先日より懸案となっていた(なってないかも)
「精興社書体/『ノルウェイの森』」問題に
一つの回答が出た。
「インタヴューじゃなければ『夢のサーフシティ』かも」
と白羽の矢を立てたものの
自宅にCD-ROMが見つからず、
急いでヤフオクで落としたまではいいが、
腰を据えて検索できなかった。
まごまごしているうちに親切な方から
「ここですよ」、とご連絡をいただいた。
『サーフシティ』の「フォーラム64」より。
1997年のメールだ。
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At 1:08 AM 97.8.7
> 村上さん、こんにちは。
>
> 31歳・オトコ、印刷業に従事しております。
>
> さて以前より、豆鯵の小骨のように心にひっかかって
> いたのですが、『ノルウェイの森』(単行本のほう)の
> 本文に使われている書体は何でしょうか?
>
> 商売柄、とても気になります。写植なのかなあ。
> もしかしたら、講談社オリジナルとか。(笑)
>
> 僕はあの活字がとても好きで、『ノルウェイの森』は
> 全集や文庫だといまひとつしっくりきません。
> やっぱり単行本でないと。
>
> よろしければお教えください。
>
> ところで豆鯵は唐揚げが最高ですね。
> 揚げたてをほこほこやりながら、よく冷えた生ビールをぐいっと。
> ああ。たまりません。
>
> それでは。
こんにちは。あれは写植ではなかったと思います。活字だったと記憶しています。書体のことまではちょっとわかりません。
僕は最近「ウォレスとグルミット」(というイギリスのアニメーション映画)にはまっておりまして、おかげで今年の夏は、生ビールのつまみはチーズとクラッカー中心です。ぽりぽり。映画を見た人ならきっとわかりますよね。豆鯵もいかにも美味しそうですが。
村上春樹拝
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その9日後のやり取りが、「フォーラム70」に
ある。
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At 8:56 PM 97.8.16
> 村上さん、こんにちは。
>
> さて、すでに他の方からも情報が寄せられているかもしれませんが、
> フォーラムの64にあった、次のご質問:
>
> > さて以前より、豆鯵の小骨のように心にひっかかって
> > いたのですが、『ノルウェイの森』(単行本のほう)の
> > 本文に使われている書体は何でしょうか?
>
> の答えは、「精興社活字」です。
> 詳しくは、群ようこさんの「ホンの本音」(角川文庫)所収、
> 「活字の匂い―精興社見学記」をご覧下さい。
> 私も、「ノルウェイの森」ハードカバーの文字が大好きな一人です。
> 文庫や全集は、見たことがなかったのですが、書体が違うのですね。
> では、短いですがきょうはこれで。
>
> 梅下ランナー
その通りです。よくご存じですね。精興社という印刷所は、印刷界の「青山紀ノ国屋」みたいなところで、一流の作家じゃないと使わせてもらえないということで業界では有名でした。そのときも講談社の担当である木下陽子(仮名)に「ムラカミさん、精興社で印刷するんですからね、感謝してくださいよ」と恩着せがましく言われたことを思い出しました。「ふん、どこだって意味が通じりゃいいんだ」と僕は思っていたのですが、そうでもないみたいですね。
村上春樹拝
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ということで、精興社の書体を選んだのは
春樹さん本人ではなく、木下陽子さんだった、
ということになる。
「赤と緑の装丁」には強くこだわったようだが、
本文の書体は編集者に任せていたのか。
それからわかったことが、もうひとつ。
「フォーラム64」の「31歳、印刷業に従事」
していたのは、私だ。
実は私は、99年に春樹さんから
「コードネーム」をいただいた。
当時、コードネームを付けてもらう
のが『朝日堂』上で流行っていた。
そのメール(館山の「若潮マラソン」
についてだ)のやり取りは
『スメルジャコフ対織田信長家臣団』に
収録されているのだが、その2年前に
書体についてのメールを送っていたのだ。
記憶がすっかり欠落していた。
「豆鯵の小骨」で、自分の文章だと
はっきりと思い出した。
水道橋にある中堅の印刷会社だ。
お世話になった上司や、人間関係が
上手くいかなかった先輩。
オフィスの雰囲気。使っていた端末。
付き合っていた女性(妻です)、
水道橋から西川口まで帰宅ランしていた
こととか。
一気にフラッシュバックした。
書体についての疑問は、純粋に
自発的なものだったのか。
あの頃熱心に投稿していた
メーリングリストの中で話題になって
いたのかもしれない。
今となっては記憶が曖昧だ。
そういうわけで、ひとまずすっきりした。
ちなみに現在の『ノルウェイの森』の
単行本は、精興社ではない。