刑事コロンボ/悪の温室(1972) | つぶやキネマ

つぶやキネマ

大好きな「映画」について「Twitter」風に
140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

刑事コロンボ/悪の温室(1972)

 

 資産家で蘭の愛好家のジャービス・グッドウィン(レイ・ミランド)は、甥のトニー(ブラッドフォード・ディルマン)から信託財産扱いとなっている父親の遺産を銀行から引き出す方法は無いかと相談される。トニーは妻キャシー(サンドラ・スミス)の不倫相手ケン・ニコルズ(ウィリアム・スミス)に多額の手切れ金を渡しキャシーを取り戻そうと考えていたのだ。信託財産は銀行が緊急事と判断すれば引き出せる事から、信託財産の共同管理人でもあるジャービスはトニーに偽装誘拐の計画を持ちかけ、トニーの愛車のフロント・グラスに銃弾を撃ち込み崖から落としてキャシーに30万ドルの身代金を要求する脅迫状を送る。発見されたトニーの車に銃弾が撃ち込まれていた事から、ロサンゼルス警察の殺人課の刑事コロンボ(ピーター・フォーク)とフレデリック・ウィルソン刑事(ボブ・ディシー)も捜査に加わり、要求された身代金を運ぶジャービスの車を尾行し山道で身代金が入ったバッグをストッキングをかぶり誘拐犯に扮したトニーに渡す所をウィルソン刑事が暗視カメラで撮影する。ジャービスはコロンボたちの目を盗んで隠れ家でトニーと落ち合うが、信託財産から30万ドルを引き出す事に成功しキャシーを獲り戻せると喜ぶトニーをジャービスは射殺してしまう。身代金30万ドルを独り占めするのがジャービスの本来の計画だったのだ...というお話。2本のパイロット作品を入れて11作目という事で、製作陣がシリーズのマンネリ化を危惧したのか、定番だった「最初に殺人事件が起きる」という展開を大胆に変更、殺人が起こるまで放映時間の約半分を使うという"暴挙"とも言える戦略に出たのだが、脚本や演出の不備から誘拐事件捜査に殺人課の刑事が加わるという不自然さを払拭出来ていないのだ。後半のコロンボによる誘拐殺人事件捜査が放映時間の半分になった事に加えて、若手のウィルソン刑事を登場させた事でコロンボのオトボケ捜査が激減、さらにキャシーに罪を着せるためのジャービスによる偽装工作の場面等の演出が稚拙で、コロンボが斜面を駆け下りてコケるというシリーズ屈指の名場面があるにもかかわらず、全体的にはコロンボの存在感が薄くストーリーも印象に残らない作品となってしまった。最初は誘拐犯に成りすましたジャービスがキャシーに強迫電話をかける場面から始まり、それに甥トニーも共謀している事がわかり、動機が不明なままふたりの偽装工作が描かれるので、視聴者は何のために偽装工作が行われているのかイマイチ解らないままで、血痕も死体も発見されないのに殺人課の刑事コロンボが愛車で登場するという展開は、どーしても無理矢理な感じがしてしまう...誘拐事件捜査に殺人課の刑事が加わる言い訳的場面が数回用意されているのは何か後ろめたかったんだろうなぁ。本作の問題はそれだけではなく、シリーズの他の作品と比較してジャービスは犯人としての魅力がイマイチなのだ。念入りに計画しているワリには親族や捜査関係者に対して怪しさ満点の嫌味を言ってばかりいたり、トニーの愛人のグロリア・ウエスト(アーレン・マーテル)の情報を鵜呑みにして計画を変更したりで"手強い犯人"感がまったく欠落しているのだ...レイ・ミランド自身は存在感抜群で素敵なんだが(注1)。そんな脚本上の問題点に加えて、ボリス・セイガル監督の演出も「?」な部分が多く、誘拐偽装の場面に時間を使った関係からか後半は様々な描写が駆け足気味で、ジャービスの資産家らしい描写がほとんど省略され、高級車ロールスロイスを乗り回し正面玄関に巨大な円柱が4本ありビリヤード専用ルームがある豪邸に住むような資産家にしては、庭師がちらっと映る程度しか使用人が出て来なかったり、高価な蘭を育てているワリに温室がショボくて貧乏臭いのも問題なのだ。コロンボが捜査中とはいえジャービス邸の温室に無断で入り込むのは警察官として問題多過ぎだし、コロンボの方からジャービス所持の銃の話を持ち出す等、シリーズの最大の楽しみであるオトボケ連発と遠回しな犯人との駆け引きから犯罪の欠陥をあぶり出す部分まで省略してるしねぇ。ジャービスが深夜にキャシー邸に侵入し偽装工作する場面では、身代金を入れたカバンをちゃんと見せなかったり隠す描写を省略しているので、刑事たちがカバンをいきなり発見する感じなのも不自然なのだ...編集段階でカットされたのかもしれないが。隠れ家に使った小屋が発見された理由も語られないし、夫妻双方の愛人の描写も雑で、特にコロンボがケンとトニーの裏取引をキャシーにバラしてしまうのも描写不足でモヤモヤ感が残る。最大の疑問点は、身代金の受け渡し場面はウィルソン刑事が暗視カメラで撮影していて、トニーはその時の服を着たまま殺されたのにコロンボや捜査陣がその点を問題にしなかった事だ。トニーを殺してからジャービスが服を着替えさせたんですかねぇ...発見された遺体には毛布(?)がかけられているので視聴者には解らない。そんな感じで色々省略が多い一方で、トランクにトニーが潜んでいるジャービスの車を途中で止める無駄なサスペンスがあったり、登場人物たちが車から降りる描写がやたら多かったり、すり替えられた拳銃の発見にワン・クッション入れたりと、全編通してバランスが悪過ぎです(注2)。ピーター・フォークによるアドリブ的な"小技"も随所に観られるし、ウィルソン刑事とのやり取りもナカナカ楽しかっただけにホント勿体ない。ラストの金属探知機登場には笑ってしまった...このオチからストーリーをひねり出したのではないかと思えるラストなんだけどね。コロンボ・シリーズは比較的お色気は控えめだったのだが、開巻早々胸部の露出多めのネグリジェ姿でうろつき回るキャシーとか、グロリアが巨乳を強調していたりと、ふたりの女優さんが度々露出多めの衣装で登場するあたりは珍しいけど、監督の趣味なのかなぁ。

 

●スタッフ
監督:ボリス・セイガル
製作:ディーン・ハーグローブ
製作総指揮:リチャード・レヴィンソン、ウィリアム・リンク
ストーリー監修:ジャクソン・ギリス    
脚本:ジョナサン・ラティマー    
撮影:ハリー・ウルフ    
音楽:オリヴァー・ネルソン

 

●キャスト
ピーター・フォーク、レイ・ミランド、
ブラッドフォード・ディルマン、ボブ・ディシー、
サンドラ・スミス、ウィリアム・スミス、
アーレン・マーテル、ロバート・カーネス

 

◎注1; レイ・ミランドは「指輪の爪あと(1971)」に続く2度目の登場で、前回はゲスト的な役柄だったが今回は犯人役。周囲に嫌味を言いまくるあたりは御本人のイメージ通りで笑ってしまうが、ビリー・ワイルダー監督の「失われた週末(1945)」ではアルコール依存症の役でアカデミー主演男優賞を受賞してます。ゲイリー・クーパーと共演したドラマ「ボージェスト(1939)」、ジョン・ウェインと共演した「絶海の嵐(1942)」のようなアクション物、アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス「ダイヤルMを廻せ!(1954)」、ロジャー・コーマン監督のエドガー・アラン・ポー作品「姦婦の生き埋葬(1962)」、同じくコーマン監督のSci-Fi「X線の眼を持つ男(1963)」と、色んなジャンルの作品でも独特の存在感を観せてくれましたが、個人的には化学の教授が偶然出来てしまった特殊な薬を使って大リーグで名投手として活躍する「春の珍事(1949)」のコメディ演技も大好きであります。トニーを演じたブラッドフォード・ディルマンは脇役として大活躍した俳優さんだが、「強迫/ロープ殺人事件(1959)」「史上最大の作戦(1962)」「レマゲン鉄橋(1968)」「新・猿の惑星(1971)」「悪魔のワルツ(1971)」「殺し屋ハリー/華麗なる挑戦(1974)」「燃える昆虫軍団(1975)」等、知的な役もそれなりに多いのだがほとんどが本作のような情けないヤツが中心です。ウィルソン刑事を演じたボブ・ディシーはTV中心の俳優さんで、本作では出番も多くコロンボとのからみも面白かったのでレギュラーになるかと思ったが、シリーズ出演は3年後の「刑事コロンボ/魔術師の幻想(1975)」で同じウィルソン刑事役で出演したのみでした。キャシーを演じたサンドラ・スミスもTVドラマ中心の女優さんで、日本で放映されたのは「バージニアン(1962~1970)」「マニックス特捜網(1967~1975)」「ガン・スモーク(1955~1975)」「ハワイ5-O(1966~1980)」「スター・トレック(1966~1969)」「ボナンザ(1959~1973)」等にゲスト出演、「インターン(1970~1971)」ではセミ・レギュラーのリディア・ソープ医師を演じていました。キャシーの愛人のケン"日焼けで喰ってる男"ニコルズを演じたウィリアム・スミスは、所謂筋肉マンでTVシリーズのゲストが多数、「ピラニア(1972)」「ラスト・アメリカン・ヒーロー(1973)」「SF最後の巨人(1975)」「合衆国最後の日(1977)」等の映画にも出演し、シュワちゃんの「コナン・ザ・グレート(1982)」では幼少期のコナンの父親役を演じてます...すぐ死んじゃうんだけどね。巨乳おねーさんグロリアを演じたアーレン・マーテルもTV女優で「0011/ナポレオン・ソロ(1964)~1967」「逃亡者(1963~1967)」「スター・トレック(1966~1969」「0088/ワイルド・ウエスト(1965~1969)」「ザ・モンキーズ・ショー(1966~1968)」「0012/捕虜収容所(1965~1971)」等にゲスト出演してます。コロンボ・シリーズには本作の後「意識の下の映像(1973)」「権力の墓穴(1974)」にまったく別の役で出演。そして今回もコロンボの大好物のチリの店が登場しますが、以前「死者の身代金(1971)」「ホリスター将軍のコレクション(1971)」に登場したのバート(ティモシー・ケリー)の店じゃないのが謎...店主との会話から"常連"な事が解るんだけどねぇ。
◎注2; 監督のボリス・セイガルは、「暗黒街の野獣(1962)」「マードックの拳銃(1964)」「フロリダ万才(1964)」「空爆特攻隊(1968)」「モスキート爆撃隊(1969)」「地球最後の男 オメガマン(1971)」等の劇場映画も監督しているが、決して成功したとは言えずTV界に戻っている。所謂職人監督なんだけど、本作の演出のようにあまり上手くないのが困ったモノなのだ。コロンボ・シリーズは「野望の果て(1973)」も監督しているが、そちらについては少しお待ちを。音楽を担当したオリヴァー・ネルソンは元々ジャズの作編曲家でサックス奏者、自身のビッグ・バンドでアルバムを多数発表し、ジャズ界のスター・プレイヤーを起用した「ブルースの真実」という名盤があります。60年代後半からは映画やTVの音楽製作もするようになり「ガンファイターの最後(1969)」「特捜追跡班チェイス(1973~1974)」「600万ドルの男(1974~1978)」等の音楽を担当してます。

 

★Amazon.co.jp★

 

刑事コロンボ傑作選
悪の温室/アリバイのダイアル[Blu-ray]

 

 

刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX[Blu-ray]

 

PS: 以下のサイトも運営しています、よろしかったらどうぞ。

 

★ 漫画を中心とした同人サイト
「日刊...かもしれないかわら版」
http://www.geocities.jp/saitohteruhiko/index.html

★伝説の漫画誌「COM」についてのサイト
「ぐら・こん」ホームページ
http://www.geocities.jp/saitohteruhiko/home/gracom/g_home.html
★「ぐら・こん」掲示板
http://gracom.bbs.fc2.com/

★Facebook「Teruhiko Saitoh」
https://www.facebook.com/#!/teruhiko.saitoh.3