「飲食店経営をマネジメントとマーケティングの力で加速させる」NEXT5コンサルティングの雑賀です。
オンコール体制とは、通常は勤務していないものの、呼び出しがあればすぐに現場へ出動できる待機状態のことを指します。突発的な欠勤、設備トラブル、重大クレームなど、飲食店では「想定外」は必ず起こります。その際に営業を止めず、お客様との約束を守り続けるための仕組みがオンコール体制です。これは特定の誰かの善意や根性に頼る制度ではなく、現場を止めないための経営の保険と位置づけるべきものです。
現実的な運用としておすすめなのは三層構造です。一次オンコールは当日出勤が可能な多能工のアルバイト、二次オンコールは副店長、三次オンコールは店長やエリアマネージャーという階層で構成します。連絡は必ず一次から入り、10分以内に切り替えを行うルールとします。この時間基準が曖昧だと、誰が対応するのか迷っている間に現場が混乱し、結果として営業停止やサービス低下につながります。
手当の目安も明確に定めておく必要があります。アルバイトは待機で1日500〜1,000円、副店長クラスは1,000〜2,000円が一つの基準です。実際に出動した場合は、通常の実働時給に25〜50%の割増をつける運用が現実的です。ここを曖昧にしたり、コストを理由に削ろうとすると、制度は形だけになり、必ず形骸化します。オンコールはシフト表の中にあらかじめ組み込み、「いざという時に誰が動くのか」が誰の目にも分かる状態にしておくことが重要です。
もう一つ極めて重要なのが悪用防止のルール設計です。発動できるのは店長・副店長のみとし、「今日は忙しいから」といった理由では発動しないことを徹底します。発動理由は必ず記録に残し、同一人物への連続割り当ては禁止します。また、オンコール待機中であっても私生活への過度な制限やペナルティは一切設けません。こうした配慮がなければ、オンコールは不満と不信を生む制度へと変わってしまいます。
オンコール体制は、便利屋制度でも根性論でもありません。目的、権限、金額、回数、理由。そのすべてを明文化し、全員が同じ認識で運用してこそ、初めて「止まらない現場」をつくる経営の武器になります。トラブルが起きてから考えるのではなく、何も起きていない今のうちに備える。この姿勢こそが、拡大期の飲食店を守る最大のリスク管理なのです。
