私にとって、クリスマスイブの決め事は、
サンタさんへ手紙を書くことだった。
何を書いていたかは、うろ覚えだが、
こんな本が読みたい、とかだったと思う。
目覚めると、童話か伝記物の本が一冊と、
定番の、お菓子がいっぱい詰まった
サンタの長靴が枕元に必ずあった。
私の好みを、サンタが知っているのが嬉しかった。
山口県の小郡という、可愛い町に住んでいた。
中1の夏に母が亡くなった。
自動車会社に勤める父と二つ上の兄と三人暮らしになった。
父はその頃昇進し、翌年には隣町に自宅を建てた。
今考えると、頭の中は色んなことで
いっぱいになっていたと思う。
そしてその年のクリスマス。あの事件は起こった。
クリスマスイブ。父が帰ってきた。
兄と私にプレゼントを渡した。
あいかわらず、ほぼ無言である。
父からクリスマスプレゼントを貰ったのは、
その日が初めてだった。
びっくりしたけど嬉しかった。
そして毎年のルーティーン。
サンタさんへのお手紙を書いて、祈るように眠る。
朝が来た。
「 ! 」
サンタの贈り物がない!
「にいちゃん!」
「なんだ」
「大変だ!サンタが何も置いてない!」
「きのう、もらったじゃん」
ほんの数秒の間に、サンタ関連の出来事が、
走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
サンタが置いてくれた物とそっくりだった、
スーパーで売っていたサンタの長靴。
ポプラ社という実際に存在する出版社の本。
サンタを信じている主人公のアニメ番組。
なんでこんな当り前のことが、
ストーリーになるんだ?と不思議に思っていた。
私のヒーローが消えた。
大事故に遭うと、前後の記憶が吹っ飛ぶらしい。
私も中1の三学期のことは何も覚えていない。
今になってみると、サンタを中1まで信じていたことを、
そんなに恥ずかしいとは思っていない。
ただ
まだ自分以外にそんな人に会ったことがない。
聞いたこともない。
だいじょうぶか。
あの事件がなかったら、
いったい私はいつまで信じていたのだろう。
「高3まで、サンタいると思ってました!」
は笑えなくて、引かれるのではないか。
ここまで書いて、ふとネットで検索してみた。
「いたー!」
中3男子。うーん、いいねえ。マックスかも。
ヤフー知恵袋でのママの悩み相談。
「受験も終わってホッとはしているんですが、
さすがに、この年齢でまだ
サンタを信じているのが心配で・・・」
それは、そうでしょうね!