儀式で使う桶の水をいきなり浴びせる。西田や同席していた許嫁の新太郎は面食らうが、藤木からそれは祭りの日に許されている求愛の証しだと聞かされる。世話になっている伯父(高堂国典)の家で宴会の手伝いをしていた野枝は、伯母(三好栄子)からあらためて両親が村を出た経緯を聞かされ、西田の事は諦めて村の慣習を受け入れるよう説得される。

 野枝は海岸で絵を書いていた西田にアワビを届け謝罪し今の心情を吐露する。月夜の晩、西田は藤木から村の慣習は「大日井戸」の伝説と深い関係があり、この村の唯一の産業であるアワビ漁を守るためだと聞かされる。そこへ現れた野枝に西田は初めて彼女に対する自分の気持ちを語る。

 リウは海女の勘が戻らない事を船頭の甚吉(山本礼三郎)から責められる。霧の深い晩、灯台を訪れたリウはラジオをつけ西田をダンスに誘い、後から灯台にやって来た野枝に二人が踊る姿を見られてしまう。リウは野枝に対する嫉妬心から西田との仲を村人たちの前で話すようになり、西田は藤木を介して野枝に結婚を申込んでいたが、許婚がいる事や土地の慣習を理由に伯父と伯母から断られてしまう。リウと西田が親密であるという噂が村中に広まり、野枝はそれを振り払うように新太郎と漁に出るのだった…というお話。

 

 「ゴジラ(1954)」をはじめとする東宝特撮映画の監督として世界中に熱烈ファンが居る本多猪四郎の劇場映画デヴュー作…実際はその前に記録映画を2本監督している。数十年ぶりに観た感想は「映画を解っている人の作品は観ていて心地良い」だった。撮影スタッフやカメラの存在を観客に意識させないカメラワークとリズム感のある演出で作品の中に自然に入り込めるし、気がついたら登場人物たちに感情移入しているのだ。そんな王道演出で展開されるドラマの中に、公開当時はまだ珍しかった水中撮影もふんだんに取り込み、海女たちの漁の様子や潜水マスク越しの女優さんの表情もしっかり捉えられ、本多猪四郎監督がデヴュー作から映画演出の基本や撮影技術についても精通していた事がうかがえる。

 原作は直木賞を受賞した山田克郎の小説「海の廃園」で、記録映画の経験を生かした作品を模索中だった本多猪四郎が監督する事になり脚本も執筆、「羅生門(1950)」を執筆中だった黒澤明監督と橋本忍と同じ旅館での脚本執筆だったらしい(注;1)。

 

 島へ新任の灯台員兼教師として赴任してくる西田を演じるのは当時東宝青春スターの筆頭だった池部良。二枚目としての存在感だけでなく演技も高く評価されるようになりスターから演技派へ転身を図っていた頃の作品だけに見応えのある名演を披露している。島一番の若い海女の野枝を演じる島崎雪子はデヴュー2年目の新人で、働き者で稼ぎ頭の若い海女ながら複雑な家庭環境にあり恋と地元の慣習の板挟みに苦しむという難しい役を堂々と演じていて素晴らしい。灯台員の藤木を演じる志村喬は、出演場面は少ないものの黒澤明監督の諸作同様に本作でも抜群の存在感を観せてくれる…出ているだけで作品の「格」が上がった感じがする不思議。都会から島へ戻って来た海女のリウを演じた浜田百合子は、華やかで明るい感じの悪女が正にハマリ役なのだが、本多猪四郎監督の巧みな演出で完全な悪役という感じにはなっていない…同情すべき点を残しているあたりが流石です。そして何より嬉しいのが他の作品でもすっかりお馴染みの東宝専属の俳優さんたちが大挙して出演しているコト。日本の大手映画会社5社による「五社協定」が結ばれる前だが、スター以外の専属俳優さんが多数出演している事でも製作会社の作品のカラーや特徴を表していた時代(注;2)。

 

 本作は基本的には都会から漁村の灯台へ赴任して来た青年と地元の海女の恋愛ドラマなのだが、本多猪四郎監督の脚本によって封建制度や女性蔑視への批判等も描かれ、それが作品に厚みを加える結果となっている。少し残念だと思った点は、野枝との仲が不安定な西田と誘惑目的のリウが夜会っていた場面で、二人の関係が明確に描かれず曖昧なまま終わっている部分で、肉体関係があったのではという疑念を観客に抱かせてしまうのだ…西田が明確にリウを拒絶する場面を入れるべきだったのではと思った。野枝の思い過ごしである事が観客にはわかっている方がサスペンスが高まったと思うのだが、本作の描き方の方が公開当時のサスペンス技法としては正解だったのかもしれない。

 本作には監督デヴュー前の岡本喜八が助監督として参加、野枝の弟(従兄弟かも)の芳を「ウルトラマン・シリーズ」でお馴染みの石井伊吉(毒蝮三太夫)が演じている。

 

●スタッフ

脚本・監督:本多猪四郎

製作:小林富佐雄

原作:山田克郎

撮影:飯村正

美術:松山崇

音楽:服部正

 

●キャスト

池部良、島崎雪子、浜田百合子、

志村喬、山本礼三郎、高堂国典、左卜全、

柳谷寛、堺左千夫、三好栄子、本間文子、

英百合子、大村千吉、石井伊吉

 

◎注1;

 本多猪四郎(ほんだいしろう)監督は、大学在学中に東宝の前身であるPCL映画製作所(Photo Chemical Laboratory)に入社、山本嘉次郎や成瀬巳喜男の助監督として活動、黒澤明や谷口千吉は助監督として同期の後輩。3度徴兵され日中戦争に8年間従軍し終戦は中国で迎えたために監督昇進が遅れ、本作の時は40歳だった。実質的なデヴュー作はドキュメンタリー「日本産業地理大系第一篇 国立公園 伊勢志摩(1949)」、短編文化映画「砂に咲く花[(1950)」をはさんで本作で劇映画を初監督。「ゴジラ(1954)」や数多くの東宝特撮映画を監督している事で世界的に有名になり、海外の監督・プロデューサーにもファンが多いが、それらの作品が魅力的で多くの支持を集めているのは、本作でも明らかなように確かな演出力に裏打ちされているからだろう…ドラマ部分がしっかりしていてこその特撮映画なのだ。「ゴジラ・シリーズ」の監督として語られる事が多いのだが、「地球防衛軍(1957)」「美女と液体人間(1958」「宇宙大戦争(1959)」「ガス人間第一号(1960)」「妖星ゴラス(1962)」「マタンゴ(1963)」「海底軍艦(1963)」「宇宙大怪獣ドゴラ(1964)」「緯度0大作戦(1969)」等の日本のSci-Fi映画の巨匠でもある事も忘れないで欲しいよね。

 

◎注2;

 池部良は、1941年に東宝に入社、監督を希望したが第二次世界大戦中だったために叶わず脇役俳優としてスタート。主演作がヒットし20代を青春スターとして活躍、「青い山脈(1949)」、谷口千吉監督「暁の脱走(1950)」、市川崑監督「若い人(1952)」、小津安二郎監督「早春(1956)」、豊田四郎監督「白夫人の妖恋(1956)」「雪国(1957)」等に出演、1965年からは高倉健主演の「昭和残侠伝シリーズ」にも。本多猪四郎監督作は「さらばラバウル(1954)」「宇宙大戦争(1959)」「妖星ゴラス(1962)」に出演している。本作では海水で濡れたズボンを脱いでパンツ姿を披露しているが、青春スターのパンツ姿に女性ファンたちはどんな反応だったのだろう。

 本作のヒロイン、野枝を演じたのは島崎雪子。初登場の場面では小さな漁村の海女としては華がありすぎると思ったが、物語が進むにつれて複雑な境遇の役であるのが解り、彼女の新人らしからぬ演技力が必要だったのだと納得…自責の念に駆られどんどん自分を追い込んで行く姿には胸が締め付けられます。海女の役なので潜水マスク越しの表情を捉える水中の場面も多く、当時の撮影技術やフィルムの感度を考えると若い女優さんとしては撮影は大変だったのでは無いだろうか。本作と同年に成瀬巳喜男監督「めし(1951)」、市川崑監督「若い人(1952)」では池部良と再共演。黒澤明監督「七人の侍(1954)」では野武士の山塞に捕えられていた村の女性として映画ファンの記憶に刻まれている。神代辰巳監督と結婚後はシャンソン歌手としても活躍。本作の助監督だった岡本喜八監督の「暗黒街の弾痕(1961)」「顔役暁に死す(1961)」にも出演。

 リウを演じた浜田百合子は、都会生活に憧れたものの挫折して村へ帰還したアプレゲール(戦後派)、無責任で刹那的な考えの女性の典型を見事に演じていて思わずニコニコしてしまった。そんな困った女性にも繊細で傷つきやすい側面がある事が本多猪四郎監督の演出でしっかり描写されていて、そちらの演技もなかなか素敵です。出演作品は、谷口千吉監督作品「ジャコ萬と鉄(1949)」、溝口健二監督作品「雪夫人絵図(1950」「西鶴一代女(1952)」、森一生監督(脚本・黒澤明)「荒木又右衛門 決闘鍵屋の辻」等があります。

 志村喬は、舞台俳優として活躍後に映画俳優に転身、伊丹万作監督、溝口健二監督、マキノ雅弘監督、今井正監督等の作品に出演、戦後は黒澤明監督作品には欠かせない存在として21本の作品に出演。本多猪四郎監督作品も「太平洋の鷲(1953)」「ゴジラ(1954)」「地球防衛軍(1957」「モスラ(1961)」「妖星ゴラス(1962)」「三大怪獣 地球最大の決戦(1964)」「フランケンシュタイン対地底怪獣(1965」に出演。

 脇を固める東宝専属の俳優さんたちの中には黒澤作品でもお馴染みの山本礼三郎、高堂国典、左卜全、堺左千夫、大村千吉、三好栄子、本間文子等々、個人的にはオールスター映画なのであります。

 

 

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