さだまさし作詩【まほろば】の続きが【晩鐘】だと思いませんか。

中秋の満月の夜、奈良で別れの予感に迷っていた二人。
初冬の銀杏が舞い散る交差点で別れ、僕の時間は止まってしまった。


 

 

そして、数年が流れ
『時の流れは まどうことなく うたかたの夢 押し流してゆく』
おかげで、哀しかった別れは、優しい想い出になっていた。

エピローグである【晩鐘】を暗示するフレーズが【まほろば】に沢山あります。

『君は待つと 黒のふる迄』
→『風花が ひとひら ふたひら 君のに舞い降りて』
 ※風花は青空からちらちらと舞う粉雪なので、
   どちらも白く冷たいものが髪に降りている

 ※銀木犀の白い花びらが散る様子がまるで雪のようで

   あるということから、風花と呼ぶとの説があります。

   そして、銀木犀の花言葉は初恋。これらのことは

   晩鐘を楽しむ上でキーワードだと思います。

『時の流れは まどうことなく うたかたの夢 押し流してゆく』
→『まるで流れる水の様に 自然な振りして冬支度』

結ぶ手と手
→『僕の指にからんだ 最後のぬくもり

『結ぶ手と手の虚ろさに 黙り黙った 別れ道
→『眩暈の後の虚ろさに 似つかわしい幕切れ

『遠い明日しか見えない僕と 足元のぬかるみを気に病む君と』
→『君は信号が待ち切れなかっただけ』

『うたかたの
→『まるで長い

『振り向けば』(振り返ると同じとすると)
→『想い出と出会った』

移ろい去って
→『心変わり』 して 『向う岸に向かって駆けてゆく

満月』『鳴く鹿
→『の終わり』
 「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の 声きく時ぞは悲しき」を連想するように
 特にのオス鹿の発声する鳴き声は、代表的な鳴き声として有名。

 また、満月鹿も季語は

の声ひとつ』
→『晩



 【晩鐘】が  1977年7月25日発売アルバム『風見鶏』の曲、 

【まほろば】が1979年4月10日発売アルバム『夢供養』の曲と

2年ほど時間差がありますが、関連あると想像します。

よろしかたら、2つの歌を解説しながらつないだ私の物語を読んで下さい。

 なお、【まほろば】の舞台となった『春日山から飛火野辺り』は今は遊歩道が整備されたようですが、歌が作られた当時は『足元のぬかるみ』にあるように獣道のようだったと聞いた事があります。

 

 『馬酔の枝に引き結ぶ 行方知れずの懸想文』 は、2つの意味があり、

一つは、「獣道の道しるべのために枝に巻いた赤いテープや、枝に結んだ御神籤を恋文(懸想文)と喩えた。」  もう一つは、「昔の人も恋について色々語ってきたが、時間とともに誰に向かって言ったのか判らなくなった。僕たちの今日の語らいも、将来、きっと同じ様になるだろう。」とここでは解釈しています。なお、

  『特に「ささやきの小径」は名の通りに、二人並べば一杯だろうという程細く、

   うねうねとつながり、時折、馬酔木の枝に御籤など結ばれていて、

   ふと人麻呂の心持ちが知れる様な気にもなります。』

とまほろばのライナーノーツにあります。

 

 また、ご存じとは思いますが、『哀れ蚊』とは、秋まで生き残ってしまった、弱々しくて人を刺す力もない蚊です。晩鐘のライナーノーツの冒頭に

  『季節外れの弱々しい蚊を、古人達は「あわれ蚊」と呼び、手で打ったり、

   除虫香をたいたり、という事をしなかった、と言います。『粋』などという

   言葉以前に、我々日本人の生命観を表す、優しい話だと思います。』

とあります。
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【晩鐘】
 『風花が ひとひら ふたひら 君の髪に舞い降りて』

青い空から粉雪が、ひとひら ふたひら 君の黒い髪に舞い降りて 少しの間だけ冬日をあびて輝いている。




 

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【晩鐘】
 『そして紅い唇沿いに 秋の終わりを白く縁取る』

寒さと僕を傷つけずにうまく伝えられるだろうかという不安と緊張で君の頬はますます白くなり、紅い唇が引き立っている。それは、まるで最後の言葉を際立たせようとしているようだ。


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【まほろば】
 『移ろい』
【晩鐘】
 『心変わり告げる 君が痛々しくて 思わず言葉を遮った僕』
 『別れる約束の次の 交差点向けて』
 『僕の指にからんだ 最後のぬくもり』

ついに、君は心変わりを告げはじめた。しかし、それが痛々しくて、いや、本当は聞くのが嫌だったから、思わず君の言葉を遮り
 「もう、いいよ。あの交差点で別れよう。」
との僕の言葉に君は小さくうなずき、手をつないで黙って歩いた。


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【まほろば】
 『青丹よし平城山の空に満月』
 『結ぶ手と手の虚ろさに 黙り黙った 別れ道』
 『馬酔木の森の馬酔木に』

 『帰り道』

【晩鐘】
 『秋の終わり』

ほんの少し前の中秋の満月の夜だったけど、奈良の馬酔木の森の時も同じ光景だった。最初は君と出会った頃や楽しかった事を話していたが、暗くなるにつれて、色々な迷い、切なさ、今後の事などを話し最後は黙ったまま馬酔木の小道を帰ったよね。



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【まほろば】
 『馬酔の枝に引き結ぶ 行方知れずの懸想文』
 『川の流れは よどむことなく うたかたの時 押し流してゆく』

 『馬酔木(まよいぎ)に』

あの時の言葉は、流されて消えてしまった。本当に暗くなり道に迷ったけど、だれかが枝に結んだ細くきれいな短冊を頼りになんとか帰ったよね。いや、そうやって歩いたのは別な所だったかも。


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【まほろば】
 『君を捨てるか僕が消えるか いっそ二人で落ちようか』
 『例えば此処で死ねると 叫んだ君の言葉は
  必ず嘘ではない けれど必ず本当でもない』

正直、僕は別れ方も考えていた。しかし、君は色々な思いを口にしたけど、自分から別れる事は考えてなかったと思う。そういえば「此処で死ねる。貴方はどうなの」と君は感情が高まって叫んだよね。この極端な思いさえ、少しは心にあったので嘘ではない。けれど、何が一番良いのか、どうしたら良いのか迷っていたから、すべての言葉は本心そのものでもなかった。

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【まほろば】
 『川の流れは よどむことなく うたかたの時 押し流してゆく』
 『日は昇り 日は沈み振り向けば 何もかも移ろい去って
  青丹よし平城山の空に満月』
【晩鐘】
 『秋の終わり』

 『別れる約束の次の 交差点向けて』
 『まるで流れる水の様に 自然な振りして 冬支度』

人が恋し、悩んで、そして別れを悲しんでも、人生自体がうたかたであり、自然や川は淡々と時を刻んでそれを押し流してゆく。今、自然の摂理により、冬の寒さに備えて木々は紅葉と別れている。ぼくらも別れを向かえようとしている。いや、みんな違う。自然な振りをしているだけだ。別れたくない。


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【晩鐘】
 『哀しみが ひとひら ふたひら 僕の掌に残る
  時を失くした哀れ蚊の様に 散りそびれた木犀みたいに』
 『風花が ひとひら ふたひら 君の髪に舞い降りて』

後悔と哀しみが1つ2つと残ってしまった。そう、僕は自から決断し君に告げる時を逸してしまった哀れ蚊だ。せめて、銀木犀のように花びら散らし風花になって君の黒髪に舞い降りたかった。


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【まほろば】
 『時の流れは まどうことなく うたかたの夢 押し流してゆく』
【晩鐘】
 『眩暈の後の虚ろさに 似つかわしい幕切れ 
  まるで長い夢をみてた ふとそんな気がしないでもない』

ほんとうに君と過ごした楽しかったこと苦しかったこと悩んだことなどは、夢だったかもしれない。


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【まほろば】
 『移ろい去って』
【晩鐘】
 『僕の指にからんだ 最後のぬくもりを 覚えていたくて つい立ち止まる
  君は信号が待ち切れない様に 向う岸に向かって駆けてゆく
  銀杏黄葉の舞い散る交差点で たった今 風が止まった』

交差点に近づくと、青信号が点滅し始めた。「良かった、もう少し一緒にいられる」と思った時、不意に君は手を放し さよならも言わずに駆けてゆく。浅黄色(あさぎいろ)の肩掛けを羽織った君は風に吹かれた銀杏にまぎれて見えなくなった。僕の指に残る君の最後のぬくもりを少しでも永く感じていたくて、僕は胸の前で手を重ね立ち止まった。そして、僕の時間が止まった。


 

 

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【まほろば】
 『例えば君は待つと 黒髪に霜のふる迄
  待てると云ったがそれは まるで宛て名のない手紙』
【晩鐘】
 『風花が ひとひら ふたひら 君の髪に舞い降りて』

もしあの時、二人が遠く離れていたら、思いを一気に手紙にしたためるが、宛名を書く段になって、やはり違うと新たな手紙を書き始める事を繰り返していたに違いない。だから、さっき言った事と今言っている事は必ず違っていた。あの時君は、「黒髪に白いものが混じるまで待つ」と言ってくれたが、どうするか迷っていた中の1つの思いで、答えでは無いし、次に話す言葉がもちろん違うものになると頭では判っていた。でも、この言葉に僕は望みを掛けてしまった。そして、図らずも、君の黒髪に白い雪が舞い降りる今日まで、君は待っていてくれたのかもしれない。

「宛て名のない手紙」の解釈については、【1.さだまさし「まほろば」の歌詩「宛て名のない手紙」の意味】 をご覧ください。
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【まほろば】
 『遠い明日しか見えない僕と 足元のぬかるみを気に病む君と』

想えば、僕は一浪して21歳の大学生で研究や旅に没頭し大学院まで行くつもり。そして君は2つ上。就職して1年後に結婚するとしたら5年後になるので君はもう28歳になってしまう。付き合い始めた時はこんなこと気にもしなかったのに、君のふるさとの奈良に行ってからおかしくなったよね。親戚から結婚について言われたのだろうね。


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【晩鐘】
 『君は信号が待ち切れなかっただけ 例えば心変わりひとつにしても
  一番驚いているのはきっと 君の方だと思う』
【まほろば】
 『遠い明日しか見えない僕と 足元のぬかるみを気に病む君と』

そう、君は遠い先にある結婚への青信号が待てなかっただけなんだ。そして、他に好きな人が出来て僕に別れを告げるなんて、ついこないだまで思いもしなかった。この心変わりひとつだけでも僕以上に君は驚いていることだと思う。


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【晩鐘】

 『秋の終わり』
 『流れに巻かれた浮浪雲 桐一葉』
【まほろば】
 『青丹よし平城山の空に満月』

僕は、風に吹きちぎられ、はぐれ雲になってしまった。
「はぐれ雲」といえば、「君の事を聞かれたら 一人旅だと笑います」という歌があったが今は笑えないし好きな旅も出来ない。本当に、「一人きり」になってしまった。おや、大きな落ち葉が舞い上がっている。そうだ「一人きり」より「桐一葉」の方が情景にあう。「浮浪雲 桐一葉」響きも語感も良いし。
桐は他の木より早く散ると言われるが 僕達の桐一葉は、何時だったのだろう。秋の奈良の時は次の夜から欠ける満月で、すでに僕達にとって大きなものが崩れ始めていた。「線香花火」いやそれは同級生の・・・・。


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【まほろば】
 『鐘の声ひとつ』
【晩鐘】
 (曲名)

え! 奈良では鐘の音を聞いたが、まだ、青空の昼下がりのはず。なぜ鐘の音が。

そうか、今日は空が紅色(くれない いろ)に染まっている。 




 

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【晩鐘】
 『銀杏黄葉の舞い散る交差点で たった今 想い出と出会った』
【まほろば】
 『時の流れは まどうことなく うたかたの夢 押し流してゆく』

銀杏黄葉の舞い散る交差点で、あんなに哀しい別れを想い出し浸っていた事に、晩鐘のおかげで、たった今気が付いた。あの時は出来なかった、奈良の想い出を手繰り寄せ、さらに「桐一葉」を連想するなんて、時の流れのおかげでほんとうに優しい想い出になっているんだな。僕たちは、「まほろば」というすばらしい世界に生きているのを実感するよ。君もどこかで幸せに暮らしていれば嬉しいよ。

 

 

 

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【晩鐘】に対する私の歌詩全体の解釈です。


 静かに演奏される2番の途中の

「♪心変わり告げる君が痛々しくて 思わず言葉をさえ切った僕」

までが実際に数年前にあった情景。

 

 歌はすぐ後の「♪君は信号が待ちきれなかっただけ」から、徐々に色々な楽器が加わりシャウトし始めます。ここからは、今、初めて男性に涌いた心情。 つまり、数年前止まった男性の風(時)が動き始めます。 しかし、あまりに哀しい別れだったので想い出に没頭して現実と区別がついてない状態です。

 

 そして「♪流れに巻かれた浮浪雲 桐一葉」 も、今の情景ですがここで「晩鐘」が鳴り我に返る。それが、「♪銀杏黄葉の舞い散る交差点で たった今想い出と出会った」との歌詩の意味で、男性は優しい気持ちになり過去が想い出になっていたことに初めて気が付いた。

 

 風花は青空から ひらひら降ってくる雪、晩鐘は日暮れに鳴る、そして、曲調からこのように考えています。