●2020年 鑑賞映画 ベスト10 | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

映画いろいろベスト10 + 似顔絵

まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

2020年 鑑賞映画 ベスト10

 

恒例の年間ベスト10です。

今年は新型コロナによる休館期間があり、

また海外の大作の公開が延期に延期を重ねたりと、

例年に比べ、劇場での鑑賞本数も少ない年になりました。

なお、私の居住地で観たというのが基本なので、

全国的には2019年公開作品も含まれます。

 

1 ラストレター

叙情的な映像作品を撮らせたら岩井俊二に勝てるものはいないのではないかと、改めて思わせられました。しかも今作は原点に戻ったような恋愛映画で、キャストも中山美穂、松たか子、豊川悦治と初期の作品を思い出させるような配役。ファンにはたまらない一作となったのではないでしょうか。20年も前の高校、大学時代の恋愛を未だに引きずり、なかなか先に踏み出すことができない売れない小説家、それを女々しいとか、情けないとかいうのは簡単ですが、それまでほどに彼の人生を左右する忘れられない大きな恋だったということなのでしょう。そのある種の女々しさ、情けなさがこの作品の肝であり芯でもあるわけで、それを否定してしまったら、そもそもこの作品は成立しません。高校時代の回想シーンは、どこにでもありそうな出会いと三角関係ではありましたが、それだからこそノスタルジックに訴えかけるものがあります。そしてその舞台となった校舎がすでに取り壊される寸前という状態であることも、より取り戻せない過ぎた日々であることを強調しているようでもあり、情緒に訴えかけてくるのです。「あなたと結婚してくれていたら」「必ず迎えに来ると思っていてもちょっと遅かったけれど」という亡くなった元恋人の妹や娘の言葉にせつなさがこみ上げる一方、彼女を奪い取られた相手からの「彼女の人生にお前は何の影響も与えていない」という言葉もまたやるせなく胸に突き刺さるなど、そんなセリフの使い方も巧みさが際立ちました。初めてマスクを外した彼女と出会うシーン、未来に大きく可能性の広がる姉妹の娘てたちとの出会いのシーンなど、キラキラ眩しいほどの青春を感じさせながらも、一方で思うようにならない人生に停滞感を感じてさまよう姿もまた現実を表しているようで、そんな明暗を使い分けた映像もにも引き付けられ、終始スクリーンに引き込まれてしまいました。中国版『チィファの手紙』もよろし。

 

 

2 望み

実に重い作品です。まさに究極の二択。行方不明の息子がどうやら殺人事件に絡んでいるらしいと。殺人事件は一人が殺されて発見、さらにもう一人殺されているらしいこと、二人が逃走したことが分かっている中、息子を含めた3人が行方不明だという状況で、息子は殺されたもう一人の被害者なのか、或いは殺した加害者なのか。どちらかであることは間違いのないという中で、自分の息子がどっちでほしいのか。父親は自分の息子が殺人者であるはずがないという気持ちが勝っていて、母親はどんな形でも生きていてほしいという気持ちが勝っており、夫婦感でも思いはちょっと違うのですね。しかしどちらも親としては当然の気持ちで、遅かれ早かれ最終的にはどちらかは真実となるというこの状態は、まさに苦悩としかいいようがありません。マスコミは押し掛ける、SNSでは犯人扱いされる、家や車はいたずらされる、仕事はキャンセルされるで、とにかく踏んだり蹴ったり。おまけに受験生の妹にもその被害は及び、まさに究極の辛い状況といっても差し支えないでしょう。結局息子は、友人を助けるために、そして家族に余計な心配をかけないために、結局犠牲になってしまったことがわかるのですが、最後に雑誌記者に母親が語った言葉が印象的でした。「私たちが思っている息子でよかった。生きて帰っていたら一瞬は嬉しかったかもしれませんが、その後も苦悩の日々が続いたでしょう」。

 

 

3 みをつくし料理帖

江戸時代の小さい料理屋を舞台に、幼なじみの若い女性同士の友情を描いた作品で、時代劇としては珍しいテーマを扱っていたと思います。料理店を引き継いで切り盛りするのも若い女性ということで、このあたりは時代劇でありながらも、現代的なニュアンスを持った作品だったと思いますが、優しさにあふれた素敵な映画でした。感動を誘われました。ここに描かれている人間関係がどれも温かくて、幼なじみ同士の友情物語だけにとどまらず、両親を亡くした女の子を助けた料亭の女将との母娘のような関係性、料理屋の老主人の若い主人公を見守る優しい視線、店にやって来る侍や物書き、医者といった個性的な人々との温かい交流、そして吉原にて命がけで使える料理人。素敵な人間関係が二重、三重、四重に描かれていて、とても人間らしい気持ちに包まれるのです。その中でも、8歳で別れて以来一度もあっていないのに、強い絆で結ばれた友情が素晴らしく、何回も心の中でうるうるしていました。主演はとうとうここまで昇りつめた松本穂香。その幼なじみ役が奈緒。吉原の中で世間から隔離されて囲われている感じの雰囲気がよく出ていて、配役としてぴったりだったように思います。角川春樹最後の監督作ということで、かつて角川映画で活躍した薬師丸ひろ子、浅野温子、渡辺典子、野村宏伸といったキャストが顔を見せているのも、ニヤリとしてしまうところでした。

 

 

4 ミッドサマー

白い装束に身を包んだ一見友好的なカルトチックなスウェーデンのコミュニティにやってきた米国の若者たち。白だらけの中に普段着で過ごす違和感から始まり、何かが隠されている感が次第に露呈されて行く中、人が死に、そして消え、謎が深まっていきます。その中でやがて白装束を来て女性たちと踊る中で、勝ち残り女王に祭り上げられたヒロイン、すでに後戻りできない状況になっていくのです。見掛けだけの爽やかさと、裏に隠された異様さが混在し、自殺、殺人、強制性交、幻覚剤等々が飛び交う不気味さ。この手の作品としては長めの上映時間の中で、独特の恐怖感を演出し、どういう結末を迎えるのか想像もできず、最後まで目を離せませんでした。コミュニティ以外の人間、いわゆる外の血をいれるその目的を知った時、すべてが腑に落ちた、そんな気がしました。最後に迎えるカップルの対照的な結末は強烈、なかなかこの監督やりますね。面白かったです。

 

 

5 アルプススタンドのはしの方

野球場にいながら、グランドのプレーの様子は一切映されない、映るのは応援スタンドの端の方に座る、仕方なく応援に来た生徒たち。試合の様子は、彼ら彼女らの言動と他のアルプスの観客の様子、そして聴こえてくる音で想像するしかない。そういった意味ではかの青春映画といえるかもしれません。ただ実はそのはみ出したように端の方に座る高校生たちの会話が、高校生ならではの悩みを等身大に映し出し、リアルな青春を感じさせるのです。大会に出られなかった演劇部、挫折した元野球部、パーフェクトな吹奏楽部、学年一の秀才、それぞれに高校生なりの悩みや葛藤、挫折を抱えての観戦、しかし試合の内容よりも彼女たちの興味の中心は自分の子、そして好きな相手のこと。そんなバラバラな彼女たちでしたが、次第に試合の流れに引き込まれ、最後には一体となって大声を出して応援に熱中する姿は、よくあるスポーツ映画で弱小チームがチームワークによって勝ち上がっていくようなカタルシスさえ感じさせてくれます。上映時間も短めで、出演者もすべて無名俳優ばかり、しかしそれゆえに親近感を感じ、青春諸君を応援したくなる気持ちに自然になって来る、そんな愛すべき映画がこの『アルプススタンドのはしの方』なのでした。

 

 

6 ルース・エドガー

模範生徒としての姿、しかしその裏は実際にはとんでもない怪物ではないのか、そんな緊張感の中で、両親や教師の揺れる心理状態が刻一刻として変化していく様子が伝わってきて、なかなかスリリングな展開。人が殺されるどころか、肉体的に傷つけられるわけでもないのですが、サスペンス映画のような緊張感にあふれて面白かったです。小さいころにとんでもない経験をしながらも、米国に来て養子にもらわれ、幸せな家庭の中で、模範的な高校生を演じ続けることへのプレッシャー、そして周囲が期待する模範生徒像から少しはずれた一面をみせただけで、実はとんでもない怪物ではないかと疑心暗鬼になっていく大人。次第に明らかになっていく姿は、周囲の期待に応えようと自覚的に模範生を演じる外面と、理不尽な責めには反発するし、恋人とはセックスもする普通の若者。そんな心理サスペンスを盛り上げるのは、オクタヴィア・スペンサー、ナオミ・ワッツ、ティム・ロスといったベテランキャストの演技です。特に母親役のナオミ・ワッツの息子を信じる信じないの間で揺れる様子が、いつもながらのオーバー気味な表情で、観ている側にも心の内が透けて見えるようでした。

 

 

7 スキャンダル

実際の事件を脚色して映画にしている作品、こんなひどいセクハラが長年に渡って横行していたと思うと、なんともやるせなくなりますが、でもそれが事実なのでしょう。権力を振りかざして、仕事と引き換えに性的欲求を満たそうとする男が大会社のトップであり続けていたことで、女性たちにとっては本来の実力とは別のところで評価され、仕事を得たり失ったりしてきたという歪みを生んでいたことも、セクハラだけでなく、大きな罪と言ってもいいでしょう。そのセクハラに対して立ち上がる女性キャスターたちを、3人の女優が熱演しています。それぞれその立ち上がり過程は異なるものの、沈黙から転じていく様子には拍手を送りたくなるものがあります。結末はわかっていても、どのような過程でその結末に繋がっていくのか、社会的な立場の危うさ、マスコミとの確執などの問題もあって、スリリングで最後まで目を離せず、作品としても見応え十分でした。

 

 

8 幸福路のチー

幸福路に暮らすことから逃げ出したくて、米国に渡って、結婚もした主人公ですが、祖母の死で久しぶりに戻った祖国で、かつての友人や家族たちと接する中で、人生を見つめ直していくという、大人のためのアニメ映画です。幼少期から、小学校、高校、大学、そしてOL時代とかつて幸福路に暮らした時代を回想しながら、今の生活とを重ね合わせることで、自分が本当にいたい場所はどこなのかを改めて噛みしめ、新たな一歩を踏み出していくということでは、人生に迷った女性への応援歌のような作品ともいえるでしょう。さらに回想シーンでは、台湾の世相や社会的な事件を重ね合わせることで、台湾で育ち大人になった人たちにとっては、とても懐かしいものにもなったことでしょう。そして何よりも家族の温かさ、親子の絆というものの大切さ。台湾映画ではあっても懐かしさを感じさせながらも、優しく温かい気持ちにさせてくれる素敵な作品でした。

 

 

9 82年生まれ、キム・ジヨン

女性の社会進出が進んだ今でも、特に既婚女性にとって生きにくい瀬の中であることを浮き彫りにした作品です。出産や育児での離脱の懸念から重要なポストには選ばれず、子供のことで遅刻すれば結婚以前の仕事ぶりと比べられ、育児のためにキャリアを犠牲にしなければならないのは男性でなくいつも女性。一方で男性が育児休暇をとるものなら出世の妨げになるのは仕方ないことという考えがまかりとおっているところなどは、男性側からまた厳しいところであります。そういう意味で、なかなか成熟していない社会というものは、韓国も日本も似たようなものかもしれません。とにかくまだまだ男性よりも女性の方が、人生において何かを取ると犠牲にしないといけない何かが大きいということを、この作品の中で浮き彫りにされます。この主人公は育児のために仕事を犠牲にしたわけで、それが続くことによって、精神に異常をきたしていたのですね。しかも自分では気づかないのです。一方で両方をとろうとすると、家族などの周囲が犠牲になるか、或いは仕事も育児も中途半端になってしまうというのが、この映画の中で描かれている社会なのでしょう。男性女性関わらず、既婚未婚、子供の有無、勤務の有無やその時間に関わらず、自己実現が可能な社会であってほしい、であるようにしたいという多くの人の思いが伝わるような作品でした。

 

 

10 37セカンズ

障がい者の自立心と家族をはじめとする周囲との距離感、そんなことを考えさせてくれる素敵な作品です。まずなんといっても脳性麻痺で車いす生活を送る主人公を演じた加山明がとってもチャーミング。けっして美人とかいうわけではないのですが、笑ったときの表情がとても可愛らしく、周りの人がついつい助けたくなるのも納得の魅力なのです。そんな中で心配のあまりに過保護になり、常に目の届くところに置いておきたい母親と、健常者と同じような経験をしようと世界が広がり始め、自立心が強くなっていく娘、それぞれの思いのぶつかり合い。ともに気持ちが理解できるだけに、ちょっと切なくなってしまいます。健常者であったら普通にできることが制限されてしまうやるせなさ。一方で漫画家としての夢も持ち続け、そのために世界を広げようとする行動力は、その方法はともかくとして、一人の女性としても魅力的なのです。渡辺真起子や大東俊介演じる彼女の手助けとなる人々がまた素敵なキャラクターで、家出をした彼女を、生き別れの双子の姉とのタイでの面会にまでこぎつけるのですから、これを呼び込んだのもまた彼女の行動力とキャラクターゆえんでしょう。もし自分の代わりに姉が障がい者になっていたら…もし私が…と自問自答の末、障害が姉でなくて私で良かったという結論に至る心の優しさにも心を打たれました。演出的にも結構生々しいところもあって、冒頭に母親が主人公を風呂に入れるシーンなどは、障碍者とその家族のリアルを見せつけられる思いもするのですが、そのリアルがあってこそ、切実な障がい者の本音いうものもしっかり伝わってきたように思います。ラストシーンもまた未来に光が差すような心地いい場面となりました。