「飲食店経営をマネジメントとマーケティングの力で加速させる」NEXT5コンサルティングの雑賀です。
私たち飲食店の人間は、一日に何度も「ありがとうございます」と口にします。ご来店の瞬間、オーダーを受ける時、料理提供、レジ、お見送り。数え切れないほど発している言葉です。あまりに日常的で、気づけば反射的に出てくる言葉になっている人も少なくありません。
しかし、その「ありがとうございます」に、本当に想いは乗っているでしょうか。忙しいピーク中、頭の中は次のオーダーや段取りでいっぱい。口は動いているけれど、目は合っていない。声のトーンは一定で、気持ちが追いついていない。そんな瞬間は、誰にでもあります。
問題なのは、回数ではありません。何度言ったかではなく、どれだけ伝わったかです。お客様は言葉そのものよりも、声の温度、間の取り方、視線、姿勢から本心を感じ取ります。同じ「ありがとうございます」でも、目を見て一拍置いて伝えられた言葉は記憶に残ります。一方で、作業の一部として流れた一言は、驚くほどあっさり忘れられます。
飲食店の仕事は、料理を出すことではありません。作業をこなすことでもありません。人と人が向き合う仕事です。料理のクオリティやオペレーションが一定水準に達した店ほど、最後に差がつくのは「人の温度」です。その温度は、派手な接客ではなく、日常の何気ない一言に現れます。
特に注意したいのは、忙しい時ほど感謝が薄くなりやすいという点です。売上をつくっているピークタイムこそ、お客様が一番多くの選択肢を持っています。その時間帯に、作業的な接客が続くと、「悪くはないけど、また来なくてもいい店」になってしまいます。致命的なミスがなくても、記憶に残らなければ再来店は生まれません。
だからこそ、一日に何度も言う言葉だからこそ、意識してほしいのです。この一言は誰に向けた感謝なのか。時間を割いて来てくれたことへの感謝なのか。待ってくれたことへの感謝なのか。一緒にピークを乗り切っている仲間への感謝なのか。その対象を一瞬でいいので考えてから口にする。それだけで、言葉の質は変わります。
感謝は、教え込むものではなく、向き合う姿勢から生まれます。マニュアルに書いても、研修で唱和しても、本心が伴わなければ意味はありません。店長や上司が、誰にどう感謝しているか。その背中を見て、現場の言葉は整っていきます。
「ありがとうございます」は、飲食店において最も多く使われる言葉であり、最も価値を持つ言葉です。流さないこと。作業にしないこと。その一言が、また来たい理由になることは、決して少なくありません。
