それでもまだ金利は上げられない | 今、私が考えていること

今、私が考えていること

毎日の出来事を、新聞やネット上の記事からピックアップして、私なりの意見などを書き綴ります。

日銀がマイナス金利政策を解除し、YCCも撤廃、それでも金利は上がってはいけない事情がある。それは日銀が大量に保有している国債の残高に理由がある。既に昨年の上期末の時点で日銀は580兆円を超える国債を保有している。これは主にYCCを実施したことで公社債市場でことごとく日銀が10年国債などを独占的に買い占めてきたからである。本来、公社債市場では毎日投資家が国債などの債券の売買を行っていて、その需要と供給の関係によって債券の市場価格が変動し、金利が変動します。例えば、売りが多くなると、債券の市場価格は下落し金利は上がり、逆に買いが多くなると債券の市場価格は上昇し金利は下がります。

 

アベノミクスの経済政策の下で、政府はゼロ金利の国債を増発し、それを銀行などに引き受けさせていたのですが、銀行にとっては有難迷惑なゼロ金利国債です。銀行は公社債市場で売ってしまいたいのですが買い手が付きません。そこで「異次元の金融緩和策」を決定した黒田総裁の日銀が、それらの国債を全て公社債市場で銀行から買ってやっていたのです。しかも国債の市場価格が下がらないようにプレミアム付きの価格で購入し、その分売り手の銀行はなぜか何もしなくても儲かる仕組みになっていましたから、銀行は喜んで売りました。その結果、日銀には大量の国債が残高として積みあがってしまいました。

 

このYCCによって、我が国の公社債市場では、長期金利の指標である10年国債の価格が凍結され金利はほぼ0%に維持されてきました。通常、金利は期間が長いほど高くなるのですが、YCCを長年継続した結果、我が国の公社債市場では期間10年だけが0%で、それより短い期間5年の方が高い金利になるといういびつな曲線を描いていました。この状態では、企業が期間10年の社債を発行しようにも金利が付けられないので発行できない状態になっていました。

 

そして今、最大の問題は、日銀が抱えている巨額の国債です。

YCCを撤廃したので今後公社債市場で国債の売りが多くなれば、市場の原理によって金利は上昇します。そうなると日銀が保有しにている国債の時価は下落してしまいます。既に長期金利がやや上昇して0.7%になっていますが、だいたい10兆円の損失をかかえていると言われています。今後更に長期金利が上がると日銀が抱えている国債の含み損が増え、深刻な事態に陥る危険性があります。だから「当面は金融緩和基調で金利を維持する」という言い方をしているのだと思います。つまり、まだ当分は金利は上げらけないのです。

 

こんなことは金融業界の人ならだれでも知っていることなのですが、この危機的事態をどういう形で解決していくのかという点が焦点なのです。しかし残念なことにその点については植田総裁からの説明はありませんでした。そのため、市場では「それじゃあ、日本の金利は上がらないだろう」と判断されてしまい、日米金利差は縮小しないだろうという読みが働き、円買いは敬遠されて円安が進行しているのです。つまり、円安とそれに伴う物価高は収まらない。

 

アベノミクスのもとで発生したこの事態を日本の政府と日銀は今後どうやって解決していくのか? これは容易ではありません。

お隣の中国ではバブル崩壊で経済危機に陥っていますが、日本も30年前のバブル崩壊の最終処理はまだ終わっていません。そういう認識を持っている人はどれだけいるのでしょう。ちなみに、30年前に日本のバブル経済崩壊の引き金を引いたのは日銀による利上げでした。