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つれづれログ

色々な事を徒然なるままに書いていこうと思います

星々の舟 Voyage Through Stars (文春文庫)/村山 由佳
¥660
Amazon.co.jp
禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、
居場所を探す団塊世代の長兄、そして父は戦争の傷痕を抱いて-。
愛とは、家族とはなにか。
こころふるえる感動の物語。

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第129回直木賞受賞作品(2003年)。
ちなみに同じ回の受賞作品として石田衣良さん「4TEEN」がある。

村山さん、直木賞受賞してたんだ。
歴史ある名誉な賞の受賞、さすがだ。


主なテーマが叶わない恋である連作短編小説。

ひとつの家族の男女がそれぞれの恋愛について、人生について悩み、
決断を下し、その道を歩いていく…といったお話。


ひとつのエピソードとして兄妹間の恋愛がある。

当時の当人達は血の繋がりが無いと思っていたから、そうなる事に
納得がいかない訳では無いけど、幼少の頃から一緒に暮らしていて
恋愛感情に発展するのか?という疑問はある。
血の繋がってる妹がいる身としては。

本能的に察する事が出来ないものかなとも思う。
好きなものは好きなんだから仕方ないけど。

でも実際、そんな状況になってしまったら苦しいだろうな。
言わば倫理と本能の戦いだから。

本作の兄妹も結果的に幸せになれた訳ではなかった。
その周囲の人も含めた形で。

だけど不幸という訳では無い。
そんな印象を受けた。


娘ほどの年齢の女性と不倫関係にある長男、貢。

歳をとると、とにかく若い娘が良くなると聞く。
本能的には理にかなっている事だ。
貢はその辺り、ちょっと違う気もするけど。

家に居場所のないお父さん。
結構いるって聞く。
つらいだろうなぁ…。
そうはなりたく無いものだけど、僕だってそうなる可能性は
十分にあるよなぁ。
いやだなぁ…。

貢は居場所を畑に見つける。
定年後は農業を、と考えるサラリーマン(貢は公務員だけど)。
割と良くある話だ。
近年は農業ブームとかもあったし。

作中に登場する商社を早期リタイアし、農的生活を送る人の言葉。

自分の仕事の成果がはっきりと目に見えて、手でさわる事ができる。
そういう物こそ信じられる、との事。

なるほど、そういう価値観から農業なんだ。
確かに一般的なサービス業には、欠けている要素かもしれない。

ものづくりをしている仕事だって、現代のように細かく分業していたら
その喜びも希薄になるかも。

だからと言って農業で食べていくのは、本当に大変だって事だけは
知っておいて貰いたい。
昔から近くで見てきた者としては。

あくまでも趣味でやるのであれば、良い趣味だと思うけど。

おっと脱線。


父親の戦争の話。

いつの間にか終戦から65年。
兵として戦争に参加した人は80歳を超えている計算だ。

男性の平均寿命から考えると、そういう人達はかなり
少なくなっているはず。

そんな人達の想いは、十分に次の世代に伝わっているだろうか?

最近、平和について考える機会も増えてきた。
この日本の平和が終わりを迎える可能性も低くない。

戦争と平和。
世界中の人々が考え、行動すべきテーマだ。


あと書きにあった作者、村山さんの言葉。
「自由であること」を突きつめれば、「孤独であること」に耐えなければ
ならない。
確かにその通りだと思う。

孤独になってまで自由が欲しいかと言われれば、悩むところだ。
ただ、村山さんはそうする事で本当の意味で他の誰かと
関われると言う。

なかなか深いな…。
そうなれたら良いかもしれないけど、それって難しくないかな…。


「幸福とは呼べぬ幸せ」
物語の最後に出てくる言葉。

一般的な幸福とは異なる、自分だけの幸せ。
その幸せさえあれば、悔いの少ない人生が送れるかもしれない。

周りからどう見られようとも、自分の人生なんだから、自分び納得できる
幸せを見つけることが出来るのなら、それで十分かもな。
オーデュボンの祈り (新潮文庫)/伊坂 幸太郎
¥660
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コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、
気付くと見知らぬ島にいた。
江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、
妙な人間ばかりが住んでいた。
嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、
人語を操り「未来が見える」カカシ。
次の日カカシが殺される。
無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。
未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を
阻止出来なかったのか?
卓越したイメージ喚起力、洒脱な会話、気の利いた警句、
抑えようのない才気がほとばしる!
第五回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した伝説のデビュー作、
待望の文庫化。

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最近よく読んでいる伊坂作品。
そのデビュー作。

舞台がこの社会とは別世界のような島である事が面白い。
その島「萩島」には様々な特異な点がある。

上記あらすじにあるような超個性的な住民、そしてしゃべるカカシ。

そんな世界の中で発生したカカシ殺人(?)事件。
その謎に迫る事で物語は展開していく。


主人公の伊藤はシステムエンジニア。
僕も同じ職業をしている事もあって、シンパシー的な物はあった。
仕事の感覚とか。


しゃべって、未来の事も含め全知なカカシ「優午」のインパクトは抜群。
伊坂作品の中でもかなり奇抜なキャラクター。


島の法律である美青年「桜」。
かなり印象的で今作一番の気に入ったキャラクター。

詩を愛する物静かな彼は、島の悪人を拳銃で殺す。
決め台詞「理由になっていない」を残しながら。

悪人の定義は桜の基準なんだけど、社会的な大罪人とそう違わない。
そこには少年法的な基準や、執行猶予の概念や懲役みたいな罰は無く、
単純に死刑があるだけ。

島の住民は彼を自然災害のように扱い、殺人を罪に問われる事はない。
警察についても同様。

まさに懲悪を絵に書いたような人物。


対象的に悪人の役割を担った警官「城山」。
主人公との縁もある人物。

これ程の敵役は他の伊坂作品にはいなかったように思える位の
絶対的な悪人。
いわゆる下衆。

伊藤を追いかけて萩島に行く展開になったとき、物語の結末が
見えて、期待感がMAXに!
伏線も効いていただけに最高にスッとする最後だった。


大きな謎である島に欠けている物。
まさかそれが欠けているとは…。
これも伏線は複数あったけど、意外だったなぁ。


デビュー作だけに比較的異端な部分もあったように思えるけど、
満足のいく一冊。
片想い (文春文庫)/東野 圭吾
¥860
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十年ぶりに再会した美月は、男の姿をしていた。
彼女から、殺人を告白された哲朗は、美月の親友である妻とともに、
彼女をかくまうが…。
十年という歳月は、 かつての仲間たちを、そして自分を、
変えてしまったのだろうか。
過ぎ去った青春の日々を裏切るまいとする仲間たちを描いた、
傑作長篇ミステリー。

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本編が600ページ超えの長編。
性同一性障害をテーマとしたミステリー。

今でこそ有名な「性同一性障害」という単語だけど、この作品の発表は
2000年前後。
当時はその単語の認知率は低いものだった。

世の中の関心が高まっていき、上戸彩が出演していた
3年B組金八先生で同テーマが扱われたのが2001年だそうだから、
東野さんの先見性は凄いな。

ちなみに僕も金八先生でその単語は知ったクチ。
オカマやオナベなどの存在は、ずっと昔からあった訳だから、
そこに名前が付いただけの事なんだろうけど。

話の中心は大学時代の元アメフト部のメンバー。
元マネージャーである美月が犯したと言う殺人事件を中心として、
各メンバーがそれぞれの形でそれに関わっていくというドラマ。

美月をかくまう事になる主人公夫婦だけど、彼女の失踪をきっかけに
事件の真相をつきとめる事に…といったお話。

大どんでん返し的な展開は無いものの、徐々に明かされる真実、
移り変わる状況などミステリー作品の旨みは十分。

そんなミステリー要素はもちろん、「性」という社会問題についても
考えさせられる要素を持った本作品。
主人公がスポーツ記者である事から、スポーツ界の性の問題も
扱っている。

戸籍上、社会上は女性であっても生物学上男性の機能があり、
それ故に女性としては異常な身体能力を有する彼女達。

そう言えば現実問題として話題になった事が最近あった。
2009年のベルリン世界陸上の800m走で金メダルを獲得した
キャスター・セメンヤ選手。
色々と物議をかもしたけれど、最終的には女性として記録が
認められた模様。

ある意味で人間としての限界ギリギリの領域に立っている
トップアスリート達。
種目にもよる話ではあるけど、その能力は持っていまれた
「才能」の要素が大きい。

ある意味では「才能」を競ってりるスポーツ界において、男性クラスの
身体能力的な「才能」を持った彼女達の性をどう扱うのか?

競技としてはきっちりとした基準が必要だから、男女のボーダー
ラインはきっちりと定義する必要がある。

逆にそれ以外できっちりとした定義が世の中にとって必要だろうか?
少しはあるのかも知れないが、殆ど無いんじゃないかと思う。

問題の無い範囲においては、しっかりとした判定基準を設けた上で、
法的な性別も変更出来るような仕組みがあっても良いかも。

心と体の性がはっきりと不一致な人だけでなく、美月のように
男女の間をさまようような人もいるだろう。

そんな人達を自然に受け入れることが出来るような社会が
望ましいのは確か。
その実現のためには、前提として異質な人に対する理解が必要。

それがあれば他の差別や、いじめなどの問題の無くなるんだろうけど…。
なかなか難しそうではあるけれど、ちょっとずつでも前進していけば
誰もが住みよい社会になるはず。

個人で出来る事と言えば、異質な物事に対するための理解のための
勉強と、それに対峙した時の適切な接し方の意識位かな。