いい壁もある | この世は学校 人生は正しいものを探す旅

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生まれてこの方、人を殴った記憶がないのだが、

殴られたことは何度かある。

 

 

東京の大学卒業して、地元の安定企業にUターン就職したが、

バブル絶頂期で、夜の世界の面白さにはまり、

免疫の全くない私は、色んな店のマスターやママに

面白がられたのはいいのだが、当然昼の仕事は無茶苦茶になり、問題起こして最後は懲戒解雇。

 

上京して、当時絶大な人気があったポーカー屋に勤める。

そこのマスター、くまさんと呼ばれていた。

くまさん、どう考えても裏の世界の人なのだが、

思いやりのかたまりみたいな人だった。

回りは金に物言わせて、好き勝手する連中なのだが、

くまさんだけは、飲みに行って、

隣に、器量の悪い女の子が座っても、常に優しく接するので、

店中の女の子に好かれていた。

 

時給8000円で出勤したら、

翌日くまさんが「くり、今日から1万円にしてやる」

その翌日「今日から1万2千円にしてやる、

その代わり、俺はもう店出ないから。なんかあったら、

俺の名前以外は絶対出すな」

昭和バブルあるあるかも。

それにしても両替金百万くらいあるのに、

よく知らない20代の若造1人に任すかね!

 

半年位して、新宿に支店を出す話が起こった頃、

本能的に身の危険を感じて、離れていった。

 

その頃大学時代の友人のママが、雀荘を始めるから、

お前やらないか、と誘われ板橋に住むようになる。

こんなのばっかり。

 

昭和の雀荘にトラブルは当り前。

なにしろ、店のルールもちゃんとしてないのだから。

 

客同士の喧嘩が始まる。

頭でっかちの私は、判定を下すのが好きだったようで、

悪さ比較は7対3だな。と思ったら、

悪さ7の客に「あなたのほうが悪い」と言うレベルだった。

当然「うるせえ」と、悪さ7にぶん殴られた。

 

全く同じパターンで2度殴られた。

するとママが入ってきて、喧嘩は収まる。

さすがに殴られたら20代の小僧でも切れているので、

両方をみんなが取り押さえる。

 

ただこれは教訓があった。

止めに入った従業員を殴った客は、さすがにバツが悪い。

 

1週間後。

 

ママ「くり、○○さんがね、店、来たいみたいなのね」

くり「ふーん」

ママ「悪いことしちゃったみたいに、言ってるらしいの」

くり「・・・謝ってるんだったら、別にいいよ!」

多分、口をとんがらせながら言ってたと思う。

ママ「ホント!よかったー!」

 

殴られたほうも、1週間もたてば悔しさも薄れている。

 

二人ともほぼおんなじ再会。

ドアを開けて満面の笑顔で、

「くりちゃーん、こないだは悪かったな」

前は、「おい」「くり」「おまえ」だったのに、

その日から呼び名が「くりちゃん」に変わった。

 

それだけではない。

それからは、店で私が変な客に困っていると、

二人とも助けてくれるようになったのだ。

「なんだ、コラ!くりの言うこと、ちゃんと聞けよ!」

「お前なー、店に迷惑かけてんじゃねーぞ!」

うーん、ちょっと怖いけど、頼もしかったのは確かだ。

 

そのときのことは勉強になった。

どっぷりの人間関係は、意外にあまりよくない。

表現は難しいが、その時は、いい壁ができたって感じ。

さらせば、いいってもんでもない。

お互いに秘密があったって構わない。

全てを知ろうとするのは、驕りだと今も思っている。