「やがて目覚めない朝が来る」/やがて訪れる終末に向けて | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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大島 真寿美

やがて目覚めない朝が来る


舟と離婚した、信子と有加の母子は、舟の生母である「蕗さん」が住む洋館に転がり込んだ。有加にとって祖母にあたる蕗さんは、「おばあちゃん」ではなく、どうしたって「蕗さん」なのだった。

高名な舞台女優であった蕗さんは、三十五歳の時に秘密裏に出産した。助けてくれた友人たちにも、相手の名を明かすことのなかった蕗さん。息子、舟は蕗さんを母と呼ぶこともなく、少々歪な形で成長した。ところが蕗さんの相手、「先生」が舟を認知して亡くなる直前、息子、舟の存在が世間にばれ、また先生の死と同時に、蕗さんは惜しまれつつも電撃的に引退してしまう。

有加が生まれるもっと前、蕗さんの前半生は、かようにスキャンダラスでもあったけれど、有加たちが転がり込んでからはその生活は穏やかなもの。訪れるのは昔からの友人、知人たち。蕗さんの所属事務所にいた富樫さん、芸能記者だった田幡さん、衣装デザイナーのアシスタントだったミラさん、建設会社の会長の一松さん…。有加は大人たちの話を聞くともなく聞くうち、自分の周りの様々な事情を知るようになる。

大人の中で育つ子供の哀しいところは、彼ら彼女らが、必ず誰かを見送らねばならないこと。そもそも母・信子の両親は、彼女が幼いうちに事故で二人ともが亡くなっていたり、時に番狂わせがあったりもするけれど、有加はそうしてそれぞれに味わい深かった人たちを見送っていく。みな、それぞれのやり方で、「目覚めない朝」を迎えるのだ…。

思い出話はその人がいなくなれば消えていってしまう。その時、その場所で、誰が過ごしたのか、何を話したのか分かる人はいなくなっていく。それは、でも、それでいいのだ。間違ったと後悔しても、人生を繰り返したところで、その人の分の中で、きっとまた同じ行動をとるのだろう。とにかく、確かなのはやがてその日はやって来るということ。後半は、有加自身の人生もさらりと重なり…。

やがて来る終りに向けて。 それは誰にでも平等に訪れるものではあるけれど、いつやって来るものかは分からない。それでも、後悔のないように。途中からはどう考えても、この愛すべき人たちを見送らねばならないのだなぁ、と胸が詰まる思いがしたけれど、良い読書でありました。