書けない小説家の映画 ベスト10
1 チィファの手紙
概ね『ラストレター』と同様のストーリーなので、この先のワクワク感とかそういったものがないのは仕方ないところでしたが、同じストーリーでも、季節と国を変えると、また雰囲気が微妙に違ったものになることが面白かったです。一番大きな違いは弟くんの状況で、このあたりは中国の政策の問題も意識していたようです。それでも細部ストーリーも監督も同じなので、岩井俊二独特の甘いムードというものは存分に出ていて、言葉や背景が違っても、映画は映画だと改めて認識させられました。あと人物の背景なんかもちょっと違っていたり、かつて主人公から恋人を奪った男のバックボーンも今作では説明されたりしていてと、そのあたりを比べてもう一度観るのもいいななんて思ったりもしました。
2 恐怖分子
エドワード・ヤン監督の才気あふれる作品です。1990年という時代特有の熱気のようなものが作品全体を支配しつつ、スタイリッシュな犯罪群像ドラマが巧みな繋がりと構成によって繰り広げられます。ほんのちょっとしたうっぷん晴らしのいたずらから人生を狂わせていく夫婦。一度悪い方へ回転しはじめた歯車は拍車をかけ、そして悲劇的な結末へ。映画館の看板の「里見八犬伝」の文字に台湾でも日本の映画がこの時代にも掛けられていたと思うと、にんまり。スランプに陥った小説家も物語の中心で絡んできます。
3 D.O.A.死へのカウントダウン
小説への熱意を失い、さらに遅効性の毒を飲まされて48時間の命であると知らされた主人公が、制限時間内に殺人事件の真犯人を見つけ出し、自分に着せられた罪を晴らすことができるかという究極の差し迫った状態がサスペンスを盛り立てます。メグ・ライアンとしては珍しいサスペンス映画。シャーロット・ランプリングの冷酷な表情がなんともいいです。
4 窓辺にて
今泉力哉監督らしく、2人ないし3人による会話のシーンを繋げて作り出す恋愛群像劇ですが、これまでの作品より少し大人向けになっているというところが今作の新しい点でしょう。妻が不倫をしてもショックを受けなかったという主人公を中心に、その知り合いたちの不倫や恋愛を交錯させながら、じっくりみせる形は今泉監督の得意とするもの。そしてただ恋愛の顛末を描くだけでなく、今どきらしい夫婦の関係性やそこにある悩みなども盛り込み、大人のドラマにもなっているので、ただただ軽薄な若者たちの恋愛模様劇からは進歩した感もありますね。それでもさすが面白さは健在です。この作品には小説家や小説家崩れ、その編集者など、小説界に身を置く人々が多数登場し、そのごく狭い世界の中でのぐちゃぐちゃ感は相変わらずで、今泉作品常連の若葉竜也の相変わらず軽薄そうな感じや、穂志もえかの純情な顔して尻軽っぽい感じなど、脇役もいいキャラクターになっています。そしてどことなくつかみどころのない稲垣吾郎演じる主人公と、登場人物がみんなキャラクターが立っていて、多少長めでもまったく飽きずに面白く観ることができました。
5 函館珈琲
これも地方発の映画ということでしょう。函館特有の街並みや時間の流れ方が、どこかに傷を抱えながらも夢を追う若者たちをゆっくり待ちながらも、背中を押すような感覚にさせるのかもしれません。書けない小説家というのはよくある設定かもしれませんが、古アパートでの出会いを通して、劇的ではなくても、なにかしらのきっかけを見つけて変わろうとしていく様子は、どこか安心を与えてくれるものではありました。
6 結婚の夜
出だしの感じとは違い悲劇的な結末が待っている恋愛映画です。逆に言えば悲劇的な結末のわりに全体がやや軽い印象。悲劇の主人公に同情しかけてしまうのですが、冷静に考えてみると、一番勝手な言動をしているのが死んでしまったヒロインのマーニャであり、そしてゲイリー・クーパー演じる書けない小説家トニーなのであリます。すでに妻がある身、婚約者がある身(もっとも本人の意思とは違うところで決められたものではあるのですが)その意味ではけっして奇麗な物語ではありません。もう少しドラマチックな演出があれば、より感動させることはできたのかもしれないとは思いました。
7 鳩の撃退法
3枚の偽札が回り回ったその順路を解くことがミステリーの謎解きに繋がってくるという仕掛けの作品です。登場人物が多く、またその関係性が複雑に入り組んでいるので、その整理だけで脳みそを使ってしまうことが難ではありますが、複雑に絡み合って、偽札事件と一家失踪事件が繋がってくるのは分かります。ただ小説の中の作り話なのか、現実に起きた出来事なのかの境目が分かりにくく、なんとなくもやもやしたまま終わってしまいますし、それがゆえにすっきりしないのは、娯楽映画を目指したミステリーとしては物足りないところ。書けないというよりは、書かなくなった小説家が藤原竜也演じる主人公になります。
8 失われた週末
売れないまま書けなくなり、酒に溺れたアル中小説家が恋人の気持ちに断酒の決心をするまでの映画なので、アル中ものとしてはどうということもないストーリーですが、カンヌで評価の演技は迫真に迫るものがありました。
9 小説の神様 君としか描けない物語
とにかくあまりに現実味のない設定、展開で、いかにも作り物感が満載。展開も見えているのでワクワクしませんでした。
10 ザ・ロストシティ
全体的に軽いノリでコメディ要素の強いアドベンチャー映画ですが、肝心のハラハラドキドキがまったく弱くて、結局は主演の二人がイチャイチャはしゃいでいるようにしか見えませんでした。サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムという組み合わせはどうだったのでしょうか。夫を亡くしてから書けなくなったベストセラー作家役でサンドラ・ブロックです。