資産としての絵画の話(2) | 今、私が考えていること

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毎日の出来事を、新聞やネット上の記事からピックアップして、私なりの意見などを書き綴ります。

(これは25年ほど前の話ですので、今は変わっているかもしれません)

モジリアーニの作品を穴のあくほどじっくり見ていた社長は、しばらく考えていた末に私にこう言いました。「おそらくこれは本物ではないと思う」 ガッーン! 私は衝撃を受けました。価値が無いのなら担保価値は無い。しかしなぜ贋作と判断したのですか? と尋ねると、「筆のタッチがちょっと違うように思う」とのこと。これは私には全く分かりませんでした。そこから社長は真贋の鑑定についていろいろ話してくれました。

 

有名な絵画作品は非常に高価なため、自宅の部屋にそのまま飾ると言うことはしない。部屋の温度や湿度、陽が当たったり、人の手が触れたりなどすれば価値が失われてしまうからです。そこで本物は別に保管しておいて、自宅には腕のいい画家に書かせたレプリカを飾る。このレプリカはつまり贋作ですが、時としてこれが本物として売買されてしまうことがあるのだそうです。

 

なぜそんなことになるのかというと、真贋鑑定の判定は最終的には画家本人か画家の親族が決定します。ほとんどの場合名画を描いた画家本人は既に他界していますから、その遺族が判定するのです。その際に「これは本物でしょうか?」などと聞かれても、さすがの遺族とはいえ分かりません。そのため贋作が本物になってしまうこともあるのです。

 

そういう事例は結構多いそうです。絵画を買うと言うことは極めてリスクが高いようです。だから絵画で儲けようなどと企んでも、ミイラ取りがミイラじゃないですが、自分が偽物をつかまされて大損することがあります。

 

ついでにもう一つ絵画への投資に関するリスクについて書きます。この話は担保物件のうち一つの作品が某県立美術館に展示されていたため、その確認に美術館を訪問した際に、学芸員の方から聞いた話です。

 

この作品は美術の教科書にも載っている有名作品です。これは美術館が鑑定して本物と判断したので所有者から預かって展示しています。ですから真贋の判定は不要です。ではなぜ私がわざわざ訪問したのかというと、万一この絵画を不良債権の回収のために売却する場合のことを考えたら、東京の美術品専門倉庫に移して保管した方がいいのではないかと考えたからです。しかし県立美術館ではこの作品が目玉作品になっているようなので、一応事情は相談しておく必要があると思ったからです。

 

学芸員の方は非常に困った顔をしました。売らねばならないのであれば仕方ありません。でもそれまではどうかここで展示させてほしい。これほどの作品を日本人が直接見られると言うのは貴重です。倉庫なんかに閉まってしまうのはもったいない。

 

それに実際問題として、美術作品を輸送するのは物凄く大変なんです、という。単に梱包してトラックに積んで運ぶと言うわけに

はいかない。美術品専用輸送車という特殊なトラックをチャーターし専門の輸送担当者に任せなくてはいけない。更に輸送中の不測の事故や盗難などに備えて美術品の保険にも入らなくてはいけないと言うのです。私は「その専用輸送車というのはどこから借りればいいのか?」と質問すると、「大手の損害保険会にに聞いてほしい」とのこと。

 

この輸送手段をとらずに、例えば自分の車で運んでしまうと、それだけで評価が下がってしまいます。また、美術館や美術品専門倉庫以外で自宅とか会社のオフィスなどで保管した場合も評価が下がります。もっとも、一生売らずに家の部屋に飾っておくのであればこんなことは関係ありません。

 

資産としての絵画というのは、本当に面倒なしろものです。結局私はこの美術館の名作はそのまま美術館で展示していただくことをお願いしました。

その後、私のところには絵画のバイヤーからの問い合わせが来るようになりました。(つづく)