●チャン・イーモウ 監督映画 ベスト10 | 映画いろいろベスト10 + 似顔絵

映画いろいろベスト10 + 似顔絵

まったくの独断で選んだ映画10作品。
ペイントでの似顔絵もやっています。

チャン・イーモウ 監督映画 ベスト10

 

中国映画界の重鎮監督をとりあげます。

優しくて情にあふれる作品、

感情を激しく揺さぶってくる作品、

ユーモアにあふれる作品、

映像美に凝った作品、

と、作品ごとにいろんな色あいを見せてくれる監督さんです。

 

1 王妃の紋章

「HERO」や「LOVERS」あたりに不満を持つ私にとって、むしろこの作品は面白く見ることができました。出だしから、絢爛豪華な宮廷の様子に目を奪われます。美術を含む映像面では、最後までこのスケール感と美しさに圧倒されました。あまりに「くどい」と感じるような色使いも、この作品の内容にぴったりだったように思います。そしてその豪華な宮廷を背景に繰り広げられる王家の人間模様。これが格調高き上品な話かと思いきや、実にえげつなく、俗物的な物語なのです。様々な陰謀や思惑が入り乱れ、ドロドロのグチョグチョの人間関係。冷え切った夫婦仲、殺人、不倫、密会、嫉妬、地位欲、秘密の過去、そして…。とても品のよい話ではありません。しかし、そういったこそこそ、人ごとであればあるほど、興味をそそられるものにもなってくるわけで、その意味でこの映画は王家の人々のゴシップ映画というようなものともいえるのではないでしょうか。そこにスケール感ある戦闘シーンが加わることで、さらにエンタテイメント性が増し、見応えのある豪華絵巻として完成してくるわけなのです。クライマックスに向けた盛り上げ方もさすがでして、重陽の節句に何かが起こるぞ、起こるぞと序盤から散々匂わせておいて、観ているものの期待を否応がなく盛り立てます。その間にお膳立てをきちんと整えていき、いよいよその日を迎えるというところで、一気に決着をつけるという構成、なかなか巧みです。チャン・イーモウ的なエンタテイメント大作として、私には満足のできる映画でした。

王妃の紋章 

 

2 あの子を探して

田舎の素朴な子供たちを優しい目線で描いた素敵な作品です。けなげにまで-動機は不純としても-行方知れずになった生徒を探す代用教員の姿もまたいじらしく、惹きつけられました。

 

3 サンザシの樹の下で

ここまで奥手なヒロインというのも珍しいですが、それほどストレートな純愛でプラトニックな恋愛映画でした。愛し合うカップルのいずれかが若くして命を亡くすというのは、さんざん映画の中で作られてきた物語で、それ自体は「またか」という感じなのですが、名の売れた俳優を使わないで、ストーリーに合う俳優、特にヒロイン役の女優さんを配役できたことが、既視感をさほど感じさせない作品に仕上がった要因ではないでしょうか。ただしラブストーリーを盛り上げるという点では、距離感、そして時間の表現に不満は残ります。結果的に二人が会っている時間を繋げた構成になっているので、会えない時間の募る思いであったり、離れて暮らすもどかしさ、久しぶりに会いに行く時のはやる気持ちなど、そういた部分があまり描かれていません。それらをもう少し表現してくれれば、よりもっと二人の気持ちに近づけることができたのにと思うと、チャン・イーモウ監督にしてはやや惜しい気はしました。でも、好きですけれどね。

 サンザシの樹の下で

 

4 至福のとき

ほのぼのとしたユーモアにしみじみとした優しい気持ちを感じさせてくれる暖かな映画です。嘘だらけだけの男ですが、自分のための嘘がいつしか盲目の少女の気持ちを守るための嘘になっているのです。貧乏でどうしようもない人達ですが、心の底は思いやりであふれている、そんな人々を暖かい目で描いていました。それに引き換えデブの親子ときたら、いかにも性格の悪そうな人相。ただ、先に光が見えないまま終わってしまったラストは実にやるせないです。一人歩いていく盲目の少女、病院のベッドで意識のないまま眠り続ける中年男、その双方の未来は果たして…

 至福のとき

 

5 菊豆〈チュイトウ〉

かなり年上の男に嫁いだ主人公菊豆と、男の甥との秘めた関係から始まり、物語はその甥との間の息子へと繋がってきますが、とにかく最後がかなり衝撃的。実の親と知ってか知らずか、殺してしまう息子は生まれた時から不気味で、観ていてもどんな感情なのかまったく分からないのです。最初から最後まで悲劇の連続で、重い内容なのですが、ついつい引きつけられる不思議な魅力を持った作品でした。

 菊豆

 

6 初恋のきた道

チャン・ツイーを世に送り出した作品です。とにかく素朴な田舎の18歳の娘を演じたチャン・ツィーにつきます。彼女の恋する気持ちを映像で見事に表現したチャン・イーモウの力も大きいでしょう。ただ恋がわりと簡単に成就してしまったり、3年後の再会もあっさりと説明だけで終わってしまったりと、恋のもどかしさやせつなさを盛り上げる部分を敢えてさらりと描いてしまったことには、ちょっと物足りなさも。

 初恋のきた道

 

7 秋菊の物語

何気ない日常のちょっとした喧嘩が、意地の張り合いから裁判沙汰に発展し、最後は思わぬ逮捕という事態にまでなってしまうという、ある意味でブラックユーモアととも捉えることができるような物語を、素朴な田舎の生活と街の生活との対比の中で、ドラマティックというよりは淡々と描いています。コン・リーが純粋だけれど頑固な田舎の若妻を好演していますが、なんといっても最後の最後にくる意外なオチは悲しいのかやるせないのか、はたまたおかしいのか、とにかく皮肉なものになっていて、意表をつかれました。

秋菊の物語 

 

8 妻への家路

20年もの間離れていたことで、自分の顔をすっかり忘れてしまった妻に対し、病気が進んでいく様子に、なんとかしなければと娘と仲直りさせる手紙を書いて読む夫。そうして自分の事を思い出してもらうことはあきらめ、近くで見守り続ける形を選んだ夫、その心を妻は知ることもないまま、それでも夫が来るのを待ち続けるせつなさ。けっして交わらないながらも、それぞれがお互いを思い続けるという、これもひとつの夫婦愛の形なのでしょう。自分と同じように長い間当局に捉えられた男の妻の様子を見て、妻に対して自分に起きたことの重さを感じたのでしょう。そこから去る姿に寂しさを感じました

 

 

9  SHADOW 影武者

スケール感の大きな金のかかった映画という印象です。王と考えを異にする家臣、そしてその影武者、家臣の妻…それぞれの思いが複雑に絡み合って、何が本音で真実で、何が建前で嘘なのか、虚々実々が交錯しての争いの中で、裏切り裏切られが展開される歴史劇となっています。ただドラマの演出しては、そのわりに淡々と進行していく感もあり、さほどドラマに引き込まれていきません。作品全体のスケール感に比べて、ドラマの演出の仕方が地味なのが、この手の対策に慣れていないところが出てしまったのかもしれません。もっと面白くできた題材だけに惜しい気はしました。

 

 

10 単騎、千里を走る 

まさに、チャン・イーモウが高倉健で撮るとこんな映画になるのだろうなというように仕上がってます。中国側の俳優はみな素人ということで、それがいい方に出たように思います。現地の案内人、受刑中の舞踊家、それぞれ味のあるキャラクターが顔や言葉にも表れていますが、特に子供が良い。イーモウ監督は、子供をとるのが上手で、この作品でも重要な役割をしめす子役に関して、役にぴったりな雰囲気の子を見つけ上手に使っています。物語自体は父親と息子の仮面の下の本当の心をテーマに、日とから中国へと舞台を移してじっくりと進んでいきます。その中で中国の壮大な景色がなんともいえず心地良く、癒される気持ちにはなりました。