また「村上モトクラシ大調査」
に便乗させていただきます。
村上春樹の作品の中からいちばん好きな食事のシーンを選べ、
と言われたら、何を選択しますか。
『世界の終わり...』の、梅の木が見えるイタリアンレストラン。
『羊をめぐる冒険』の、ウェイターの高価な靴の音が響く
レストランでの食事。
『1973年のピンボール』の、ゴルフコースで食べるサンドウィッチ。
『ダンス・ダンス・ダンス』で「僕」が五反田君に供す数種類の酒のつまみ。
『ノルウェイの森』の、青豆のごはんと天ぷら(「いっぱい食べて
(精液を)いっぱい出すのよ」という緑の台詞付き)。
『遠い太鼓』の、雉子亭の贅沢な朝食。
『はいほー』の、うさぎ亭のコロッケ定食。
まだまだ印象的なシーンは数多あるけれど、このあたりが私の
最終ノミネートになります。
どうしても一つに絞れといわれれば、『世界の終わり...』の
シーンを選びます。料理も美味しそうだし、ウェイターとの会話が
大好きなのです。
「リゾットはかなりのヴォリュームがございますが」と心配そうに
ウェイターが言った。
「大丈夫。僕は昨日の朝からほとんど何も食べてないし、
彼女は胃拡張だから」と私は言った。
「ブラックホールみたいなの」と彼女は言った。
「お持ちいたします」とウェイターが言った。
もう、暗記してしまうくらいです(笑)
ここだけ抜き出しても何てことない会話なんですが、
長い物語の1シーンとしてすごく生きているのです。
春樹さんが『バビロン再訪』の冒頭の会話に否応なく
惹かれるように、私はこの場面に惚れ込んでしまった
わけです。
どうしてだろう?自分でもきちんと理解できないことを、
他人にきちんと説明することはできません。
天ぷらが食卓に上がるたびに緑の台詞が脳裏をよぎって
しまうことを、女房にきちんと説明する必要があるか
どうかは悩みどころです。