『カシスウー論』 ~vol.70 そろそろ限界がきたみたいだ編~

 こんにちは イイダテツヤです。

 これまでこのブログは、どこかの店を紹介しつつ、
 好きなことをつらつら書くというスタイルで続けてきましたが、
 誠に勝手ながら、それは前回までで終了とさせていただきます。

 今後、お店の紹介については「ときどき、思いついたときにやる」
 という不定期かつ身勝手なスタイルに変更させていただきます。

 まあ、その、お察しの通り、ネタ切れという感じが否めないわけでして・・・
 私の友人なんかになると「ずいぶん前からネタ切れなのはバレバレだから、
 無理に紹介することないんじゃないの・・・」と厳しいことをおっしゃっていましたので、
 ここは一つ、素直に、従うことにしました。

 「人間、素直が一番」ってよく言いますから、ねえ。

 そんなわけで、今後ますますカシスウーロンの登場頻度は下がりますが、
 引き続き『カシスウー論』をよろしくお願いいたします。

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 つい最近、近藤史恵という作家の『サクリファイス』という小説を読んだ。

 日本ではほとんど馴染みのない自転車ロードレースを題材にしたミステリーなのだが、
 競技のおもしろさがうまく物語に溶け込んでいて、なかなかおもしろかった。

 自転車ロードレースと聞いてもピンとこない人がほとんどだろうけど、
 一番有名な「ツール・ド・フランス」という名称くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。

 簡単に言うと、競輪みたいにトラックをぐるぐる回るのではなく、
 一般の道をグイグイ走るのがロードレースだ。

 自転車のマラソンって感じかな。

 ちなみにツール・ド・フランス場合、23日間(休日が2日ある)で約3300キロを走るので、
 3週間の間、ほぼ毎日150キロを走る計算になる。

 それだけの長さの間に、高低差が2000メートルもあるのだから、
 それは、それはとんでもないレースなのだ。

 山あり、谷ありの道を、東京から静岡まで毎日走ると思ってもらえれば、だいたいそんな感じだ。
 これはまあ、余程のもの好きというか、ちょっとしたアホでなければやってられない競技だよね。


 ただ自転車で競争するというシンプルかつ原始的な競技である反面、
 自転車ロードレースには、かなり複雑で、興味深い点もたくさんある。
 単なる、アホレースでは、もちろんないのだ。

 まず、このレースは団体戦で、
 チームのエースを勝たせることが一番の目的となっている。

 一人のエースを勝たせるために、チームのみんながサポートしながらマラソンを走る。
 例えるなら、そんな感じだ。

 そう考えると、じつに奇妙な競技である。

 オリンピックのマラソンでも、「団体の金メダル」なんてものがあるにはあるが、
 あれは、あくまでも個人の成績がベースにあって、それを国別で順位づけしているに過ぎない。

 自転車ロードレースだって、一人ひとりが自転車に乗り、それぞれ走っているんだから、
 個人で順位を争えばいいじゃないか、と思いたくなるところが、ここがまったく違うのだ。

 チームはだいたい10人くらい。
 エース以外の(アシストと呼ばれる)人たちは、エースを助けるのがほとんど唯一の仕事だ。
 彼らの順位ははっきり言って、関係ない。

 残り9人がそろってビリっけつでも、
 1人が優勝すれば、チームは大喜びで、その日はシャンパンパーティなのだ。

 その何とも言えない美学というか、モラルというか、
 他の競技とはちょっと違う犠牲心に満ちたメンタリティこそ、自転車ロードレースの特徴であり、魅力なのだ。

 アシストは、体力が続く限りエースの前を走って、風よけになりながら、
 最後の最後はエースに先を行かせる。

 エースがパンクしたときには、自分の自転車やホイールを迷うことなく差し出して、
 自分はその場でチームのサポート車が到着するのを待つ。

 それでまた、必死でエースを追いかけて、少しでもエースの風よけになろうとする。
 
 そんな無茶な走り方をすれば、当然レース中盤で疲れ果て、ずるずる順位を落としてしまうのだが、
 そんなヘロヘロのアシストを見て、沿道の観客たちが惜しみない喝采を送る。

 なかなか奇妙なレースだし、けっこう泣ける光景だ。

 それでいて、エースは総合優勝(大会全日のトータルタイム)を狙っているので、
 ステージ優勝(それぞれの日に一番早くゴールすること)をガツガツ狙わないという暗黙のルールもある。
 
 エースとアシストが並んでその日のゴールをしようとしているとき、
 エースはアシストに(それがたとえ他チームのアシストであっても)ステージ優勝を譲るのが、
 エチケットのようになっているのだ。

 「毎日の合計タイムでは僕が上だが、今日のゴールは君のものだよ」
 という感じで、二人でにこやかにゴールする。

 その憎いダンディズムに、これまた観客は熱狂するのだ。


 これがもしアシスト同士の場合だと、自転車ごと吹っ飛んじゃうんじゃないかっていうくらい、
 自転車も体もガンガン左右に揺らしながら、死にものぐるいのゴールスプリントになる。

 大の大人がアホみたいに自転車を漕ぐ姿っていうのは、これまた一見の価値がある。

 ツール・ド・フランスの最終日は、パリのシャンゼリゼ通りに帰ってくるのだが、
 順位が決まっていたり、アシストとしての仕事のない選手たちは、
 スタート直後からシャンパンを飲みながら自転車を走らせるなど、完全にお祭りムードだ。

 過酷かと思えば、妙に美学が優先されたり、
 原始的なレースかと思えば、変に優雅なところがあるなど、
 さまざまな表情を見せてくれるという意味で、自転車ロードレースはじつに興味深いのだ。


 以前は、フジテレビでツール・ド・フランスのダイジェスト番組を放送していたのだが、
 今はその放送もなくなってしまった。

 ツールの過酷なところと、アホみたいなところをうまく織り交ぜた編集で、
 けっこうおもしろかったのに、本当に残念だ。

 まあ、そりゃ、自転車ロードレースなんて、日本人にはまるで人気がないみたいだし、
 そういう私だって、ツール・ド・フランスを一日中観てられるかと言えば、
 それはそれで退屈過ぎるので、ダイジェストくらいでちょうどいいんだけどさ・・・


 いずれにしても、近藤史恵の「サクリファイス」は知識がまったくない人でもけっこう楽しめるので、
 興味をひかれた人はぜひ読んでみてください。


 自転車ロードレースのアシストのことを考えていると、
 同じようなカテゴリーで、アメフトのラインをやる選手のことを思い出す。

 あの選手たちも、まさに「サクリファイス(犠牲)」の精神なくして、プレーなどできない。

 だって、彼らは、一生ボールに触ることなく、
 ただひたすら前の選手とぶつかったり、つかみ合ったりしているだけなんだよ。

「これだったら相撲とか、レスリングのほうが楽しいんじゃないか?」と思わないのだろうか。
 私なら絶対思っちゃうね。

 ところが、彼らは思わない。
 そこが、なんともいいんだよね。

 アメフトにしても、自転車ロードレースにしても、競技を観る機会はまずないだろうけど、
 もし、アメリカやヨーロッパで観戦するチャンスに恵まれたら、
 ぜひとも、彼ら(サクリファイスな連中)を応援してあげてください。

 そんな選手たちの奥さんがものすごい美人で、
 めちゃくちゃかわいい子どもと休日にバーベキューでもしていたら、
 「おぉ、よかったね、よかったね」と思うよね。

 いや、待てよ、
 もしかして、あんまり美人だと、そうは思えないのかな・・・・
 まあ、そこのところはどうでもいいけどさ。



 
 

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