「飲食店経営をマネジメントとマーケティングの力で加速させる」NEXT5コンサルティングの雑賀です。

「包丁一本さらしに巻いて〜」そう歌い出すのは、月の法善寺横丁という昔の歌です。若い頃、お世話になった職人さんたちがカラオケでよく歌っていました。あの歌には、腕一本で勝負する料理人の誇りと覚悟が滲んでいます。技術に人生を賭けるという生き方。その背中を、何度も見てきました。

飲食店は、和食・中華・洋食といったジャンルを超え、無数の職人たちが磨いてきた技術と、代々受け継がれてきた知恵によって支えられてきました。一皿の裏には、何十年という修練の時間があります。火入れの感覚、包丁の角度、味の最終調整。その一つひとつが、言葉では説明できない積み重ねです。

しかし現代では、職人は貴重な存在である一方、マネジメントの立場から見ると「扱いづらい存在」と感じられることもあります。強いこだわり、独自の美学、譲れない技術観。それは衝突の原因にもなりますが、裏を返せば「本気で料理と向き合ってきた証」でもあります。衝突を避けるために距離を取るのか。それとも、その力を活かす設計をするのか。ここで経営の力量が問われます。

もし職人を雇うのであれば、やるべきことは一つです。奪うのではなく、活かすこと。

調理器具が近代化し、経営としてレシピの標準化を重視したとしても、職人から技術や創造性を奪う必要はありません。標準化は再現性のために必要ですが、創造性まで管理しようとすると、職人の火は消えます。むしろ経営側が整えるべきは、「挑戦できる環境」です。

商品開発のための予算を用意する。
定期的に商品試食会を行う。
評価だけでなく、対話の場をつくる。
決められたレシピを作るだけでなく、腕を磨き続けられる舞台を与える。

経営は枠を作り、職人はその中で最大限に力を発揮する。この関係性が築ければ、衝突はエネルギーに変わります。

大切なのは、経営都合ではなく顧客視点で考えることです。お客様が何を求めているのか。どんな体験に心を動かすのか。その問いを軸に、新しい価値を共に創る。経営が数字だけを見て、職人が技術だけを見ると、方向は揃いません。顧客を中心に置いた瞬間に、両者は同じ方向を向きます。

職人の誇りと、経営の仕組みは対立するものではありません。技術という「縦糸」と、マネジメントという「横糸」が交わったとき、初めて強いブランドが生まれます。どちらかが欠ければ、布はほどけます。

包丁一本で生きてきた職人の背中を尊重しながら、その腕が最大限に輝く舞台をつくる。それこそが、職人と仕事をするこれからの飲食経営に求められる在り方ではないでしょうか。