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つれづれログ

色々な事を徒然なるままに書いていこうと思います

死神の精度 (文春文庫)/伊坂 幸太郎
¥550
Amazon.co.jp

CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、
受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない
―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。
一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、
翌八日目に死は実行される。
クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。

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サラリーマン的に仕事を淡々とこなす「死神」千葉の物語。

死神というと近年では「デスノート」のリュークの印象が強いけど、
千葉は外見上は普通の人間。
もっともその外見は調査対象者によって変化するけど。

床屋が髪の毛を切るのが仕事なように、死神は1週間の間に対象者を
調査し、死の判定をするのが仕事。
「可」なら死亡、「見送り」なら生き残る。
ただ、ほとんどの場合は「可」が判定されるのだけど。
仕事でやってるだけで、死に対する関心は無いという。

このスタンスに面白みを感じた。
リュークもこれに近い傍観者的なスタンスだったと思うけど、
千葉は更に淡々と仕事をこなしている感じ。
ミュージックを楽しむついでに仕事をしている(笑)。

形としては短編集になっていて、それぞれ調査対象者が違う人物。
それぞれの章の調査対象者は、
①クレーム処理の仕事にうんざりしている女性
②弱きを助け、強きをくじくやくざ
③ふぶき中の洋館(クローズド・サークル)に閉じとめられた女性
④向かいのマンションの女性に恋する青年
⑤トラウマをかかえる人殺しの青年
⑥70歳で現役美容師の老女
といった感じ。

それぞれが全く違うシチュエーションで描かれていて人生色々。
全てが調査対象者の死までを描いている訳ではなく、千葉とその人物の
交流が主なお話。

「死」をドラマチックなものとして扱う訳ではなく、あくまでも
自然な物として扱っているのがポイント。

千葉はクールで知的な人物であるような印象だけど、実際は
人間界の事についてあまり詳しくなく、とんちんかんな受け答えも
なかなかユニーク。

⑤には「重力ピエロ」の主要な人物、落書きアーティストの「春」が登場。
といっても、解説を読んで初めて思い出したんだけど…。
パッと出の人物としてはキャラが立ってると思ってたんだよなぁ。
こういう仕掛けも伊坂作品の魅力で楽しい。

⑥は他のエピソードとの繋がりが面白く、「そうきたか~」という感じ。
100%雨男の千葉が初めて青空の下に立つシーンは、説明できない
感動があった。

そして、老女のセリフが印象的。

死ぬのは怖いけど、周りの人間が死ぬのはもっとつらい。
だから最悪なのは死なない事。
長生きすることで周りが死んでいくから。
そしてやり残した事もあるかもしれないけれど、それも含めて
納得かもしれないと言う。

う~ん、なるほど。
生きていく上では色々な妥協や選択がある訳だから、やり残した事が
無い人生を送るのは非常に難しい事だと思う。
だから、そういうのも含めて自分に納得のいくような毎日を
送っていけば、比較的納得のいく死を迎えられるのかもしれない。
まぁ、それも結構難しい事かもしれないけれど、心がけていけば
随分違ってくるんじゃないかと。


やっぱり伊坂作品は面白いなぁ。
走れ!T校バスケット部 (幻冬舎文庫)/松崎 洋
¥520
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中学時代、バスケ部キャプテンとして関東大会二位の実績を残した
陽一は、強豪私立H校に特待生として入学。
だが部内で激しいイジメに遭い自主退学する。
失意のまま都立T校に編入した陽一だが、個性的なクラスメイトと
出会い、弱小バスケ部を背負って立つことに―。
連戦連敗の雑草集団が最強チームとなって活躍する痛快
ベストセラー青春小説。

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まず、文章がシンプルで読みやすい。
人物の心情も単刀直入。
シンプルなだけに、そこに物足りなさを感じる人もいるかも。

陽一はイジメが原因でバスケ部を辞めるけれども、イジメの描写は
意外にサラッとしているので、読んでいてドロドロしたりジメジメした
気分にはならない。
イジメられていた陽一は本当にツラかったんだろうけど。

イジメに立ちむかう陽一の親父さんが熱くて、物凄くカッコいい!
息子を守るためだけではなく、息子をいじめた子供の将来をも思って
学校やイジメた子供の親と正面から向き合う。
しかもいつもは冷静な人だという。
将来自分に子供が出来たら、こんな親父になりたいものだ。

親父さんの予想通り、結果的に子供達の心はほとんど
変わらなかったんだけど…。
それがリアルと言えばリアル。
そう簡単には人の心って変わらないよなぁ。
陽一が立ち直れた分、親父さんの行動は報われたし、良いかな。


T校バスケ部のメンバーは超個性的。
「文句マン」だけど、ムードメーカーの「チビ」。
忍者のような超俊足を武器に、速攻を得意とする「メガネ」。
長身で女好きの「のぞき魔」(ひどいあだ名だw)。
物語のキーパーソンとなった、3ポイントシューターの俊介。
地味だけど努力家の「コロ」。
縦も横も超高校級のガタイを持つフードファイター、健太。
そして良い意味で空気を読まない小川先生。

キャラが立っていて非常に面白いし、愛着がわく。
皆仲が良いし、一生懸命で好感の持てる人達だった。
そしてチームの成長具合も良い。

そして大会の決勝戦。
陽一の前の学校である強豪私立H校との戦い。

H校のラフプレー、かなりやり過ぎ。
スポーツ漫画にはこの手のチームがかなりの高確率で登場するけど
超強豪チームがその役割を担うのは稀だよなぁ。
陽一をいじめたような集団だから、似合ってはいるんだけど。

試合は手に当て握る展開で、ボロボロになっていくT校。
それでも最後まであきらめる事なく、持てる力の全てを尽くし、
最後の最後に健太の大活躍が!

う~ん、ドラマチックな試合だった。
スポーツ物の王道的展開ではあるけど、そこには色あせない
良さがあるよなぁ。
バスケを取り扱ってはいるけれども、難しい専門用語なども無いし
詳しくなくても全く問題無いのも良い。

それにしてもH校のコーチ岩田。
最後まで小悪党というかなんというか…。
救いようのない大人だなぁと。

最後にその後のメンバーが描かれ、大団円。
陽一が教職の道かぁ。
イジメられた経験を持つ陽一なら、きっと弱者を守る事の出来る
良い教師になれるはず。


調べたら続編もあるそうで。
しかも4巻まで!
読みたい気もするけど、文庫は出ていないみたいだから、
とりあえずは保留かな。
この1巻でキレイにまとまっているし。
クジラの彼 (角川文庫)/有川 浩
¥580
Amazon.co.jp
『元気ですか?浮上したら漁火がきれいだったので送ります』
彼からの2ヶ月ぶりのメールはそれだけだった。
聡子が出会った冬原は潜水艦乗り。
いつ出かけてしまうか、いつ帰ってくるのかわからない。
そんなクジラの彼とのレンアイには、いつも7つの海が横たわる…。
表題作はじめ、『空の中』『海の底』の番外編 も収録した、
男前でかわいい彼女たちの6つの恋。
有川浩がおくる制服ラブコメシリーズ第1弾。

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有川浩さんの短編集。

すべてのエピソードに共通しているのが「自衛隊員の恋愛」。
なかなか無いんじゃないかなぁ、自衛隊員の恋愛物。

有川作品の「空の中」と「海の底」の登場人物のその後を描いた
エピソードもあり、楽しめた。

率直な感想としてはむず痒いエピソードが多かった感じ。
あんまりベタベタな恋愛物って得意じゃないんだよなぁ。


恋愛という関係性においては、女性優位(と思われる)なエピソードの
多い中で、「ファイターパイロットの君」は女性の方が恋愛耐性が無く、
ある意味では男性優位の恋愛が描かれていてちょっと新鮮。

まぁ、男勝りな男性が見せる女性らしさっていうのはいいものだ。

「海の底」の夏冬コンビは好きだったので、その後が描かれていて
ちょっと嬉しい。

好きな相手と距離がある時、ちょっとした事で不安になる気持ち
分かるなぁ。

相手を信じるとかそれ以前の問題で、ある種の本能的な男性特有の
独占欲みたいなものが働いてしまう事ってある。

結局、お互いの気持ちを確かめ合って、不安を解消していくしか
ないんだと思うけど。

それと「国防レンアイ」の2人の関係。
長年に渡り三池への好意があるのに、恋愛相談役というポジションに
甘んじる男、萩原。

ある時、ちょっとした事件をきっかけに、告白の書置きをする。
「こんな女を八年好きな俺もたいがい趣味が悪いわ。」

う~ん、事件の時の三池を守る行動とのコンボで、このぶっきらぼうな
感じがなんともカッコ良かった。

さて、事件のきっかけになった三池の腹筋。
女性の腹筋が割れていても良いと思うし、国を守るための日々の
努力の賜物であるという所は尊敬する。

高校時代あれだけ部活で鍛えてもボコボコにはならなかったしなぁ。
女性なら男性の何倍も鍛えないと、割れるって事はないと思う。

でも個人的な趣向の話になると…。
男性らしい体の魅力、女性らしい体の魅力ってあるからなぁ。
それもある種の本能的な感性だと思うけど。

ただ、それをバカにするようなデリカシーのない男には絶対なりたくない。
それだけは確かな思い。


ふぅ、腹筋についてちょっと語り過ぎた…。

「空の中」や「海の底」を読んでいなくても十分楽しめると思うので、
恋愛物好きで、ちょっと変わった話が読みたい人におススメ。