『カシスウー論』 ~丸の内のカフェ『M&C cafe編』~


 こんにちは イイダテツヤです。 
 第66回『カシスウー論』は丸の内の丸善4階にある『M&C cafe』編です。

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 先日、TBSの「情熱大陸」で松岡正剛という人を取り上げていた。

 業界では知らない人はいないという伝説の編集者らしいのだが、
 正直言って、私はこの人の名前すら知らなかった。
 
 こんなことを言うとスポーツバカだと思われそうだが、
 私にとって松岡と言えば修三だし、正剛と言えば楢崎正剛なのだ。

 だって、普通そうでしょ。
 せいぜい、松岡の部分がTOKIOの松岡になるくらいなもんでしょ。

 凡人とは、所詮そんなもんですよ、ふん。

 いずれにしても、松岡と聞いて松岡正剛を思い浮かべる人は、
 まあ、ちょっとしたインテリだ。

 ただし、ちょっとしたインテリに限って、話の展開が回りくどくて、
 余計なうんちくばっかり並べることが多いので、
 松岡と聞いて、松岡正剛を思い浮かべた人はぜひとも注意してください。



 「情熱大陸」で松岡正剛という人を初めて観て、最初に思ったのは
 「ダンディなおじいちゃんだなぁ」ということだった。

 今年66歳になったそうだから、紛れもなくおじいちゃんなのだが、
 日本の66歳をズラリと並べたら、間違いなくトップ5に入るダンディさだ。

 体も顔もほっそりとして、ヨージ・ヤマモトのスーツがよく似合う。

 風貌は見るからに思慮深そうで、
 慎重に言葉を選びながら、自身の思考イメージを少しずつ取り出すような話し方をする。

 そんな66歳なんだから、まあ、そりゃダンディですわな。

 そして、このタイプが無類の本好きなのは、ものすごく納得できる。

 ペンを片手に、書き込みをしながら読書をする場面が番組で紹介されていたが、
 その様子を見るだけで「本が大好きなんだ」という思いがひしひしと伝わってくる。

 私はよく「本物の読書家」という表現をするのだが、彼はまさにそのタイプだ。

 私のようにそこそこ本を読むけれど、
 ちょっと読んで、つまらなければすぐにやめちゃうというタイプは、「本物の読書家」にはなれない。

 もちろん「本物の読書家」だって、おもしろい本を読みたいと思ってはいるだろうけど、
 その感覚は我々のような凡庸な読書家とは少し違う。

 往々にして彼らは「本を読むこと自体」や「何かを知るという行為そのもの」に楽しみを見出している。

 彼らの読書は 「おもしろい本を読む」というより
 「その本の中からおもしろさを見つける」という作業に近いのだろう。

 料理のおいしい、まずいに関わらず、
 「この魚の産地はどこだろう?」「なぜ、こんなスパイスを使うのか?」と、ついつい料理を堪能してしまうのだ。

 だから彼らは、どんな本でも割合楽しんで読むし、
 私にとって退屈な文章の羅列としか思えないような部分でも、
 乾いたスポンジが水を吸収するみたいに、ぐいぐい読み進んでいく。

 映画好きのなかにも、このタイプは存在していて、
 映画がおもしろいかどうかより、
 その作品のなかで「何が、どう描かれているか」を感じ取って、なんだかんだと楽しんでしまうのだ。

 本にしろ、映画にしろ、あれは紛れもなく一つの才能だ。
 以前、ある先輩が「楽しむのには才能がいる」と言っていたが、まさにその通りだ。

 私は一生彼らのような「本物の読書家」には(もちろん「本物の映画好き」にも)なれないが、
 「本物の読書家」から話を聞くのはけっこう楽しい。

 へぇ~、アンタはそんなところに興味を持てるのか・・・とか、
 ふ~ん、この本を、そんなふうに読み進めていけるものかね・・・など、
 感心と呆れの中間くらいで彼らの話を聞いているのは、なかなかおもしろい。


 といって、松岡正剛から直接話を聞く機会はそうそう訪れないので、
 彼がプロディユースしている「松丸本舗」という書店に行ってみることにした。

 「松丸本舗」は丸の内丸善の4階にある、いわゆるショップ・イン・ショップの書店で、
 松岡正剛の書棚を再現しているような雰囲気がある。

 本選びから、並べ方まで、松岡正剛のこだわりが散りばめられていて、
 テーマとか、イメージごとに、割合ざっくりと本が集められ、
 まるで家の書棚のようにあちこちで本が横積みになっている。

 書棚に入りきらない本を、手前のスペースに横積みにすることってあるでしょ。
 まさに、あの状態で売っているのだ。

 欲しい本はまず見つからないが、いま、自分が求めている本にひょっこり出合える。
 そんな書店なのかもしれない。

 「本物の読書家」はもちろん、
 「本物の読書家」がどんなふうに本を集め、その世界を深めていこうとしているのかに興味がある人は、
 一度訪れてみるのといい。

 インテリ過ぎる感はあるが、
 「彼のように本を読めたら、本の世界はもっと楽しくなるだろうな」と私は純粋に思った。


 「松丸本舗」で本を買った後、すぐ横にある『M&C cafe』に入って、少しだけ読書をした。
 
 センターの大テーブルの一角で、
 カシスグレープフルーツ(カシスウーロンはなかった)を飲んでいる私の前には、
 小学5年生くらいの男の子が一人で座って、熱心に文庫本を読んでいた。

 お母さんか誰かが買い物をする間に、ここでハヤシライスを食べながら待っているのだろう。

 聡明そうで、少し気むずかしい顔をした少年は、
 店の名物でもあるハヤシライスを2、3口食べただけでスプーンを置き、
 読みかけの文庫本を夢中で読んでいた。

 「この世にこんなおもしろいものがあったのか!」という心の叫びが聞こえてきそうなほど、
 彼は夢中になっていた。

 本にはカバーがかかっていて、私の席からタイトルはわからなかったが、
 あのくらいの年齢で江戸川乱歩あたりを読んでいたら、私のイメージにぴったりだ。

 ちなみに、松岡正剛も「乱歩と久作を読まずに歳をとってはいけない」って言ってたしね。