■モーターサイクル・ダイアリーズ/THE MOTORCYCLE DIARIES
(原題:Carnets de voyage)
●1952年、医学生時代の23歳のゲバラが年上の友、アルベルトと南米をバイクで旅する際に綴った日記「THE MOTORCYCLE DIARIES/モーターサイクル南米日記」と、共に旅したアルベルト・グランドの回想記と実際の話を元に、映画化されたロード・ムービー。
映画を見る前の段階で、後のキューバ革命に立つゲバラの若き日を振り返るには特別の思いが込み上げてくるのかもしれないと思った。スパニッシュのTRAILERがとても良いイメージをかき立ててくれたのだ。同時に『カンヌ映画祭』開催中にネット上で見た、アルベルトの姿と、常に傍についていたガエルの姿が印象的だった。
さて、本編を見終えた。主演は、ガエル・ガルシア・ベルナル。『アモーレス・ペロス』以降、この作品は特に見逃せない一作となった。また、アルベルト役を演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナ、この二人のスクリーンの中での生き生きとした表情に引き付けられた。
映画は、時折りドキュメンタリー・フィルムのような様子を見せる。
彼等の旅行く先の、そこに生きる人々が実際に登場するからだ。見ていて確認をしていた。これは1952年の設定で間違いないのか、と。共産党夫婦や案内役を買ってでる少年のリアリティ。配した監督の目が確かだったからこそ、また、考え込む。
場面場面で登場する人々の様子は、ゲバラが書いた日記とアルベルトの記述と記憶に従って描かれたはずだが、真実味を与える人々の様子と、実際に今、現地で暮らす人々の様子に、どれだけの違いがあるのだろうか、と不思議な気持ちに落とされた。
チリ、ペルー・・・50年以上も時が経過して、いったい何が変わったのか。国の中心部に行けば、それなりの格好をした若者が蠢いているのかもしれぬが、山間部などの経済変化、流通の経路、そして人の生活は変わったのか。貧しさはどうなった。調べるしかないか、とまたまた問題を抱えることになった。
映画の為に再現されたであろうハンセン病の施設。医師や修道女たちと患者の住むエリアを隔離する深く暗い河が横たわる。
隔離施設は無くなったものの、一般的な人々の偏見に満ちた視線は、いまだに消えてはいない。映画の中で扱われた手袋の意味。これは伝染病ではない、と改めて、この映画で取り上げてくれた事に有り難いと、思う。
何度も何度も、間違った認識を払拭し、語り続けねばならない現実が日本にも、どれだけ残っているか。それこそ気が遠くなる程だ。
この映画は、演技やセリフなどへの注意を怠らなかった。
例え、若き日であろうと、主人公はゲバラである。そこに、偶像化されたヒーローの匂いや神聖化された伝説の男、英雄視されたゲバラの姿が重なってはならない、と意図したのだろう。これはあくまでも二人の青年が旅をして行く中で、出会った人々により彼等の視界が次第に広がって行く、という物語なのだ。
そこで、声高な褒め言葉、その類いの表現を排除し、当時のブエノスアイレスに育った青年らしい会話を盛り込んだ。二人の青年の生真面目さと、邪気のない明るく逞しい様子が伝わる。それが、見る側の想像でその後の彼等の生き方に繋がるのだ。作り手の思いは、彼等がまだ、目覚めていない、観客に目覚めたように思わせてはならない!と、熱のこもった内容が過剰反応を起さないように、実は坦々と穏やかに綴られている、と当方は納得。
バイクの廃棄を見送るアルベルトの姿は、まるで愛馬を亡くした少年の涙。いや、彼等は大切にしたものとの別れの辛さを知っている若者だった。
ゲバラの喘息の発作がどの程度のものなのか、想像出来ないままだったが、アルベルトの証言あってのガエルの演技だと思うが、この発作を抱えて最後の地まで約15年の旅をするのかと、改めて革命家ゲバラへの思いを馳せた。
前半で、ゲバラの両親を演じた俳優の様子も良い。幼いゲバラの重い喘息に苦しむ容体を見かねた両親は、一家をあげて避暑地に移る、そーいう親なのだ。母親役として登場したメルセデス・モラーンの短いながらの好演。映画では描かれなかったが、あの当時、癌におかされていたはず。この母親がいたから、ゲバラがヤンチャでもどこか生真面目さ、一途さのある青年に育ったのだと、納得させられるじゃないか。映画の配役、そして演じる妙とは、このようなところにある。
話がズレない事。まず、観客が見て不可解な点を残さぬように埋めるのは俳優の技であり、それが容易く出来なければ、監督が編集で創意工夫、それもダメなら愚作と呼ぶ物を見せられることになる。
ゲバラについては『ボリビア日記』と、あくまでも当時の銃殺刑はボリビア政府の決定だと嘯く元CIAのフェリスの手記しか、読んでいない。そこで、いったい皆がどんな風にゲバラを呼ぶのか知らなかった。映画の中でゲバラ自身が、また、アルベルトが『おいッ!』『おいッ!』と呼ぶ。そして、彼の行動に引き付けられる人の姿。そうかぁ、ゲバラの周囲にいた者たちは、こんな風に『Che(おいッ!)』と発して、ゲバラを呼んでいたのか、と想像が膨らんだ。
Che Guevara チェ・ゲバラ。『おいッ!ゲバラ』と、気軽に、親しみを込めて呼ぶには訳があったのだ。
映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』では、役を演じる俳優の力が備わっていた。製作のロバート・レッドフォードを前にして、監督サレスが妥協無く撮りたかった絵を撮り、彼らしく編集したのだと思うのだが、出来上がった映画からは、監督サレスの思惑や視線よりもむしろレッドフォードの視線を意識した。
この映画を一等胸熱くして見たのは、製作総指揮者であるロバート・レッドフォードだ。
ポール・ニューマンがプロデューサーでもあり、レッドフォードをキャスティングして、実在した二人の西部のアウトローを描いた映画があった。
『Butch Cassidy and Sundance Kid/明日に向かって撃て!』。
この映画は、ウイリアム・ゴールドマンが、8年の歳月をかけて脚本化にこぎつけたという優れたシナリオで、ジョージ・ロイ・ヒルによって、悲痛な物語に終始することなく、当時のアメリカの社会背景さえ見事に反映させた名作。アメリカ公開は1969年。つまり、68年頃には製作が始まり、撮影も開始されていたのかもしれない。
レッド・フォードは現在、自身が主宰する映画人育成の場を『サンダンス・インスティテュート』と命名しているが、この映画の役名に由来するのだろう。その彼の、一等思い入れが強いと予想する映画のシナリオで用意された舞台は、ボリヴィアだった。
ゲバラが暗殺された翌年、遅くとも翌々年に『Butch Cassidy and Sundance Kid/明日に向かって撃て!』が撮影された。当時、映画『Butch Cassidy and Sundance Kid/明日に向かって撃て!』は、脚本家と監督、そして製作人達が納得ずくで、ゲバラ流儀を以って最後の闘いの場をボリヴィアとした、と思うのが筋だろう、と当方は思っている。
ゲバラが暗殺された翌年に世に出た『ボリヴィア日記』と『The Motorcycle Diaries』を当時のレッドフォードは、どのような気持ちで読んだか、と映画を見終わってその思いを想像する。
随分前からこの映画化の権利を持ち、自らがゲバラの役を演りたかったに違いないレッドフォード。この映画には、彼の並々ならぬゲバラに対する思いが、根底に脈々と流れている、と思うのだ。
老いたベルナルドを目にした時、巧いな、と唸った。
因みに、ゲバラの本名は、Ernesto Rafael Guevara De la Serna(エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ)。アルベルトを演じたRodrigo De la Serna(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)は、名字を見れば?と思えるように、偶然にもゲバラの再従兄弟(はとこ)だったという。
キューバ革命は、この6年後、1958年年5月だった。そして、ゲバラが暗殺されたのは、映画にもあるように1967年10月9日。映画が描いた若き日の、この時代から15年で、ゲバラはこの世から消えた。
ガエル・ガルシア・ベルナルは、実にナイーブな様子を見せ、情熱的なゲバラの若き日を演じ、冴え渡っている。今年の カンヌ映画祭
での上映の模様は、既にご存知だとは思うが無冠に終わった。プロデューサーが自ら映画祭を主宰するレッドフォードであった事も関係したのか。カンヌでの先行上映で、ヴェネチア映画祭は自祭での上映の先を越されたと相当におカンムリだったとか。それだけ、注目度の高い作品だった。事実、アメリカでもプレミア上映以外で既にかなりの注目度であり、既にゴールデン・グローブ賞の外国語賞にノミネートされた。(2004年:製作国イギリス・ドイツ・アメリカ/9月24日LA&NY/拡大公開10月1日/日本公開10月9日)
Trailer(Youtubeに変更)
Official Website
●Directer:Walter Salles ウォルター・サレス
●Screenwriter:Jose Rivera=「THE MOTORCYCLE DIARIES/Che Guevaral
●Cast: Gael Garcia Bernal Rodrigo De la Serna ロドリゴ・デ・ラ・セルナ Mia Maestro ミア・マエストロ Mercedes Moran メルセデス・モラーン Jorge Chiarella Susana Lanteri スザーナ・ランテリ Jean Pierre Noher ジャン・ピエール・ノエル Gustavo Pastorini グスタヴォ・パストリーニ
※またまた、長くなって申し訳ない。
追記:TraikerやClipはリンク切れ。TrailerのみYoutubeに変更、Clipは削除しました。時間の経過ですか…切ないです。アチコチ、リンク切れもあり、このブログのTBも実はアメーバーのアドレス変更で過去のはこちらに飛べなくなっていることに今頃気づいた次第。む、むむむ。。。。2009年1月9日。
2月19日へ飛びますッ
■トラベリング・ウィズ・ゲバラ
~モーターサイクル・ダイアリーズ
※発売未定が決定になりました。
■モーターサイクル・ダイアリーズ コレクターズ・エディション
発送可能時期:発売予定日は2005/05/27。予約受付中。
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル, ロドリゴ・デ・ラ・セルナ, その他
監督:ウォルター・サレス
通常版も併せてリリース決定。
■モーターサイクル・ダイアリーズ:サウンドトラックCD
■エルネスト・チェ ゲバラ関連書籍