「ターミナル・エクスペリメント」/魂波(ソウルウェーブ)の到来 | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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ロバート・J. ソウヤー, Robert J. Sawyer, 内田 昌之

ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)


1995年のネビュラ賞受賞作ってことで、思いっきりSFなのですが、これは面白かったー!(おっと、今、ネビュラ賞を見てたら、でもそういえば、「くらやみの速さはどれくらい 」も受賞作でありました。あまり気にしないで読んでたけど、確かに、設定はSFだったな…)

生物医学工学を修めたピーター・ホブスンは、学生時代に関わった少年の脳死臓器移植における経験から、常々、ある疑問を持っていた。それは、脳が完全にその機能を停止するのはいつなのか?、ということ。ピーターには、脳死判定基準が十分なものだとは決して思えなかったのだ。

生物医学用機器を扱う会社を設立したピーターは、その長年の疑問に答える装置の開発に成功する。それはスーパー脳波計とでも言うべきもので、十億を超えるナノテク・センサーによって、すべてのニューロンの電気的活動を把握することが出来るのだ。

さて、実際にこの装置を死にゆく人たちに装着したところ、ピーターは驚くべき脳の信号を検出する。それは、魂波(ソウルウェーブ)とでもいうべき存在で、死の瞬間にこめかみの方へ向かって移動し、そこから信号は検出されなくなってしまう。つまり、ピーターは、人の死の瞬間に、何かが外へ出ていくという現象を捉える事に成功したのだ。

死という現象を捉える事に成功したピーターは、十代からの親友にして、ソフトウェア開発の天才、サカール・ムハメドの助言により、生命の誕生や動物の魂についても、この装置の応用を進めていく。一連の発見は、宗教学的なセンセーションを始め、ピーターの周囲に様々な影響を及ぼすのだが…。

ピーターのそれまでの家庭生活は、学生時代からの恋人であるキャシーとの結婚以来、しごく満足のいくもののはずだった。ところが、装置の完成と時をほぼ同じくして、妻、キャシーの同僚との不倫が発覚する。ピーターはキャシーを深く愛していたのだが、キャシーにはどこか不完全なところがあるようで…。それはキャシーの生い立ちとも無縁ではない。

サカールの人工知能会社では、ピーターが開発した装置との組み合わせにより、人間の脳の完全なる複製を作ることが出来るようになっていた。ピーターとサカールは、「死後の生」を知るために、ピーターの脳の複製を作り、更にその複製に対してとある処置を施すことにした。一つは肉体の感覚から完全に切り離されたもの、いわば死後の生を生きるシミュレーション、”スピリット”。もう一つは老い、衰えなどから切り離され、肉体的に不滅の存在だと自覚しているシミュレーション、”アンブロトス”。更に三つ目はオリジナルから変更を加えないシミュレーション、”コントロール”。ピーターとサカールは、これら三つのシムたちと会話をし、彼ら三人を観察し、それぞれの特徴を掴んでいくのだが…。

予期されざる殺人が起き、これら三人のシムたちのうち、誰かがピーターにとって都合の悪い人物を殺したことが明らかになる。一体、誰が殺人を犯したのか??

あらすじはざっとこんな感じなんだけど、死とは何か、生とは何か、という一種哲学的な話を持って来つつも、物凄くしっかりエンターテインメントしているのです。一体、どのシムが殺人を犯したのか?、というミステリ的要素もあるしね。さらに、長い年月を共にした(する)夫婦の愛、親子の関係なども書き込まれている。あと、いいところは基本的に明るいところかな。なんというか、敗者復活的な要素があるところがいいな。

SFであっても、人物造形がしっかりしているし(妻、キャシーはちょっと甘いか?という気もするけど)、彼ら彼女らの感情もしっかりと描き込まれているので、楽しく読むことが出来ました。ここ数年のうちでは、こんな装置は実現出来ないとは思うけれど、いつかこんな装置が出来たら、やっぱりセンセーショナルだろうなー。

■SF苦手な私でも読めたよ!、な有名SF作品へのリンク■
・ロバート・A・ハインライン, 福島 正実 「夏への扉
・フィリップ・K・ディック, 浅倉 久志 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
ちょっと違う気もするけど…
・アン・マキャフリー, 酒匂 真理子「歌う船