「飲食店経営をマネジメントとマーケティングの力で加速させる」NEXT5コンサルティングの雑賀です。

日本の企業でも「理念教育」は広く行われています。朝礼で理念を唱和したり、社内研修で経営理念を学んだり、クレドカードを配布したり。特に飲食店では、現場の空気や接客品質に直結するため、理念を浸透させたいという意識は強いです。

しかし現実には、理念教育が「覚えるもの」「唱えるもの」「守るもの」に寄ってしまい、現場の行動や数字に結びつかず、形骸化しているケースも少なくありません。理念は大事なのに、理念が現場で使われていない。ここが日本の理念教育が抱える大きな課題です。

一方、アメリカの理念教育は少し性質が違います。アメリカでは理念教育が「社員に理念を教える」ではなく、理念を軸に「会社を運用する」ための仕組みとして設計されています。つまり理念は、社内の空気づくりではなく、意思決定のルールとして機能しています。

アメリカ企業の多くは、Mission(使命)・Vision(将来像)・Values(価値観)を明文化し、それを採用・評価・育成・昇格・解雇にまで組み込んでいます。理念が「言葉」ではなく「基準」になっているのです。だから理念はポスターではなく、現場で毎日使われる判断基準になります。たとえば、ある社員が迷ったときに「この判断は会社のValuesに沿っているか?」で意思決定する。理念が行動のルールとして働いているわけです。

さらにアメリカでは、理念教育の中心が「研修」よりも「採用」にあります。価値観に合う人を採り、合わない人は採らない。理念浸透の前に、理念に合う人材だけを入れる。ここが日本と決定的に違うポイントです。日本は入社後に教育して揃えようとしますが、アメリカは入社前に揃えてしまう。だから浸透が早いのです。

そしてもう一つの特徴は、理念教育が「ストーリー」と「称賛」で回っていることです。理念を体現した行動が起きたとき、それを社内で共有し称賛する文化があります。理念はスローガンではなく、「行動事例」として蓄積されていきます。理念を覚えるのではなく、理念が行動として再現されるように設計されているのです。

このアメリカ型の考え方は、日本の飲食店にも非常に参考になります。なぜなら飲食店は、理念が最も必要な業界だからです。飲食店の現場は毎日イレギュラーが起きます。忙しさ、クレーム、欠勤、食材不足、満席、予約のズレ。マニュアルだけでは判断できない状況が必ず発生します。その時に必要なのが、理念という「判断基準」です。

つまり飲食店の理念教育とは、社員に理念を暗記させることではありません。現場で迷った時に、誰でも同じ方向の判断ができるようにすることです。理念は、接客の気持ちを揃えるためのものではなく、現場の判断を揃えるためのものです。

日本の飲食店に必要な理念教育のあり方は、次のように整理できます。

理念はまず、現場で使える言葉にする必要があります。抽象的で立派な言葉ほど、現場では使われません。飲食店に必要なのは、店長もアルバイトも判断に使える短い言葉です。そしてそれを、行動基準に変換します。「理念 → 行動ルール」まで落とし込まれて初めて教育になります。

次に、理念教育は研修で終わらせず、採用・評価・育成に組み込むべきです。理念を大切にしたいなら、理念に沿った行動を評価する仕組みが必要です。理念を体現した人が評価されず、数字だけで評価されるなら、理念は確実に死にます。理念と数字は両立できます。むしろ理念が強い店舗ほど、リピートが増え、採用が安定し、結果として売上も利益も強くなります。

そして最後に、理念教育は「事例共有」で回すべきです。理念を読ませるよりも、理念が発揮された瞬間を共有する。たとえば「今日、雨の中で来店したお客様に対してスタッフがこう対応した」「クレームの時にこう判断した」「忙しい中でもこういう一言があった」こういう事例が、理念を現場に根付かせます。

日本の飲食店にとって理念教育とは、精神論ではありません。
店舗が増えてもブレないための「仕組み」です。
店長が変わっても、社員が入れ替わっても、接客と判断が揃うための「経営技術」です。

理念教育とは、心を揃えるためのものではなく、行動を揃えるためのもの。
アメリカ型の理念教育の本質はここにあります。