こちらを先にどうぞ↑
好きなのに、どうしても踏み出せなかった。
憧れの高校生活は交通事故なんていう最悪の幕開けから始まった。結果、最初の一ヶ月はロクに学校に行けなくて、ようやく行けたと思えば松葉杖生活。周りは既にグループ的なのが出来ていて、俺はかなりスタートダッシュに失敗している事を痛感していた。
別に、たかが三年間。友達がそんないなくたって大丈夫だろう。中学からの友達は別クラスだけど、休み時間とか会えるし。
そう心の中で納得し、それとなくクラスメイトと仲良くする日々。入る予定だったサッカー部も、走れるか怖くて結局見に行ってすらない。元々運が悪い体質だったし、何かを諦めるのは得意だった。……いや、得意とか本当は言いたくないけど。
なんて心の中で割り切って毎日を過ごしていた。そんな日々が変わったのは、夏に差し掛かる頃。松葉杖も使わなくてよくなって一ヶ月くらい経ったら、母親から突然の「もう弁当作らないでいいでしょ」宣言。今までは足を怪我していたから作ってくれていたみたいで、もう今は必要はないだろうと判断されたみたいだった。まぁ、実際働いている母親に申し訳ないなとは思っていたから、了承する以外他なかったんだけど。
そうしてめでたく購買デビューをする事になった俺は、初っ端から挫ける。
購買ってそもそもどこでやってるんだ?食堂の近くか?マジで無縁すぎる。未だこの学校の事を何にも知らない。詰んだな。
しかも何の試練か昼休みが始まったタイミングで先生に捕まって、絶対今じゃなくてもいい話をつらつらとされた。結果、上手いこと購買に行く人について行こう作戦は失敗に終わり。
なんて言うか、マジで運がない。
ふらふらと宛もなく校内をさ迷えば楽しそうな声が至る所から聞こえてきて、心の中で何クソと悪態をついてしまう。そんな中、ようやく購買らしき所にたどり着いた。そこには一人だけ先輩らしき女の人がいて、店員らしき人はいない。
……え、これって自動システムとか、なんか、独自のシステムとかあったりするのか? 詰んだな。
とは思いつつどうにか勇気を振り絞って女の人に話しかける。やっぱり先輩だったその人は、優しそうな笑みを浮かべて俺に色々と教えてくれた。
忘れられない、俺の運全てを使っただろう出会いだった。
不思議と話しやすいその先輩に惹かれたのは自然な事だったと思う。購買で会う度に、一緒にパンを食べる度に、話す度に、どんどんと好きになっていく。ただ、これが憧れなのかと言われればそうとも言える気もして、踏み出せずにいた。
極めつけは『ジンクス』。この言葉に限る。
一度、彼氏とかいるのか聞いたことがあった。そしたら返ってきた答えがジンクスの存在だ。
は?ジンクスってなんだ?
知らない情報に頭がハテナマークだらけになる。ただ、答えた先輩の笑い方が少し寂しそうだったから、それ以上聞くのははばかられた。
その後クラスメイトにジンクスの話を聞いたら『付き合っても一ヶ月で別れる』なんてものが学校に根付いているらしい。なんだそれ、とも思ったけど、それを信じている先輩を思い出したら何にも言えなくて。なんか過去にあったんだろうか、とか更に考えたらもっと気まずくて、それ以来先輩との恋愛の話は密かに避けてしまった。
そんな俺は、もしかしたら本当に出会いで運を使い切ったのかもしれない。
ついぞ訪れた先輩の卒業式の日、もう笑うしかなかった。だって、この半年くらい何にもアプローチ出来なかったんだから。ちょうどいい距離感に甘えきった結果がこれだ。
でも、これもまた運命ってやつなのか。
そう割り切って、空き教室で開かれている卒業展をクラスメイトと巡る。一年生は設営だけでやる事は終わりだから、正直もう帰ってもいいらしい。けど、せっかくだしと見る事にした。内容は様々で、絵を書いてるクラスもあればよく分からないモニュメントを作ってるクラスもあったりと地味に面白い。
先輩はそういや何組だったんだろう。それすら知らない事に今更気づく。どっかで名前見つけれたらいいけど、この感じだと望みは半々くらいだろうか。
写真を飾っている教室に入ると、どうやらこのクラスは各テーマごとに写真を飾ってあるらしい。たくさんの思い出だろうそれらは見ているだけで楽しい。
ただ、とある写真の前でピタリと足が止まった。
写真の下に書いてある名前は見覚えのある人の名で。更には見覚えのある景色を写した写真に、俺の目は釘付けになった。
ピークをすぎた購買の写真。陽の当たる中庭。そのどちらも、俺の思い出の中に鮮明に残っている景色だ。卒業展でなんでまたこの二つの写真を……。とテーマの方を見ると、次の瞬間には教室を飛び出していた。
なんだ、なんなんだ。お互いなんて未練がましいんだ。割り切ってるつもりで全然割り切れてないじゃないか。こんなの自惚れない方がおかしいだろう。
『好きな人』
確かにテーマにはそう書かれていた。先生とか後輩とか友達、家族が写った写真が並ぶ中、好きな人なのに人が写ってない写真はどうなんだとも思うけど、もうそんなのどうだっていい。
だって、そういう事だって解釈してもいいって事でしょう。
体育祭でも体力測定でも全力で走らなかったのに、なんとか全力で校内を走り回ってみる。足がどうのとかどうでもよかった。とにかく会わなければ、その一心だった。
でもどこにいる?全然検討もつかないけど?詰んだか?俺の運はまだ持つのか?ていうか体力が先に尽きるか?
ぐるぐると考え込みつつ、足は勝手に思い出の場所に辿り着く。なぜか空いている購買にはいつものおばさんがいて、先輩の場所を尋ねれば先程までここに居たと告げられた。そして今はおそらくクラスで写真を撮ってるとも。俺にはもう、購買のおばさんが神様に見えた。
これからもここでたくさん買います。とお礼を言うなりすぐに先輩の教室に走る。さっき卒業展で何組か知れてよかった。本当に今日は運が来てるのかもしれない。それならまだ、あと少し、頑張ってくれ俺の運。
ガラリと勢いよく教室のドアを開けた。まばらに集まって写真を撮っていた先輩達が驚いた顔でこちらを見る。よくよく考えたら急に後輩がやって来るの、ヤバい図なのかもしれない。現にお目当ての先輩はこれでもかというくらい目を見開いている。
だけど、そんなの気にならなかった。
まだ、話はこれから。