三谷幸喜作・演出、野田秀樹主演の舞台「おのれナポレオン」を観てきた。

 最初に断っておくと、この舞台をこれから観るという人は、
 舞台を観てから、このブログを読むことをオススメします。
 もちろん、内容的なネタバレはしないつもりですが、どうしたって余計な情報が含まれてしまい、
 舞台を観る新鮮さが損なわれてしまうとは思うので、そこのところは十分注意してください。


 さて、舞台。
 何というか、それはいろんな意味でとても新鮮な体験だった。

 三谷の舞台に野田が出る。
 野田秀樹自身、自身の演出作以外に出演するのは初めてだというから、
 それだけでもちょっとした話題になっているし、相手が三谷というのも興味深い。
 ちょっとばかり芝居をかじってきた私としても、どうしたって「その部分」は気になってしまう。

 本当なら、そんなややこしいことは考えず、ただ純粋に舞台を楽しめばいいのだと思うし、
 そんな「いかにも通ぶった見方」をするヤツを見かけたら、「演劇人ぶりやがって」と軽蔑したいところだが、
 今回ばかりはその「軽蔑される側」に、私もどっぷりはまってしまっている。

 「三谷ワールドに野田が入り込む感じになるのかなぁ」
 それとも「野田が出演することで、やっぱり野田寄りの芝居になるのか」なんて余計なことを、
 ついつい考えてしまうのだ。

 この日が初日ということもあって、
 客席全体にも、そんな緊張感というか、期待感というか、ワクワクした感じが漂っているように感じられた。
 良くも悪くも、いわゆる演劇通が、この初日には集まっているのだろう。

 私の斜め前の座っていた、演劇人と思われる30歳前後の男女なんて
 「舞台が演出家のものか、役者のものか、そこが見所だね」とか言っちゃって、
 私以上に余計なことを考えつつ(そして、話しつつ)開演の時を待っていた。

 「そんな余計なことを考えるんじゃないよ」と、大人の観劇者として一言諭してあげたいところだが、
 その病魔に冒されているのは私も同じなので、
 「なるほど、たしかにそういう側面もあるのかぁ・・・」なんて一緒になって考えてしまった。


 何はともあれ、芝居が始まってみると「とっても自由な野田秀樹」がそこにいた。
 私の個人的な感想を言うならば、「三谷ワールドに野田が入った」というより、
 三谷を含め、その他芸達者な役者たち(天海祐希とか、山本耕史とか、内野聖陽など)が
 みんなでしっかりとお膳立てをして、
 その踏みならされた真ん中で野田が自由に遊んでいるという感じだった。

 演技そのものはいつもの野田のスタイルだが、
 その解き放たれっぷりは「いつもの野田」とはいくぶん違い、とても魅力的に感じられた。

 野田が演出をしている舞台だと、
 いくら野田が舞台の上で遊んでいようが「目の奥は笑ってない」みたいな感じがぬぐえず、
 眉間にしわを寄せながら、「遊ぶ役割」を責任を持って果たしている、という感じがするのだ。

 もちろん、それは三谷の舞台でも同じなのだろうが、
 役者に専念しているせいか、非常に伸びやかに、いい意味で、無責任に芝居をしていた。

 もともと私は、役者・野田秀樹はあまり好きではなかったが、
 三谷の舞台で遊んでいる野田秀樹はとてもいいものだった。

 三谷が野田の良さを引き出していると言えば、それまでだが、
 やっぱり役者というのは、作品全体のことを考えたり、他の役者のことを考えたりするものではなく、
 ただ純粋に自分を演じるべきものなんだなぁ、と改めて思った。

 それが一番の感想といえば、感想。

 作品全体としては、いわゆる「三谷カラー」は少なめで、
 どちらかと言えば「三谷ファン」の私としては若干残念な気もしたが、
 「自由で、奔放で、無責任な野田秀樹」が観られただけで満足できる舞台だった。


 そして、意外におもしろかったのがカーテンコール。

 一通りのカーテンコールについては段取りが決まっていたのだろうが、
 役者が二度のカーテンコールを終えた後も、再度の登場を求める観客の手拍子が収まらない。

 これはいかにも「野田の舞台」を観劇した後のお客さんのリアクションだ。
 野田秀樹の舞台では4、5回のカーテンコールは当たり前。
 最後は野田一人でお客さんにあいさつするみたいな「お決まり」があるのだ。

 とはいえ、今回は「野田の舞台」ではない。

 この「野田が出ているのに、野田の舞台ではない」という初めての体験にお客さんも少し戸惑っていて、
 「こんな風に手拍子していていいのかな・・・」「そろそろやめたほうがいいのかな・・・」
 みたいな、変な遠慮が叩く両手に含まれていた。

 それでも、お客さんが拍手を続ける限り、役者たちは舞台に出てこないわけにはいかないので、
 おずおずと再登場した役者たちは、なんとなく野田のしきりで
 「あっちのお客さんにあいさつして、次はこっちのお客さん」という感じで、所在なさげにお辞儀をしていた。

 さすがに野田自身も、飛んだり、跳ねたり、両手を振ったりはしなかったけど、
 初日ならではの「とまどう感じ」はなかなかおもしろかった。


 そんなさまざまな要素が入り込んだこともあって、とても新鮮で、興味深い観劇だった。
 
 内容的には、もっと「がっつりとした三谷ワールド」に野田が入る感じが観たい気もするが、
 それじゃあ野田の良さが出ないんだろうなぁ、とも思う。
 
 というわけで、こと今回に関しては、
 「舞台は役者のものだった」という結論を私なりに下してみたのだが、
 斜め前の演劇人カップルはどう思っただろうか。

 そのあたりの見解をすごく聞いてみたかったけど、
 もちろん私にそんな勇気はなく、そそくさと会場を後にした。